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「そろそろ、行こうか」
お腹も満たされ、ロックは何かと話しあっている二人に声を掛け立ち上がった。ロックのその姿にカルテロは、ほぅと感心したような声をもらした。
「お主、よく見てみると、なかなか上背があるな」
どれ、ちょっと失礼と言いながら、カルテロはロックの肩や腕、足などを押すように触っていった。
「なんだよ」
勝手に身体を触られ、顔をしかめるロックに、カルテロはにやりと笑った。
「思ったよりも筋肉がついているな。ライナに乗ってばかりで、もっとひょろひょろしているかと思ったぞ」
「ライナの操縦には力がいるんだよ。機械に乗ってるんじゃないんだ。ホールは俺に懐いているけど、元々ライナは気性の荒い性格だからな。軟弱だと降り落とされる」
その言葉にカルテロは、ガハハと豪快に笑った。
「ふむ、見どころがあるぞ。道中、俺が剣の稽古をしてやろう。男たるもの自分の身は自分で守らなくてはな」
ロックは、筋肉隆々のカルテロの腕を見ると、
「勘弁してくれよ」
と、うんざりした顔をした。
空が一面、朱に染まる頃、男はある人物と待ち合わせた場所へ歩を進めていた。
踏み入れたのは人気の無い街のうらびれた通りで、軒並みならぶ建物からは活気はおろか人の話声すらしない。人々から忘れ去られたゴーストタウン。その一角にある廃墟と化した教会の重々しい扉を男は開けた。
中は薄暗く、側面に並んだ窓から、血のように赤い夕暮れの光がかろうじて差し込んでいた。何年も人の手を離れた調度品や木造の長い椅子は痛み、腐りかけている。
教会の奥、何の絵をはいしていたのか、破れたステンドグラスの前に待ち人は佇んでいた。
男はその人物を確認すると、中に入ろうとした。しかし、埃っぽい空気に混じり、何か人を不安にさせる異質な匂いが鼻孔に流れ込み、男は足を止めた。
その匂いは悪臭というわけでは無い。むしろ濃厚に甘ったるく、人を引き寄せるような魅力を持っている。だが芳香に、巧妙に隠された微かな悪意は人の神経を尖らせる。
男の様子に、待ち人は可笑しそうに僅かに身を捩らせた。
「この匂いが気になるのですか?」
その言葉に男はすくんだ事を恥じたのか、きっと面を引き締めると、扉を閉め、待ち人へと近づいていった。
夕日に男の顔が照される。まだ若く、青年の面影を残した綺麗な顔だ。だが、その眼は若さに似合わぬ冷徹な光を宿している。男は教会の中央まで来ると立ち止まり、口を開いた。
「これは、何の匂いですか……?」
「センクトという花の毒です。大丈夫ですよ。致死率は高いものですが、匂いを嗅いだぐらいでは死にはしません」
毒を香水のようにまとわりつかせる神経が理解できず、男は戸惑いながら目前の人物を見た。常に゛死の臭い″を漂わす。だが、それが゛死神″と呼ばれる由縁か……。
「それで、私に何の用件なのです。……レテ様」
黒いフードに身を隠し、レテはぞっとするような忍び笑いを洩らした。
「そう、あなたにしか頼めない事があるのですよ。レイダート公国、四将軍の中でも、知略に富むと名高いあなたにしかね」
アレフ、とレテは男の名を呼びかけた。
「あなたもエンリトが滅亡した事は、ご存知でしょう。我々、レイダートにとっても不測の事態だったが、我が王は狂気乱舞した。光脈の地を支配するエンリトの民が一瞬にして全滅したのですからね。難攻不落だったエンリトの地が、労せず手に入れる事が可能になった訳です。しかし……、そう上手く事は運ばなかったのですよ」




