表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天のカリカチュア  作者: 綾崎 伊志
 第7章 孤独
91/245

 5

 ナルシアは、木陰から晴れ渡った空の下へ移動すると、歩き出した。


 峡谷は広かったが、見通しが良いせいで、ロック達はすぐに見つかった。何やら動いている人影が、遠くに見える。ナルシアが近づくと、大柄な影か、こちらに向かって大きく手を振った。


 辿り着くと、そこにはかなり大きな筏が横たわっていた。荷物を置いても、四人、悠々と乗れそうだ。たくさんの流木を、細く切った麻の布でしっかりと編み込んであり、その作りは本格的なものだった。


 筏の傍らで、彼等は、何か緑のような物に口をあて、空気を吹き込んでいる。


 ナルシアが前に立つと、パロディアスは顔を上げ、袋の口を手で押さえた。


「これは、ナルシア様。お加減の方は大丈夫ですか?」


 にっこりと笑うパロディアスに、ナルシアは悟られぬよう微かに、ふっと息を吐いた。そして、笑顔を作った。


「あぁ、ありがとう。だいぶ良くなったよ」


「それは良かった。アーク・レイの荒野は厳しい暑さでしたからね。小まめに休憩を取るべきでした」


 パロディアスはそう言うと、熱光石の上に置かれた鍋から、木の棒を取ると緑色の袋に何かを塗りつけた。


「それ、何をしているんだ 」


 ナルシアは、地面に散らばる袋を一つ取った。ぶよぶよとした表面は薄く伸びて、空気をしっかりと包んでいる。手のひらに乗せると、軽く弾んだ。


「あぁ、これは筏の浮力になるものを作っているんですよ。先日、食べた獣の皮をなめして取っておいたんです。ゴムのように弾力がありましたから、何かに使えるかもしれないと思いまして。それを、粘着性のあるイオーネという樹の樹液を煮詰めたものを糊にして、空気の入った袋にしてたんですよ」


「へぇ…、凄いな」


 思わず感嘆の表情を浮かべるナルシアに、カルテロは誇らし気に胸を叩いた。


「そうでしょう。知識と体力。これがあれば、何でも出来るもんです」


 カルテロは得意そうに言うと、大口を開けてガハハと笑う。


「年の功、ってやつだな」


 渓谷に響く自分の大声に、カルテロにはロックの呟きは聞こえなかったようだ。


 一枚分の麻の布を裂き、袋をくくりつけると筏は出来上がった。紐を編み込んだものをロープにして筏の端と結び、反対を河のほとりの樹に巻き付ける。それから、筏の四方をそれぞれ持つと、河の上に浮かべた。


 激しい水流に、筏は今にも押し出されそうだ。四人は荷物を置くと、急いで筏に乗り込む。ぐらぐらと、身体は不安定に揺れ、とても立っていられずナルシアは座り込んだ。


 ロックが短剣で留めて置くための紐を切ると、筏は勢い良く流れ出した。漕ぐ必要もなく爽快にリーネ河を運ばれてゆく。


 風景が、移ろう。ナルシアが振り返ると、巨大な滝はみるみるうちに遠ざかっていった。


 筏は、緩やかな下り坂をたどっていたが、ある付近に差し掛かると、突然、高い段差を滑り落ちた。


 ロックは顔を曇らせると、カルテロを見た。


「おっさん。これ、大丈夫なのかよ。サウゼンの街まで、持つのか?」


 訝しげな声を、意に介さぬように、カルテロは胸を張った。


「心配するな。ちゃんと止め木もしてあるだろう。ちょっとやそっとぐらいの衝撃、大丈夫のはずだ」


 そう言い放った途端、岩にぶつかり、筏は激しく揺れる。ぐらりと身体がふらつき、ナルシアは慌てて筏にしがみついた。落ちたら、この急流の中、どこまで流されるかわからない。そこで、ナルシアはふと気付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ