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西の森から、南へ下っていくと、遺跡で会った不思議な男の言うとおり、街へと行きついた。街は埃っぽくて、全体的に煤けた印象だ。土塊で出来た素っ気のない、どれも似たような住居が軒を並べている。
食料店を探そうと、街の中を歩き始めたナルシアだったが、街のあちこちから突き刺さるような視線を感じた。こちらを探るような視線にナルシアが振り向くと、見ていた人達は、さっと眼をそらす。そこでナルシアは、住民達の無気力な表情に気が付いた。皆、何かを諦めたような顔で、誰も笑っていない。そこに活気というものは見あたらなかった。
一体、何なんだろう。乾いた雰囲気の漂う街を不審に思いながら、果実や肉の並ぶ店の前で、ナルシアは足を止めた。しかし、よく見ると、店先に並んだ食べ物は、腐りかけているのか鼻につく酸っぱいような嫌な匂いが漂い、小さな虫がたかっていた。こんなもの誰が買うんだろうかと、ナルシアが呆れて見ていると店員が声をかけてきた。
「何か用かい」
冷たい声だった。愛想どころか不審者でも扱うような態度にナルシアは戸惑いながら、比較的、傷んでいない赤い果実を手に取った。
「あの、これを売って欲しいんですが……」
店員は、痩せて落ち窪んだ眼をぎょろぎょろとさせて、ナルシアを見た。
「金は、持ってんのか」
「あ、はい。いくらですか」
百ルド、と素っ気なく言われ、ナルシアはお金を入れている袋を取り出し、それを開けた。その途端、男の眼の色が変わった。
「ちょっと待て。言い間違えた。それの値は一万ルドだ」
ナルシアは絶句した。いくら、王宮育ちで金銭感覚の疎いナルシアであっても、たかが果物一つに有り金の四割に近い値を言われれば、何かおかしい事に気付く。
「これが……、こんなものが、一万ルドもするんですか?」
「あんた、俺の店のものに文句つける気か?ここいらじゃ、食料は貴重なものなんだよ。よそもんには、わかんねぇだろうがな」
凄みを聞かせてくる男の態度に、ナルシアは怒りが沸いた。
「だけど、さっきは百ルドと言ったでしょう」
「だから、言い間違えたんだよ。さっきも、そう言っただろうが」
らちがあかない。だが、男の言うとおりにすれば、たちまち路銀は底を尽きてしまう。ナルシアは空腹をこらえ、品物を元の場所へ戻した。
「もう、いいです。他を当たります」
男は、ナルシアを苛立ちをこめた眼で見ると、大きく舌打ちをした。
不快な気持ちのまま、ナルシアは店を出た。しかし、他の店でも、こんな対応をされたらと思うと気が重くなる。ナルシアが暗い顔で立ちつくしていると、横から声をかけられた。
「ねぇ、あんた、そこの店でどのくらいふっかけられたの?」
甲高い声に少し驚いてナルシアが振り向くと、子供と言っていいくらいの少年が、自分を見上げていた。
「ふっかけ……?」
「そう。俺、あんたがこの店でもめてるの聞いてたんだ。あんた、よそもんだから、どこ行っても割高で買わされるよ。俺に五ルド渡してくれたら、代わりに買ってきてあげるけど?」
「五ルド? たったの、それだけでいいのか? じゃあ頼むよ」
「まかしときなって。じゃあ、ここで待ってて」
少年は、小銭を受け取ると、先程ナルシアが出てきた店に入っていった。暫くすると、少年は両手に抱える程の食料を持って戻ってきた。




