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「すごい……。僕の時は果物一つ、百ルドって言われたのに」
「あんた、よそもんのうえに、大人しそうな顔してるからな。つけこまれたんだよ」
財布を取り出す前から、すでに゛ふっかけ″られていた事に気付き、ナルシアは苦笑した。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
ナルシアがそう言うと、少年は少し決まりの悪そうな顔をした。
「いいんだ、お礼なんて。でも、その代わりに、少し食料を分けてもらえると、いいんだけど……」
「あぁ……、ごめん。どうせ、一人でこんなに食べきれないし、半分あげるよ」
その言葉に少年は、ほっとして気の緩んだような笑顔を見せた。よく見てみれば、少年は服を着ているというより、ぼろ布を纏っているような粗末な格好をしている。剥き出しのの手足は、泥で汚れ、すり傷の跡か無数に残っていた。
「あんた、食料も買えないくらいだから、寝床もまだ決まってないんだろ。俺が、いい場所、教えてあげるよ。そこで一緒に、これを食べよう」
ルカと名乗る少年に、ナルシアは、見晴らしの良い高台の丘へと連れてこられた。ルカは大きな樹の前で立ち止まる。樹には、大人一人ぐらいなら充分入りそうなくらいの大きな虚が空いていて、てっきり宿屋を紹介してもらえると思っていたナルシアは面食らった。
「もしかして、ここで寝るのか?」
「そうだよ。俺のとっておきの場所なんだぜ。俺は他にも寝る場所、知ってるし、あんたにゆずってあげるよ。樹は温かいし、誰もこんな野原にはやってこないから安全だし。何より金がかからない」
あっけらかんと笑いながら、ルカは盛り上がった樹の根に腰かける。ナルシアも同様に、ルカと向かい合いに座った。眼の前の少年と分け合った食料の中から、ナルシアは果実を一つ取り、かじる。柔らかくなりすぎた果物は舌の上でくずれ、どろどろと不快な舌触りだった。それでも、空腹が満たされるという安心感に、ナルシアは息をついた。
ルカは飢えた獣のように、果物を貪り食べている。果実を握るその手は、骨が浮かび上がる程、痩せこけていた。
まるで野生児だ。ナルシアは訝し気に思いながら、うっすら眼を細めた。
「君は、家族はいないのか?」
「さぁ……? 俺が物心ついた時には、いなかったな。多分、捨てられたんだろうけど、赤ん坊の時は、さすがに死ぬから、ある程度一人で出来るようになってから放り出されたんだと思う。まぁ、産んだのはいいけど、育てる余裕がなかったんだろうな」
淡々として、そう語るルカに、ナルシアは驚きを隠せなかった。
「そんな……、無責任な……。親は子の面倒を見るものだろう。それが親としての責任じゃないか」
信じられないと、唖然とするナルシアに、ルカは眼を丸くして食べる手を止めた。
「この街では仕方のない事だよ。自分以外の人間に与える余裕なんてないんだ。俺は生きるのに必死だったし、それが間違ってるなんて考えた事もなかった。でも……」
ルカは、口に残っている果実を飲み込んだ。
「そんな風に考えられるあんたは幸せだな」
ルカは立ち上がると、にっこりと笑った。
「俺、そろそろ行くよ。で、あんたさえ良かったら、明日も代わりに食料を買いに行ってあげるけど、どうする?」
「あ、あぁ……、そうしてくれると助かるよ」




