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「もう、この国は助からん。ナルシア様を、この国の王を追い出した報いなのだ」
「そんな事、……あるはずないだろ!」
「うぅ……、お許し下さい。……お許し下さい」
ダリオ老師はひざまつくと、天に向かって祈りはじめた。だがロックはその腕をぐいと引っ張ると、老師を無理矢理、立たせた。
「んな事してる暇なんてないんだよ。早く逃げないと……」
ロックは、教会の隅に停めてある自家用の小型リュームに近づくと、ドアを開けた。全員乗れるだけの席はない。それでも、ロックは小さい子から順に乗せれるだけ詰め込んだ。
「いいな。光のこない方向に逃げるんだぞ」
ロックはその中でも、年長のドミニクに話しかけた。しかし、ドミニクは操作パネルをじっと見つめたまま、ぶるぶると震えていた。
「駄目だよ、ロック兄。このリューム……、壊れてる」
パネルに浮かび上がるエラーの電子文字――。
ロックの背に、冷たい汗が流れた。
――それは、絶望を意味する。
「オーバーヒートして機械がいかれてるのか……」
その言葉に、子供達はせきをきったように泣きだした。
うぁーん、死にたくない、死にたくないよぉ……。
人間の足では、光に追いつかれるに決まっている。そして、あいつらみたいに黒焦げになって死ぬ。
あぁ……、皆、死んでしまうのか。ロックは、ぽつりとそう思った。ロックは、閃光の瞬く眼を閉じた。
「――ロック」
群衆の叫び声に混じる友の声に、ロックは振り返った。遠くから赤いライナを連れて走ってくる少年の姿を見つけ、ロックの顔は一瞬の安息を得たようにやわらいだ。
「ジール。無事だったのか」
少年は、ロックの元へ辿り着くと、ぜいぜいと苦しそうに肩で息をした。
「良かった。この光に巻き込まれてなかったんだな」
その時、ロックはジールの眼が赤く充血しているのに気がついた。泣いていたのか……? ジールは乾いた涙を隠すように、俯いてライナの手綱をロックにぐいと押しやった。
「ロック、お前はホールに乗って……、逃げろ」
その言葉に、貫かれるような衝撃をロックは感じた。一瞬にして喉が乾く。
「そのために、ここまで連れてきたんだ」
この地獄から抜け出す事が出来る。生への飢えが、身体中を一気に押し寄せる。
だけど……、ロックは唇を噛みしめた。
「そんな事、出来るはず無いだろう。お前の気持ちは嬉しいけど、皆を見捨てて行くなんて出来ない。ホールには一番小さいアンリエッタを乗せてやろう」
ロックがそう答えると、ジールは面をさらした。閃光に照らされた顔は、青ざめてみえた。ジールの唇は小刻みに震え、ロックはジールが泣き出すのだと思った。
だが、ジールは壊れたように笑いはじめた。
「きれいごと、言うなよ。自分の身は犠牲にして、他人を助ける……? この状況で、よくそんな事が言えるよな? 人間、誰だって、自分の身が一番かわいいんじゃないのかよ」
ジールの眼から、せきをきったように涙が零れ落ちた。
「俺はお前の、そういう殊勝な事が聞きたくてここに来たんじゃない。お前が、俺の事も教会の皆の事もあっさり捨てて、卑屈に逃げる、そういう姿が見たかったんだよ」
「ジール、落ちつけ。何を、言ってるんだよ」
「ホールはお前しか乗せてくれない。お前にしかなついていないんだ。俺達は皆、ライナを見捨てて機械に乗り替えた。きっと今、俺達にはその報いが来たんだ」
ジールは、ロックをぐいと無理やりライナに乗せた。ホールは、その大きなくちばしで、ロックの着ているコートを強く、くわえて離そうとしなかった。




