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権力と富を持った貴族達も、力と武に長けた兵士も、歩けなくなった年寄りも、産まれたばかりの赤ん坊も、出世と志に燃える少年も恋に悩む少女も、そして自分の周りにいた家族同然に暮らした人達も、光は平等に全てを奪って消えた。
ジール。ロックは親友の怯えた顔を思い出し、心臓がじくりと疼いた。
「もっと詳しく話しをお聞きしたいが、ここで立ち話もなんです。あなたも落ち着ける場所を探しているようですし、あなたをロード・ガルナへお連れして、我が師と会って頂きたいのですが……」
ロックは面食らった。確かに有難い申し出ではあったのだが……。
「俺に、あんたみたいな怪しい人間についてこいって? あんたのどこに、俺をちゃんと保護してくれるって保障があるんだ?」
ロックがそう言うと、船頭は大口を開けて笑いだした。
「心配いらねぇよ、若いの。そんなに警戒する必要はねぇさ。このお方はこう見えて、ロード・ガルナじゃ有名なお人なんだぜ」
ロックの怪訝な顔が崩れるどころか、ますます険しくなるのを見て、男はゆっくりと右手を腹に当てると深々とお辞儀をした。
「これは申し遅れました。私はロード・ガルナの賢者トラル様の弟子、パロディアスと申します」
賢者トラル。その名にロックは少なからず驚いた。賢者トラルと言えば、この世の森羅万象に精通し、その知識の深さからロード・ガルナ王家とも繋がり、一目おかれている程の大人物だ。
ロックは、パロディアスの滑稽な姿をまじまじと見つめた。
「あんたが、賢者トラルの弟子? 何かの冗談だろ?」
「師匠は、弟子に輪をかけて変わり者なのさ」
船頭のちゃちにパロディアスは咳払いを一つすると、ロックに向かって笑いかけた。
「さぁ、どうぞ。私めがロード・ガルナまで案内いたしましょう」
パロディアスはそう言うと、まるで自分の家へと客を招くように、手の平を舟の方へと差し出した。
ロード・ガルナの国は、ルトの森の北方、地図で見れば、ちょうどエンリトの真上の場所にある。
森を抜け、平坦な街道を通り、国の市街地リーターにたどり着いた時、ロックの体力は限界に近づいていた。飲まず食わずで歩き続けたせいで、今にも気が遠くなりそうだ。
「賢者トラルの居る場所まで、後どれくらいかかるんだ」
涼しい顔をして鼻歌まじりに前を歩くパロディアスに声をかけると、彼は首だけで振り返ってみせた。
「そうですねぇ。トラル様のお屋敷は、このリーターの中心にありますので、後、小一時間といった所でしょうか。トラル様は人里離れた所に住みたがっておいでなのですが、王宮に何かと御用のある方なので、仕方なくその近くにお住みになっているんですよ」
そう言った後、パロディアスは急に足を止めた。そして辺りを見まわすと、くんくんと鼻をかいだ。
からからの喉に涎を誘う食べ物のいい匂いが、通りに広がっている。その匂いにつられて、思いきりぐぅとロックの腹が鳴った。パロディアスはその音に、負けないぐらいの笑い声を出した。
「今のあなたに黙ってこの道を歩けというのは酷のようですね。中に入って一杯ひっかけて行きましょうか」
そう言って、パロディアスが指差したのは、バナハ・カフェとでかでか看板に描かれた、小さな料理店だった。




