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天のカリカチュア  作者: 綾崎 伊志
 第6章 天へと続く塔
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 9

「何を言う。だいたい、お前がいつも、人に起こして貰っているのが悪いんだろう。おかげで、こっちは習慣づいてしまったではないか。だから、私が、こんな失態をする羽目になったんだ」


 その言い草に、今度はロックが眉間に皺を寄せる。


「それを言うなら、いつも、人の頭を叩いてるから、こういう眼に合うんだ。毎度、毎度、あんた、俺の頭を南瓜とでも間違えてんじゃないのか」


「お前は、口で言ってもわからんだろうが! 優しく言われたいのなら、少しは人の言う事を素直に聞かないかっ」


 二人の動く口を、ナルシアが交互に見ていると、パロディアスが両の手をパンッと叩いた。


「さぁ、お二人方。喧嘩をなさってる暇はありませんよ。ナルシア様が起きられたのならば、早い所、出発いたしましょう」


 にこやかに笑うパロディアスに、二人はしぶしぶながら、それに従った。そろって、ぶすくれた顔をして、外へ出てゆく。


「ナルシア様。私達は外で待っておりますので、準備ができたら、出てきてください」


 深々と一礼すると、パロディアスは、二人の後を追った。


 慌ただしい騒動が収まった静けさの中で、ナルシアは寝癖のついた髪と撫で付けた。クスリと、笑みが浮かぶ。だが、ナルシアは眼を伏せると、それを手で押さえつけた。



 洞穴の外に出ると、気持ちの良い晴天が広がっていた。さんさんと降り注ぐ太陽の下、カルテロは腕を組み遠くを眺め、パロディアスは手に地図を広げている。そしてロックは荷の詰まったリュックに腰を掛け、暇そうに欠伸をしていた。


「遅くなって、すまない」


 ナルシアに気付くと、パロディアスは地図を閉じ、口角をぐいっと大きく上げ、にっこりと笑った。


「いいんですよ。日中、長く歩きますのでね。ゆっくり休んで置かないと、体力が持ちませんから」


 さぁ、行きましょうと、パロディアスが言うと、皆、歩き始めた。


 風のない荒野に、剥き出しの太陽がぎらついている。雲は空に留まり、その下の影はピクリとも動かない。厚く垂れ込めた雲の影から出ると、途端に陽が痛いくらいに肌を射してくる。


 ナルシアは、長袖のシャツを捲りあげたくなったが、この暑さで素肌をさらせば、日焼けを通り越して火傷してしまうので、ぐっと我慢した。


 まるで、熱窯の中にでもいるみたいだった。灼熱の太陽に温められた空気が、揺らめいている。ナルシアは、頭がくらくらする感覚を堪えて、方位磁石を見ながら歩くパロディアスの後を追った。


「パロディアス。後、どれ程でサウゼンの街に着きそうなんだ?」


 暑さと、行けども変わりばえのない景色にうんざりしたのか、カルテロは隣を歩くパロディアスに声をかけた。


「そんなに遠くはないと思うのですが……。何しろ目印がありませんからね。正確な位置は掴みにくいのですが。リーネ河という、大きな河が見えてくれば、そこからは近いですよ」


「そうか。早めに着いてしまいたいところだ。レイダートの連中も、いつ、襲ってくるか解らぬしな」


「そうですね。我々の足取りは、ヴィルズレアの騒動で、掴みにくくはなっているとは思いますが」


 けど、とロックがそれに続けた。


「ローラー作戦でも取られて、しらみ潰しに探されたらやっかいだ。最も、光脈の調査が終わっていなければ、そんな人員もさけないだろうが。どっちにしろ、こんな所にいたら情勢も掴めない。さっさと、着いてしまうに越した事はないな」


 カルテロは、うんざりとした顔をした。


「ローラー作戦か……。いかにもエリス女帝のやりそうな事だな。強引で、力任せ。そして、粘着質な異常なまでの光脈への執念。あの女は、力こそが全てだと思いこんでおる!」

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