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こんな、こんな地獄が許されていいのか。誰よりも大切な人間が、別れの言葉も言えず、呆気無く死んでいく。
怪物が、少年の前に立ち塞がる。自分の背丈程もある巨大な剣が降りかぶって落とされようとした時、一筋の閃光が瞬いた。
怪物が力を失って、どさりと倒れる。
怪物の血を浴びた少年の眼の前に、白き法衣に身を包んだ男が現れた。抜き身の剣を鞘にしまいながら、その男は呟いた。
「こちらへ来い。……の子よ…」
その人物は確かに光に包まれているように見えた。
ロックはそこで眼が覚めた。何度も繰り返しみる悪夢。記憶は夢として甦り、いつまでも消えようとはしない。
しかし、日々の忙しさに追われて最近見なくなっていたのに、こんな夢を見たのは今日の出来事のせいか。ロックはため息をつきながら、毛布をはねのけた。
カーテンからは朝日がもれだしている。頭痛がするのは寝すぎたせいか。昨日、帰ってきて数時間仮眠をとるはずが、芯から眠りについてしまったらしい。寝ぼけた身体を起こし、床に足を下ろした途端、ドアがけたたましく鳴り響いた。
「ロック兄、起きて! 大変だよ」
子供達のかん高い声に、ロックはもう一度ため息をついた。ロシュレルの事だ、おおかた起こしに来るのを忘れたのだろう。今日は遅刻かもな、そう思いながらロックはドアを開けた。
「ロシュレル、夕飯前には起こせって頼んでいただろう。今、何時だ? 俺はもう行くから、ルミナに朝食はいらないって言っといてくれ」
ロックがそう言うとロシュレルは眼を白黒させた。
「ロック兄、何言ってるんだよ。まだ夜だよ! 俺達、夕飯が出来たから呼びにきたら……、変な光が……」
夜? じゃあ、この光は…? ロックは部屋に戻るとカーテンを思いきり開いた。
アーヴィングの街は昼間のように光輝いていた。光の帯が地上から天へ登り、夜の街を明々と照らす。美しい、白の閃光が街を包みこもうとしていた。
だが、光は美しいばかりでは無かった。よく見ると窓は溶けきって無くなっていた。そこから吹き出してくる熱風。
「ロシュレル……。外に出るぞ。エンリトから逃げるんだ」
外からは人々の絶叫が聞こえてくる。ロックは一階に降りると怯える子供達を連れて教会から飛び出した。
街は゛奇跡″のように光に包まれていた。
「何なんだ、これは……」
外は異様に熱かった。熱風が頬をなで、途端に汗が噴き出してくる。
無様なダンスを踊るように、人々は光から逃げまどっていた。とうとう、その中の一人が光に捕まった時、ロックは我が眼を疑った。
瞬時にして、人間が焼き焦がれるのを見た。道路にいくつも転がっている黒い塊は……、もしかして……。ロックはその正体に気付き、喉元まで嗚咽が込み上げてきた。
「アシュラウル様が……、お怒りになっているのだ……」
その呟きに、ロックは振り返った。ダリオ老師が呆けたように立ちつくしている。その後ろには、子供達の怯えた眼が並んでいた。




