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「何でもお聞き下さいよ。白い石なんて珍しいでしょう? この値段ではひじょうにお買い得ですよ」
「じゃあ聞かせてもらうが、あんた、この指輪を何処から手に入れた?」
その問いに、店主はさっと顔色を曇らせた。
「別にやましい所じゃないよ。さっき女の子が売りに来たんだよ」
「女の子?」
「あぁ、そうだ。田舎者くさい格好をしてたからね。ありゃ、ヤタの村のもんじゃないかな」
ヤタの村。ナルシアの落ちた辺りだ。少女がどうやって指輪を手に入れたのかは解らないが、ナルシアの痕跡が見つかったのは運が良かった。
ロックが指輪をじっと見つめ考えこんでいると、店主は疑い深そうな目付きを向けてきた。不安気に声を低めて、ロックに呟く。
「こりゃ盗品じゃなかろうね。三千ルドで売るなんて、うまい話だとは思ったんだが」
「あんた、三千ルドで買い取った物を五倍の値で売りつけてんのか」
「その子が、その値で良いと言ったんだよ。だが、白い宝石なんて貴重な物、この値でも安いくらいだ。……で、どうなんだ、これは盗品なのか」
そうだな、とロックは指輪を手に取った。目利きするように細部をまじまじと見ながら、ロックは呟いた。
「ミドロルでは、盗品の転売は、絞首刑だったな」
店主の顔はぎょっとしたように狼狽が走り、みるみるうちに青ざめる。
「この指輪の持ち主は、あんたの所で売られていたと知ったらたいそうお怒りになるだろうな……。だが、ばれる前に、今なら俺が元値で買い戻してやってもいいぜ」
「いや、しかし、それじゃ、俺の儲けが……」
「そうか。あんた見かけによらず、危ない橋を渡るのが好きなんだな。じゃあ、俺は無理にとは言わないさ」
店主は黙りこんだ。滅多に手に入らない宝への欲と、身の保身でぐらついているのが、手に取るようにわかる。その振り子を後押しするように、ロックは店主へと囁いた。
「こんなに大々的に宣伝したんだ。ばれるのは時間の問題だと思うけどな」
そして、二人のやり取りを呆気に取られたように見ていたカルテロに、ロックは声をかけた。
「さぁ、カルテロ。長居もしてられないし、行こうか」
「待ってくれ。わかったよ。元値でいい。それでいいから買い取ってくれ」
懇願するような店主の口調に、ロックはにっこりと微笑んだ。
パロディアスの財布から代金を受け取りながら、店主は大きくため息をつくと、ちらっと鎧姿のカルテロを見た。
「そういや、あんたも兵隊さんなんだな」
「あんたも?」
「いや、あんた達以外にも、この指輪の出所を聞いた奴がいたんだよ。それで、どうもおかしいとは思ったんだが」
確かに、この紋章は戦旗にも使われる目印であるから、一般市民には見馴れないものでも、兵士にはこの指輪の曰くがわかるだろう。嫌な予感がカルテロの胸をよぎった。
「それは、ミドロルの兵士だったか?」
「いや……、あれはレイダートの兵隊だったな」
レイダート。その名に、ロックとカルテロは顔を見合わせた。
顔から血の気が失せているのが、自分でもわかる。久しぶりに街まで出たのがやはり悪かったのか。疲労は吐き気となり、エルアの喉元を襲った。エルアは小さく呼吸をした。新緑の匂いが、気分を まぎらわしてくれる。
風が大きく唸り、樹々達がざわめく。太陽の光さえ届かない、薄暗い密閉された空間。その孤高は美しくもあり、ひどく残酷のようにも見えた。




