18
頭痛がする。ナルシアは晴天の真下、こめかみをそっと押さえた。
雲一つない空から降り注ぐ日光が、黒い喪服を射して息苦しかった。
王の葬儀は宮殿の広い敷地内で行われた。エンリトでは、火葬が主流であり、遺体を燃やす事は天上の神、アシュラウルへと魂を送り届ける儀式でもあった。そして、遺された骨は大聖堂で大事に保管される。
中庭、といっても草木の無い剥き出しの大地に棺は置かれた。その前に司祭が立ち、祈りの言葉を死者へ捧げた。
「尊き命が、この世から失われたことを惜しみ、無事、神の元へ行ける事を願う。肉体は滅びようとも魂は不滅なり。グラハム王に永遠の安らぎと幸福があらん事を……」
司祭の厳かな言葉が済むと、皆、一斉に瞳を閉じた。
闇の中、ナルシアは一心不乱に語りかけた。
゛アシュラウル様。どうか、お教え下さい。私にエンリトを守れるだけの力があるのでしょうか。この私に、何ができるのでしょうか。どうか、私を導いて下さい″
だが、闇の中、自分の声だけが虚しく響く。天上からの声は沈黙し、ナルシアは取り残されたような孤独を感じた。
「ナルシア様」
祈りに没頭するナルシアに、カルテロは心配そうに声をかける。はっとして、眼を開けると火葬の準備が始まっていた。
棺の周りを木材で囲み、油をかける。他国から輸入された花束が、棺を飾り、惜しげも無く共に燃やされようとしている。
人間、一人、死ぬというのは大仰なことなんだな……。
幾人もの眼から零れる涙に、ナルシアは冷めた感情が込み上げてくるのを押さえきれなかった。個人の安らかなる死。それに、戦で血を撒き散らしながらあっけなく死んでいった、その他大勢の兵士達の死が交錯する。なんという理不尽、なんという不公平だろう。
棺の前では、年老いた司祭が小さな火種を油に移そうとしていた。火種を投げこんだ途端、火は勢いよく燃えはじめた。
ちろちろと表面を舐めるような火が、棺を飲み込まん勢いで広がっていく。空気が高温で熱せられ、ゆらゆらと揺らめく。近くにいたナルシアは、身体が溶けているのではないかと思う程、汗が吹き出した。
人々の厳かな祈りの中、突如、それは起こった。
踊り狂う朱色の炎が、深く濃い青色へと変色していった。人々の驚きの中、青い炎は朱色の炎を侵食していく。息を飲む程、美しい青い炎に、ナルシアは驚きも忘れて見いいった。
魂が強く惹き付けられるような、青。
叫び狂い身悶えするようにうねる炎に、ナルシアは何かが見えたような気がした。
これは、苦しみ? 理解する、というよりも感覚で悟った。ごうごうと、風にあおられ揺れる炎に、ナルシアの胸は強烈に痛んだ。




