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「パロディアス。先程、イルマーク王が言っていた芸とは、どういうことなんだ。おぬしは捨てたとか言っておったが」
あぁ、とパロディアスは苦笑をもらした。
「昔とった杵柄というものでございますよ。私は、一昔前まで、ロード・ガルナの宮廷道化師をやっておりましたので」
パロディアスの明かす意外な過去にカルテロは思わず眼を剥いた。しかし、風変わりな男だとばかり思っていたが、張りのある声も仮面のような化粧もその名残と言えば頷ける。
「それが、どうしてトラル様の弟子をやっているのだ」
「あまり、誉められた過去ではありませんが……。私は宮廷道化師といっても、鳥や獣などの動物の鳴き声や動作を模倣する物真似師だったのです。私の芸はもの珍しさもあり、王のお気に召して私は王のご寵愛を受けるように至りました。ですが……、私はある時、王の怒りを買いました」
「王の怒り?」
「そう、それはロード・ガルナの記念式典の事でした。私はその時、動物達ではなく王自身の物真似をし笑い者にしたのです。他国からも人が来ており、見ていた観客達は大爆笑。しかし、皆の前で恥をかかされた王の顔色はみるみるうちに変わり、私はその場で百度のムチ打ちの 形に処せられたのです」
「百度のムチ打ちとは、いわゆる死罪ではないか! しかし、何故、そんな無謀な事を……」
パロディアスの口元は歪んだ。それは、笑っているようにも、苦痛をこらえているようにも見えた。
「私は宮廷に通ううちに、王の内情がわかってきた。私は、王のやり方についていけなかったのです。しかし、若かった私はそんなやり方でしか、王への反抗を表せなかった。ですが、死を覚悟した私を助けてくださったのが、トラル様です。その場にいらしたトラル様は進み出て、こんな祝いの日を血で汚す事もありますまい。その若者の戯れはやり過ぎではあるが、死を持って償う程の反逆行為ではないだろう、とおっしゃってくださいました。王は、トラル様の顔を立て、王宮からの永久追放、そして二度と道化師として芸をする事ないよう言い渡して、私を解放したのです」
パロディアスは、その当時を思い出したのか、うっすらと眼を細めた。
「そして、行き場のない私を、弟子として拾ってくれたのがトラル様なのです。ですから、私はトラル様に一生かかっても返せない程の恩があるのですよ」
パロディアスの話が終わった頃、一行は街の大通りまで戻ってきていた。先程、ロックが少女とぶつかった辺りである。その一角に大きな野次馬ができていた。
王宮へ向かっていた時には、あんなに賑わっていなかった。不思議に思いロックは野次馬の奥を、何となしに隙間から覗き込んだ。
小さな露店商だった。長いテーブルには白いシーツが被せられ、そこには見るからに安物の宝石の類いが並べてある。首輪、耳飾り、腕輪、そして指輪。その中の一人にロックは眼を止めると眉をひそめた。
「なぁ、カルテロ」
「なんだ。宝石など買う必要はないだろう」
「そうじゃない、あの白い石が嵌め込まれた指輪を見てみろよ」
ロックが指す、一つの小さな指輪にカルテロは眼を見開いた。
「あれは、アヴェルガ家の紋章?」
間違いない。四方に司る精霊と、中央に位置する剣のレリーフ。ナルシアがシドラス王から譲り受けた形見の品。
何故、あの指輪がこんなところに。カルテロがそう言葉にする前に、ロックは人混みを掻き分けていた。
「おい、親父。この指輪について聞きたいんだが」
はいはいと、でっぷり太った店主は愛想良くにじりよってきた。




