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屋敷は小さな噴水の奥に、品のある静かな風格をそなえて佇んでいた。厚い扉を開け、二人は広々としたホールへと入った。
「さて、トラル様を探しに行きましょうか」
パロディアスはロックにそう告げると、驚いたことに大声で賢者の名を呼びはじめた。ただでさえ大きいパロディアスの声は広いホールをこだまする。
パロディアスは呆れた顔をしたロックを連れて、書斎、居間、寝室など次から次にと部屋をまわっていった。探すという言葉は、迷路のようにいりくんだこの屋敷では正しかった。城とまではいかないが、一般の金持ちの屋敷より、よっぽど広いだろう。
トラルが見つかったのは、応接間だった。今は使われていない暖炉の前に、テーブルを挟んで向かい合って座っている二人の人物がいた。
パロディアスの大声に驚いたのか、客人らしき男は唖然としている。一方、屋敷の主らしき風格と落ち着きを持った老人は、慣れているのか、この奇行に顔色ひとつ変えていない。
「これは、来客中でございましたか。御話しされているところの無礼、お許し下さい」
パロディアスは、客人の前の非礼を詫び、一礼した。賢者の弟子とは思えない程のパロディアスの落ち着きのなさに眼を丸くしているロックと客人を尻目に、トラルはやれやれといったように首を振った。
「ずいぶん、早い帰りだったな。私が頼んだ調査はもう済ませてきたのかね」
「それが――、それどころではないのです」
パロディアスはロックから聞きかじった事柄を逐一、トラルに報告した。しかし、エンリトの様子に驚く事なく、賢者は黙って聞いている。
「そのことは、すでに知っておる。トラヴィスがメリルの足に文を付けて送ってくれたのでな」
トラルの視線を追うと、窓際に利口そうな白毛の鳩がいた。パロディアスは、それこそ鳩が豆鉄砲をくらったような間の抜けた顔をしている。
「トラヴィス隊長が」
トラルは小さくため息をつくと、パロディアスに厳しい眼を向けた。
「トラヴィスはお前がいつまでたっても合流しないので、何かあったのかと心配しておったぞ。お前が王宮を苦手としているのは知っておるが、一言、連絡ぐらいすべきだったな。…… ところで、その少年はどなたかな」
トラルはふいにロックに向きなおった。賢者は、ロックが思っていたより柔和で、気さくな好々爺といった風貌だ。だが、その眼だけは全てを見透すかのような聡明な光が宿されている。
パロディアスは、あぁ、そうですと手を叩くと、ロックを賢者の前へぐいと押しやった。
「私は、この方を紹介しようと思って戻ってまいったのです。トラル様、この方は光に襲われたエンリトから生き延びてこられたそうなのです」
すると、トラルは客人の男と顔を見合わせた。
「少年、名はなんと申される」
「ロック。ロック・ファニーだ」
トラルは、まるで内面を見透かすかのようにロックの眼をじっと覗き込んだ。その事に臆する事なく瞳を返してくる少年に、トラルは少し驚いたように眼を細めた。
「……ロック。あなたの見た事を話してはもらえないかね」
ロックは頭を過る悪夢に、一つ深呼吸すると話しはじめた。ロックの語る凄まじいエンリトの光景に、誰もが悲痛な表情を浮かべる。




