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そう言って高らかに笑うハンセンに、ナルシアは何も言う事が出来なかった。
その笑い声が俗物的に感じられ、ナルシアは軽い混乱と不快感を覚えた。
その時だった。ナルシアは不意に、異変を察知した。足元から起きてる軽い振動。次第にそれは、身を支えられない程、酷くなる。
「何事だ」
ナルシアが辺りを見渡すと、カルテロもハンセンも一様に驚いた顔で、何の返答も得る事が出来なかった。
急いでハッチを開け、ナルシアはデッキへと出た。
ナルシアの眼は驚愕に見開いた。黄金に輝く光が今まさにリュームから放出され、崩壊したウォルナの街を再び襲いかかろうとしていたのだ。
「エネルギー砲……」
どうして……。巨大な力が、街を飲み込まんとする光景を、ナルシアは唖然と見ているしか無かった。
街が消えてゆく。光は、死者も生ある者も関係なく、全てを奪って消えようとしていた。
ナルシアは、急に身をばらばらに引き裂かれるような痛みを感じた。息もつけない程の、強烈な痛み。それは肉体的でもあり精神的でもあり、どこから湧いてくるのかもわからない不思議な感覚だった。
「やめて……くれ……」
何に懇願しているのかも解らずに、ナルシアはその痛みから逃れようと、一心で呟いた。
「ナルシア様。危険です。中にお入り下さい」
慌てて追いかけてきたカルテロは、うずくまるナルシアにハッとした。ナルシアを抱きかかえるようにして、急いで中へと戻る。
通信室へ入ると、ハンセンが、通信機で会話していた。ハンセンは、二人が戻ったのを見ると、通信機を切りナルシアに向きなおった。
「どうも、ロシンダの仕業のようです。グラハム王からの命令であったと」
ナルシアは、その言葉に体温が冷める思いだった。唇を強く噛み締めるナルシアに、少しばかりの同情をこめた視線を送りながら宰相は続けた。
「ナルシア様。いかがなさいますか」
アヴェルガ家一族の住む宮殿。マルクル城。
その城内、グラハム老王の休む゛白き間″は、常に静寂に支配されていた。
美しい絵画、彫像、王の眼を楽しませる芸術の全てが此処にあったが、病魔に冒された王の命は蝋燭の光のようにゆらゆらと揺らめいていた。
その力無き静寂の中で、従者が老王へ、書物を読み聞かせる声だけが響きわたる。老王の眼は、眠っているのかいないのか、ピクリとも動かない。
従者が一つの章を読み終わり次の章へ移ろうとページをめくった時、部屋を支配する静寂は破られた。不意に部屋の外が騒がしくなり、誰かの話す声がした。
従者が驚いて耳をすますと゛白き間″の警備にあたる兵士の声が聞こえてきた。
「……一体、どうなされたのです。王は……休んでおられますので、明日の朝……。はぁ……しかし」
困惑気味の声に何事だろうかと、従者が様子を探っていると、老王の嗄れた声がした。
「 良い、通せ」
従者は、王の言うままに、部屋の扉を開けた。
入ってきたのは、ナルシアだった。出陣の疲れからか、白い頬からは血の気が失せ、青ざめている。
「ただ今、戻りました」
黄金に光る瞳。その美しい眼差しに、怒りの冷たい炎が宿っているのを老王は見逃さ無かった。
「戦況はロシンダから聞き及んでおる。ご苦労だったな」
ロシンダの名に反応して、ナルシアの表情が歪んだ。老王はその顔を一瞥すると、
「ナルシアと二人で話がしたい。お前達は下がって良い」
従者達へと命じた。
「何か言いたそうだな」
静かだが、力強い声がナルシアの心臓を射竦める。逆らいがたい、威厳のある声。しかし、ナルシアは自分の弱気を振り払うと、唇を開いた。
「どうして……、どうして、エネルギー砲を使用させたのです。なぜ、兵士以外の人間を巻き込まなければならなかったのです。私達が行なったのは武力の鎮静化だったのでは無いのですか」
「お前は……、甘いな」




