3
兵士達の来た道を程なく進むうちに、ロックは゛きらめき″に行き当たった。樹々の合間から、光の粒が、何かに反射し瞬いているのか見えた。何の光かと、ロックは眉をしかめたが、その゛きらめき″の正体は、すぐに解る事となった。
森に囲まれた道は、急に開けた場所へと変化した。遠くに山脈が広がっているのがわかる。ぽっかりと開いた森の中には、巨大な鏡と見がまう程の、澄みきった泉が大地に広がっていた。
水面は穏やかで、一枚絵のように、青い空や遠い山並みを映し出す。その上を光が反射し、きらきらと瞬いていた。
「行き止まりか……?」
泉には船着き場があったが、舟は止まっていない。軍隊は、この広い泉を迂回したのだろうか? そう考えると、ロックはうんざりとした気持ちが込み上げてきた。
ロックはかがみこむと、泉を覗き込んだ。自分の眼と、眼が合う。数時間、森を歩いただけで衣服は泥にまみれ、腕や頬に擦り傷が出来ていた。急激な疲れと空腹のせいか、顔色も悪い。小綺麗だった格好は見るかげもなく荒れ果て、たった一日で、ひどい有り様へと変貌した自分の姿にロックは思わず吹き出した。
ロックはひとまず、喉の渇きを潤そうと泉に手を差し、水をすくいあげた。そして、気付いた。あれだけ美しく見えた水が、濁りをおびていたことに。泥ではなかった。しかし、汲んだ水はうっすらと黒く、何か異様な感触がする。ロックが口を付けることにためらっていると、水は指の隙間からしたたり落ちた。
不意に、歌声が耳に流れこんできて、ロックはぎょっとして顔をあげた。はじめ、何処から聞こえてくるのかわからず辺りをきょろきょろと見回した。
海原のような泉の先を、眼を細め、凝らして見ると、何か小さなものがゆらゆら動いているのがわかる。ここからでは豆粒のようにしか見えないが、徐々に輪郭を現してくる。
独特なメロディーに乗る男の声。彼処から聞こえてくるのなら、なんて張る声の持ち主だろう。
歌が終わらぬうちに、豆粒はぐんぐん浅瀬に近づき、その正体を現した。
一隻の小さなボートだった。ボートには二人の男が乗っていて、一人は先頭なのだろう、力強くオールを漕いでいる。
どうも歌を歌っているのは、船頭に向かい合って座っている男らしかった。己のメロディーに合わせて、まるで指揮者のように腕をぶんぶん振り回している。
こちらを向いている船頭の顔が鮮明に見えだした頃、自分の歌にひときしり酔っている男に調子を合わせるでもなく、無表情だった船頭の顔が、おやという表情になった。向こうでもロックに気付き驚いたらしい。船頭はロックの方を指して、何か男に告げている。すると、男はピタリと歌を止め、くるりと振り返った。




