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「ロック、お前さっきから不満が多いぞ。このクースカという生き物は、こうみえて滋養強壮に良い。疲れを取るためにも、たんと食べんとな」
カルテロは、そうたしなめると、大口を開けて、一見グロテスクなクースカの足にかぶりついた。
「味は、まぁ……美味くはないがな」
ロックは短剣で小さく削った肉片を口にほうばると、険しい顔をして飲みこんだ。
「あんたらみたいなむさ苦しいオッサンどもにかこまれて、何日も野宿させられれば不満も多くなるだろ。ミドロルの関所は、まだ着かないのかよ」
「何しろ徒歩ですからね。しかし、草原地帯を真っ直ぐに突っ切って来てますから……」
パロディアスは広げた地図をなぞった。
「後、もう少しですよ。うまくすれば二、三日といったところでしょうか」
後少しで、二、三日。ロックのうんざりした顔をカルテロは大声で笑い飛ばす。
「たまには、自分の足で歩くのも悪くなかろう。若い者は足腰を鍛えんとな」
「あんたに付き合って筋肉馬鹿になる気はないんだけど」
憎まれ口を叩いてみるが、睨み付けるまでの元気はなかった。足はじんわりと熱を帯び、じんじんと痺れている。
「ロック殿も疲れている様だし、日が落ちる前に見つけておいた洞窟で休みましょうか」
野宿と言えども、火が焚けない以上、野ざらしで寝る訳にはいかない。いくら、剣に長けたカルテロといえども真の暗闇の中、夜眼のきく野獣を相手に戦えなかった。
ロックは赤みの帯びてくる空を見上げた。まばゆさを失った太陽は傾き、地平線の奥へと立ち去ろうとしている。
今日もまた、光のない夜が始まろうとしていた。
何という名前なのか、見たこともない可愛らしい鳥が土の上を羽ばたいている。小鳥は、逞しく上昇し、樹の影に止まると歌うようにさえずりはじめた。その光景は微笑ましく、ナルシアの頬は思わずゆるんだ。
「さてと、こんなものでいいかな」
盛り上がった根の脇に生えた食用の花を、木で編んだ籠に摘み終わると、ナルシアはテラスで待つエルアのもとへ向かった。
エルアは、テラスのテーブルで飲み物の準備をしている。エルアの細い髪が、木漏れ日の淡い光に透けきらきらと風に舞って、眩い程、綺麗だった。
テラスへの階段をナルシアが上がっていくと、エルアは振り返ってにっこりと笑った。
「ナルシア! 疲れたでしょう? 後は、お茶でも飲んでゆっくりしてて」
ナルシアは花で満杯になった籠をエルアに渡すと、彼女へ笑い返した。
「いいんだ。君にはお世話になってるんだから、僕にできることはしないと」
「でも、あなたは倒れていたのだから、あまり無理をしては駄目よ。肩の傷もまだ痛むのでしょう?」
確かにまだ肩の傷は疼くが、まったく動けない程の痛みじゃない。
ナルシアは甘い香りのする冷たいお茶を受け取ると、椅子へ座った。眼を閉じ、深く息を吸う。閉鎖的な王宮がすべてだったナルシアにとって、初めて触れた外の空気は清々しく爽やかだった。
「ここは……、きれいな所だね」
静かな光が鮮やかに樹々を照らし、温かい土の香りで溢れている。ナルシアは喜びを顔に浮かべた。そんなナルシアを見つめていたエルアは、珍しくはっきりとした口調で言った。
「この森は、きれいなだけじゃないわ」
穏やかなエルアにしては、らしくない棘のある物言いに、ナルシアが意外に思ってエルアを見ると、彼女は眼を伏せた。
「この西の森の奥深くにはね、悪魔が住んでると言われているの」
彼女はテーブルから離れると、テラスの冊に手をかけ、森の方へと身を向けた。ナルシアもつられて森へ眼をやったが、こんな美しい森の奥にそんな不吉なものが棲みついているとは想像し難かった。




