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店内は混みあっていて、騒々しかった。二人は空いている席を見つけると、窓際の二人掛けのテーブルに落ち着いた。
「何にします?」
メニューを渡されたロックがそれに眼を通すと、ニホ肉の郷愁煮込みだの、ガザ草の丸ごとサラダだのと、想像もつかない食料が並んでいた。
「まかせる」
ロックはメニューを投げ出すと、窓の外を眺めた。透明なガラスごしに、夕暮れに染まる美しい街並みが広がる。通りには、様々な種類の出店が並び、その前を仕事帰りなのか、くたびれた顔の人々がすれ違い合う。確かに閑静とは言い難いが、街は活気に溢れていた。
しばらくすると、愛想のよい若い店員が大皿に乗った料理を運んできた。年期の入った重そうな蓋が開かれた時、ロックは思わず驚きのある声を上げた。
「これ、どうやって焼いているんだ」
色とりどりの野菜の真ん中に置かれた蒸し焼きの肉からは、出来立てなのか湯気がたちのぼっていた。
魔術でも見せられたかのように絶句するロックを、肉を上手に切り分けながらパロディアスは可笑しそうに笑った。
「ロード・ガルナにある炭鉱では、熱光石という珍しい石が採れるんです。その石は吸熱、保温に優れていて、一時、太陽にあてていれば、手に持てないほど熱くなり、一週間はその温度を保てるんですよ」
「便利なものだな。そんなものが、この世に存在していたなんて、知らなかった」
「普通に炎が存在していれは、特にといって必要ないものですからね。それに、熱光石は、ロード・ガルナでは、エンリトからの光の恩恵を受けるようになって廃れていたものなんですよ」
ふぅんと半分、聞き流しながら、ロックは蒸し肉をほうばった。充分に温まった肉汁で、舌を火傷しそうだ。白い湯気を吐くロックに、パロディアスは朗々と笑いながら、甘い匂いのする飲み物を差し出した。
さて、そろそろ行きましょうかと、パロディアスは見事に空になった皿の並んだ席を立ち上がり会計所へ向かった。
パロディアスがそこで料金を支払っている間、手持ちぶさたなロックは店のドアの脇に立ち、近くに座っている男達の会話を軽く聞き流していた。
男達は、仕事の愚痴や、自分達の女房の悪口など他愛まない話しをしていたのだが、ふと゛エンリト″という言葉が聞こえ、ロックは耳に意識を集中させた。
門番のアリルから聞いた話しなんだが。
門番?どこのお屋敷の門番だよ。
ロード・ガルナの王宮門番の事だよ。
あぁ、あの下端の風采のあがらない若造の事か。それで、何を聞いたって?
それがな、昨夜、エンリトの兵士が単体で王宮を尋ねにきって言うんだ。それも、階級の高い身なりをしていたそうだ。
へぇ、エンリトの。そういや、昨夜エンリトの方が明るかったらしいんだが、ありゃ何だったんだろうな。俺は寝てて知らなかったんだが、母ちゃんが言うにはエンリトの空だけ夜が明けたようだったって。その事で来たんかね。
さぁね、王には結局、会えなかったらしいと聞いたが……。だが、俺が思うに、その男は――。
そこで、パロディアスは戻ってきた。タイミングの悪い男だと、ロックはパロディアスの飄々とした顔を睨み付けたが、まさか立ち聞きを続けたいなど言える訳もなく、しぶしぶ店を出た。
それからは寄り道する事も無く、二人はトラルの屋敷に辿り着いた。と言っても外壁から、屋敷は見えない。
門をくぐると、広大な敷地が広がっていて、街中とは思えないほど緑に溢れ静かだった。玄関まで続く長い庭園には、色とりどりの花が咲き誇り、蜜の甘い香りが漂う。




