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足を暫し止め、四人は塔を見つめた。
その時、ナルシアは、耳に違和感をおぼえた。静かな荒野のどこからか、地響きのような音が聞こえてくる。それは微かな、ほんの僅かな音だった。
「何か、変な音がしないか?」
ナルシアは、囁くように呟いた。ロックはその言葉に、変なものでも見るかのような顔をして、ナルシアを見つめた。
「音? そんなもの何も聞こえないぜ。空耳じゃないのか?」
そう言いながらも、ロックは耳をすましてみてはいるが、やはり何も聞こえないといったように首を振った。
幻聴? だが、音はいつまでも耳をとらえて離れない。ナルシアは、自分でも気付かないうちに、音の鳴る方へ足を進めていた。ナルシア様、と慌てる声が背を引き止めるが、その地響きのような音が無性に気になってしょうがなく、足は止まらなかった。
一歩、また一歩と足を進めるうちに、音は次第に明確になってくる。微かだった音量は、ドッ、ドッ、ドッと耳を圧迫するかのように膨れ上がっていた。
そして、その音の正体が姿を現すと、ナルシアは眼を見開いた。
雄大な広さの滝だった。ナルシアの立つ大地から下へ、膨大な量の水が飛沫をあげて流れ落ち、一面が白く染まっている。全てを押し出し、飲み込んでしまいそうな力強い脈動。飛沫は一つ一つが光に煌めき、滝の上空に鮮やかな七色の橋を造り出していた。
地上に舞う、神のカーテンだ。だが、その壮大な滝ですら小さく見えるほど巨大な渓谷が足元から広がっていた。
ナルシアは、胸がトクンと高鳴るのを感じた。何故だか解らないが、じんわりと眼頭が熱くなる。美しい、ただそれだけで、どうしようもなく泣きたくなった。赤ん坊のように、意味もなく、理由も解らずに、ひたすら泣き叫びたい。
心が動き出す。跳ねるように、うねるように、吹きさぶように。形を持たない゛何か″が、身体中を駆け巡ってゆくのを、ナルシアは感じた。
だが、突如、刺すような頭の痛みに襲われ、ナルシアはこめかみを押さえた。血の気が、急激に顔から失われていく。意識に霞がかかり、身体がふらついた。
「これは、凄い。なんという大自然だ」
気が付くと、自分を追ってきたカルテロ達が横に並んでいた。
「まるで、現実にいるとは思えないな。゛ラナテナ″を創り上げた、神の息吹が残されているみたいだ」
眼を細めながら、ロックは呟く。その言葉に、パロディアスは地図を握りしめながら答えた。
「到底、信じられぬような景色ですが、間違いなく現実ですよ。滝の下を流れるのは、おそらくリーネ河のはずです。河沿いに歩いていけば、アーク・レイまで後少しで着きますよ。とりあえず、この渓谷を降りる道を探しましょう」
その言葉に皆、景色の前から離れて行くが、ナルシアは動けなかった。少しでも、振動を受ければ、胃は食べた物を全て吐き出してしまいそうだった。
「ナルシア様? どうかなされましたか?」
止まったままのナルシアに、カルテロが振り返る。ナルシアは喉元を押さえ、必死で平静を保つと、首を小さく振って、足を一歩踏み出した。
あっと思った、次の瞬間には、既にナルシアは暗闇の中に落ちていた。




