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お前は何故、そんなにも苦しんでいるのだ。祈るようなナルシアの問いかけに、精霊は何も答えない。共鳴し、ただ一体化したように、悲しく苦しい。額から流れ落ちた汗が涙と混じる。
私は呼ばれている。ナルシアは、そっと炎へと手をのばした。
「ナルシア様!」
カルテロの怒鳴り声に、はっとした時には、もう指の先端は焼き焦げていた。
「痛っ……」
じんじんと刺すような痛みに、意識が戻ってくる。たった一瞬、触れただけなのに、指先はどす黒く焦げ、ぷっくりと水疱が浮かびあがってあた。
炎は破裂しそうな程に、膨れあがっていた。精霊の暴走に慌てふためく人々の中で、その炎が自分だけしか見ていないことにナルシアは気付いた。凶暴に猛る、その攻撃的な眼差しが自分に向けられている。
恐怖が沸き上がる。ナルシアの心には、拒絶しか無かった。
「やめろっ」
叩きつけるかのような、その叫びに、精霊の揺らめきは止まった。あれほど膨れあがっていた炎は、幼子の泣き声のようにか細く、しだいに消えつつあった。
私の声に反応したのか……? ナルシアは指から滴り落ちる己の鮮血を見つめた。
「ナルシア様……。精霊は……」
唖然とするカルテロの問いに、ナルシアは無言で首を振った。
風景から剥がれてゆくように火は薄れ、そして――、消えた。




