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微睡みが、途切れる。薄眼を開け瞬きをすると、頭まで被った編み目の粗い麻の布の白さがちらついた。
もう朝か、起きないと。頭では解っているが、身体がそれを拒否する。
後、もう少しだけ。もう少し寝たら、眼を覚まそう。眼を閉じて、再び、微睡みに落ちようとしたその時、後頭部に衝撃を感じた。痛みと驚きとで、意識は急激に覚醒した。
「こら、ロック。お前は、また、いつまで寝てるつもりだ。いつも、いつも、起こす方の身になってみろ。たまには自分で起きたらどうなんだ」
続いて怒声。それから、身体に掛けられた布を無理矢理、剥ぎ取られる。振り向くと、しかめっ面をしたカルテロの顔が現れた。そして、眼が合うと、カルテロの顔は、さぁっと音を立てるかのように青ざめた。
「こ、これは……」
カルテロの声は、上擦った。
「おはよう。……寝坊したみたいだね。昨日、なかなか寝付けなくて……」
身を起こし、欠伸まじりに゛彼″がそう言うと、カルテロは酸欠をおこした魚のように、口をパクパクとさせた。
「ナルシア様! も、申し訳ありません。てっきり、ロックの奴だと。ナルシア様の頭をぶつなど、私はなんと失礼な事を」
しどろもどろになるカルテロに、ナルシアは吹き出した。
「カルテロ、お前も変わっていないな。別に、頭を叩かれたぐらい、どうって事はない。おかげで眼が覚めたよ」
「ですが……」
それでも、カルテロが食い下がろうとすると、ナルシアは呆れたようにため息をついた。
「お前は、いつも僕に対して大袈裟過ぎるんだ。頼むから少しは普通に接してくれ」
ナルシアのその言葉に、カルテロは戸惑ったような、しかし、何処かほっと安心したような表情を浮かべた。
「そうですか……。しかし、普通と言われましても、どのように致せば……」
「簡単じゃないか。お前が、ロックと接するようにすればいいんだ」
ナルシアがそう言うと、カルテロは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。それも、かなり苦い虫だ。
「滅相もない事! ナルシア様と、ロックと同じように接するなど……。性格!気性!心根!あやつとナルシア様とでは、その造りが違います」
カルテロは、意気込んで言ったかと思うと、ふっと顔を曇らせた。
「あの……、このことは、ロックには内密に願いたいのですが……。あやつに知れたら、何と言ってからかわれるか、わかりませんので」
「それは、いいけど……。でも……」
ナルシアは、カルテロの背後に眼をやると、指を差した。
「もう遅いんじゃないか? さっきから、あそこにいるから」
カルテロは、ギクリとして振り返った。
洞穴の入り口には、口を押さえ、肩を小刻みに震わせるロックの姿があった。その半歩、後ろで、パロディアスが困ったような笑みを浮かべている。
「ロック、お前、いつからそこに!いや、それより、どこへ行っていたんだ」
叫ぶカルテロに、ロックは息が詰まったかのように笑い出す。代わりにパロディアスが、それに答えた。
「私が、ロック殿に頼んで、夜露の溜まった窪みまで行って水の補給を手伝って貰っていたんですよ。今朝は、随分と早く、お起きでいらしたので」
「なんと……。そうだったのか……」
ようやく笑いの収まったロックは、呆然としているカルテロに向かって言った。
「おっさん。あんたも、大概、そそっかしいよな」
ニヤニヤと笑うロックに、カッと頭に血が昇ったカルテロの顔が赤く染まる。




