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「一五年程になりましょうか。以前、お会いした時、陛下は士官学校へ通っておいででした」
「もう、そんなにもなるか。月日のたつのは早いものだな。トラル殿はお元気でおられるか」
「あの方は相変わらずの……、研究の虫でございます。殿下へ、くれぐれも宜しく伝えるよう言いつかっております」
イルマークはその言葉に、たっぷりと肉のついた頬を引き締めた。
「トラル殿からの一報によると、ナルシア様が生きておいでだとか。ナルシア様は墜落したと聞いていたが、真の事なのか」
パロディアスは、ロックの背を軽く前へ押すと、それに答えた。
「はい。この者の活躍により、ナルシア様はハンセンの陰謀から逃れ生き延びておいでです。しかし、ヤタ近辺の森で見失い、私共はトラルの命でナルシア様を捜索しております。もしや、ナルシア様が陛下の保護を受けておらぬかと思い、お伺いさせて頂いたしだいでございます」
「そうか。しかし、残念な事にナルシア様は見えておらぬ。捜索にあたらせたいが、我が国も、エンリトの調査で空けておるしな。しかし、問題なのはレイダート公国だ」
王は、忌々しそうに呟く。
「エンリトの調査にあたらせたところ、光脈の所在は今だに解っておらぬ。しかし、レイダートの光脈に対する執念は尋常ではない。調査が終われば光脈を巡って国王会議が開かれるだろうが、分裂するのは眼に見えている」
そうか、とロックは心中、呟いた。国王会議で分裂すれば、大きな戦がはじまる。戦力の少ないミドロルからしてみれば、今から負けは見えている。だが、ナルシアが生きているのなら、エンリトの地の正統後継者の後押しとして、ロード・ガルナ、アーク・レイの協力を受ける事が出来る。
「お前達には期待しておるぞ」
王のにこやかな笑顔に、一行は一礼して下がろとした。するとイルマークは思い出したかのように、パロディアスへ声をかけた。
「パロディアス。久しぶりに、お前の芸を披露してくれんか」
芸? その言葉に訝しげにロックがパロディアスを見ると、いつでも飄々としていた彼の顔には押さえきれない動揺の色が浮かんでいた。
「申し訳ありません。私は芸の道は捨てたのです。今は、トラル様の弟子でしかありません」
表情を固くし、控え目ながらもきっぱり断るパロディアスに、王は何かを言いたげに口を開いたが、言葉はため息となり王は黙って首を振った。
「そうか……、おしいな。まぁ、よい。いつか、お前の気が変わる時も来るだろう。その時までの楽しみとして取っておくとしようか」
パロディアスは冷静を取り繕うかのように笑みを浮かべると、もう一度、深く頭を下げた。
王との会見が済むと、三人はミドロル城を出た。
「今の話、どう思う?」
ミドロル城を出ると、カルテロは口を開いた。
「色々と興味深い話でしたが、光脈が見つからないというのは、どういうことなのでしょうね。カルテロ殿は何かご存じないのですか?」
「うむ、光脈というのは、光源があり、そこからエンリト全体に枝分かれしているものだと聞いた事はあるが……。だが、光を操る権利を持っているのは王族だけだからな。私も、それ以上、詳しい事は知らぬのだ」
しかし、とパロディアスは呟いた。
「精霊達の邪悪な意志を封印し裁くための力である゛光″が、人間達の争いの種になるとは……。何とも皮肉な話ですね」
「人間にも野心はあるということだ。しかし、だからこその信仰だ。信仰の本質というのは、神の教えを信じ、己の欲を正す事にある」
ところで、とカルテロは思い出したように話を変えた。




