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「何を言う。だいたい、お前がいつも、人に起こして貰っているのが悪いんだろう。おかげで、こっちは習慣づいてしまったではないか。だから、私が、こんな失態をする羽目になったんだ」
その言い草に、今度はロックが眉間に皺を寄せる。
「それを言うなら、いつも、人の頭を叩いてるから、こういう眼に合うんだ。毎度、毎度、あんた、俺の頭を南瓜とでも間違えてんじゃないのか」
「お前は、口で言ってもわからんだろうが! 優しく言われたいのなら、少しは人の言う事を素直に聞かないかっ」
二人の動く口を、ナルシアが交互に見ていると、パロディアスが両の手をパンッと叩いた。
「さぁ、お二人方。喧嘩をなさってる暇はありませんよ。ナルシア様が起きられたのならば、早い所、出発いたしましょう」
にこやかに笑うパロディアスに、二人はしぶしぶながら、それに従った。そろって、ぶすくれた顔をして、外へ出てゆく。
「ナルシア様。私達は外で待っておりますので、準備ができたら、出てきてください」
深々と一礼すると、パロディアスは、二人の後を追った。
慌ただしい騒動が収まった静けさの中で、ナルシアは寝癖のついた髪と撫で付けた。クスリと、笑みが浮かぶ。だが、ナルシアは眼を伏せると、それを手で押さえつけた。
洞穴の外に出ると、気持ちの良い晴天が広がっていた。さんさんと降り注ぐ太陽の下、カルテロは腕を組み遠くを眺め、パロディアスは手に地図を広げている。そしてロックは荷の詰まったリュックに腰を掛け、暇そうに欠伸をしていた。
「遅くなって、すまない」
ナルシアに気付くと、パロディアスは地図を閉じ、口角をぐいっと大きく上げ、にっこりと笑った。
「いいんですよ。日中、長く歩きますのでね。ゆっくり休んで置かないと、体力が持ちませんから」
さぁ、行きましょうと、パロディアスが言うと、皆、歩き始めた。
風のない荒野に、剥き出しの太陽がぎらついている。雲は空に留まり、その下の影はピクリとも動かない。厚く垂れ込めた雲の影から出ると、途端に陽が痛いくらいに肌を射してくる。
ナルシアは、長袖のシャツを捲りあげたくなったが、この暑さで素肌をさらせば、日焼けを通り越して火傷してしまうので、ぐっと我慢した。
まるで、熱窯の中にでもいるみたいだった。灼熱の太陽に温められた空気が、揺らめいている。ナルシアは、頭がくらくらする感覚を堪えて、方位磁石を見ながら歩くパロディアスの後を追った。
「パロディアス。後、どれ程でサウゼンの街に着きそうなんだ?」
暑さと、行けども変わりばえのない景色にうんざりしたのか、カルテロは隣を歩くパロディアスに声をかけた。
「そんなに遠くはないと思うのですが……。何しろ目印がありませんからね。正確な位置は掴みにくいのですが。リーネ河という、大きな河が見えてくれば、そこからは近いですよ」
「そうか。早めに着いてしまいたいところだ。レイダートの連中も、いつ、襲ってくるか解らぬしな」
「そうですね。我々の足取りは、ヴィルズレアの騒動で、掴みにくくはなっているとは思いますが」
けど、とロックがそれに続けた。
「ローラー作戦でも取られて、しらみ潰しに探されたらやっかいだ。最も、光脈の調査が終わっていなければ、そんな人員もさけないだろうが。どっちにしろ、こんな所にいたら情勢も掴めない。さっさと、着いてしまうに越した事はないな」
カルテロは、うんざりとした顔をした。
「ローラー作戦か……。いかにもエリス女帝のやりそうな事だな。強引で、力任せ。そして、粘着質な異常なまでの光脈への執念。あの女は、力こそが全てだと思いこんでおる!」




