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「これは……、ナルシア様が?」
背から、パロディアスの声がかかる。ロックは振り向かずに、答えた。
「十中八九、そうだろうな。普通の人間に、こんなことができるか?」
その時、死体を見てまわっていたカルテロが口を開いた。
「やはり、この武装を見るかぎり、こやつらはレイダートの兵士に違いないな。人数的に、小編隊だろうが、隊長らしき人物はこの中には見当たらない。おそらく、逃げたのだろうと思うがな」
「では、ナルシア様は? まさか、連れ去られたのでしょうか?」
いや、とカルテロは首を振った。
「向こうで上等の白馬が死んでいた。足もなく、抵抗する人間を連れ去る事は出来まい。おそらく、ナルシア様もお逃げになられたのだろう」
「ならば、一体、何処へ向かわれたのでしょうね」
ロックは、しんとした人気の無いバンガローから西側に広がる森を見た。
「ここから北東のミドロルから来たレイダート軍と鉢合わせしたんだ。南下するには、この家が邪魔になるし、おそらく、この森の奥だろうな」
「そうですね。では、私達も追いかけましょうか」
ロックは、パロディアスのその言葉に、呆れたように首を振った。
「いつまで、いたちごっこを続けるんだよ。俺達が、遅れて追いかけたところで、命を狙われ逃げている相手においつけるか?」
「しかし……、そうするしか仕用があるまい。ナルシア様が、何処に向かうなど解らないではないか」
カルテロのその問いに答えるように、ロックはパロディアスに、
「地図を貸せ」
と呟いた。ロックは手渡された地図を広げると、自分達の今いる現在地から、すっと指をなぞらせた。
「食料の面から考えて、森の中にいつまでも留まっておくとは考えられない。と、すると、街へ向かうだろうがレイダートの兵士達は、ミドロルからやってきたんだから、まずそこには行かないだろう。レイダートの残党が彷徨いているとも限らないからな。そして、ここから近くのヤタの村にも行かない。こんな小さな村に身を潜めても、すぐに見つかる恐れがある。だが、この森をずっと行き続けても、海しかない。だとすると……」
ロックは、西の森から、指をゆっくりと南下させた。
「ヴィルズレアの街か!」
「そうか、その可能性は高いですね。ここから真っ直ぐに南下すれば、西の森から遠回りするナルシア様に追いつくかもしれない」
パロディアスは、地図を鞄へしまうと、しばかねを避けながら歩きだした。
「じゃあ、急いで向かいましょうか」
「そうだな。ロック、お前にしては機転がきくじゃないか」
カルテロの憎まれ口に、いつもなら眉根を上げて突っかかってくるロックから、何の反応もなかった。カルテロは怪訝に思って後ろを振り返った。
ロックは、しばかねの中立ち止まり、心奪われたかのように、空を見ていた。そして、人差し指に軽く舌をつけると、その指を天へ高く掲げた。
「ロック……、どうかしたか?」
カルテロは、その動きが理解できず、ロックの顔を見た。ロックは、眉間に皺寄せ険しい顔をしている。
「いや……、何でもない」
だが、ロックはそう呟くと、二人の後を歩き始めた。




