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天のカリカチュア  作者: 綾崎 伊志
 第1章 神の光
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 ロックは狭い村の中に降り立つと、小さな農場へと入っていった。


 動物達が逃げださないように囲ってある柵をこえると、ジールが小さな鳥達に餌を撒いているのが見えた。


 ジールは、この村で共に育った幼なじみだ。


「もう、仕事、終わったのか。ちょっと待っててくれ、俺の方もすぐ終わるから」


 ジールはロックに気付くと、餌を撒く手を速めた。


 ロックは動物達の小屋と、人間の住む家屋の合間にある納屋に入ると、ホールの手綱を隅の柱にくくりつけた。


 仕事が終われば、ホールはこの家で面倒見てもらっている。元々、ホールはジールの父親に譲って貰ったライナだった。


 人間の僕として空を翔けたライナが、夕暮れにその身を休めた場所。だが今は物置と化し、ガランとしている。


 飛行船が開発され機械が空を飛ぶという科学の力により、人間にとってライナは不要となった。生命体でもない無機質の鉄の塊が空に浮くという現象を、アヴェルガ家からの有難い恵みと嬉々する人々の一方で、代々人間の手で育てられてきたライナは野生に帰る事ができず処分される事になった。


 勝手な話だ。幼いロックはその事に人間への嫌悪と憤りを感じ、ジールの父親に詰め寄った。


 俺はどんな事があっても機械には乗らない。幾年かしたら、ライナに乗る運び人になるから、ライナを生かしておいて欲しいと。


 ジールの父は、はじめは仰天したが、ロックが本気なのを悟ると、困ったように、だが頷いた。彼にも長年連れ添ってきたライナへの情があったのだろう。


 全てのライナ鳥を助ける事は出来なかったが、こうしてロックは産まれたてのライナを譲り受けたのだった。


 今では、自分よりも大きく成長したホールが頭をすりよせてくる。また、明日な、そう呟くとロックはホールの頭を撫でてやった。


 外へ出ると、ジールの姿は見えなかった。道具でも直しに行ったのだろうと、柵に腰かけて待っていると、ジールはすぐに家の中から出てきた。


「ばぁちゃんが、鳥のクリーム煮が出来てるってさ。食っていくだろう」


「いや、俺はいい。モルナードのおっさんにリゴの実を貰ったんだ。俺はそれを食べるから」


 ポケットからリゴの実を取り出すと、片方をジールに渡した。


「それだけじゃ、足りないだろう。遠慮しないで食べていけばいいのにさ」


 ジールは、ロックの隣に並ぶとリゴの実を皮がついたまま、かじりついた。指の間から汁がしたたり落ちる。


 ロックはジールの服に茶色がかった血がこびりついているのを見つけた。昼ご飯の熱々のクリーム煮のために、一匹、鳥を絞めたのだろう。


 レイダートの奇襲によって、ジールの一家は柱を失った。


 それまで、家畜に餌を与える事が役目だったジールは父親の代わりに家畜を絞めなければならなくなった。


 ジールは極端に動物好きという訳では無かったが、初めて動物を殺めた時は、ひどく取り乱していた。母鳥から産まれたばかりの頃から餌を与え、面倒を見ていたのは彼なのだから。


 殺すために育てる。その虚しさを、罪悪感を少年は耐えるしか無かった。いくら嫌だと泣き喚いても、仕方の無い事だった。


 ロックは鞄から手に余る程の短剣と取り出すと、器用な手つきでリゴの実の皮を剥いた。その短剣は護身用として使っているもので、柄が皮の紐でぐるぐる巻きにされた少し変わったものだった。


 甘い果実をかじりながら、レイダートの方角を見ていると、ジールがロックの見つめているものに気付き、不安気に呟いた。


「なぁ、ロック。戦争はいつ終わるのかな」


「これは戦争とは言わないだろ。レイダート公国がいくら経済発達によって武力を高めていると言っても、エンリトとの差は歴然だ。奇襲も成功したとは言えないし、エンリトの友好国に囲まれ、完全に孤立している。それに、エンリトはレイダートの独立を認めなかった。勝負なんて、はじめから見えていたようなものだ」


「じゃあ、なんでレイダートは奇襲なんて無謀な真似をしたんだろう。一国によるテロリズム行為なんてリスクがでかすぎる」


「さぁ、無駄なあがきか、それとも……」


 そこで、ロックは言葉を失った。


 レイダートの方角が、ちかっと閃光が瞬いたかと思うと、そこから眼の眩む黄金の光が、空へと広がった。


「ロック、あの光は……! 」


 光脈のエネルギー砲。アシュラウルに与えられた光を高密度なエネルギー変換し、街一つ軽く崩壊させるエンリトの科学兵器。


 ロックは、その光を食い入るように見つめた。


 これは、戦いなんかじゃない。強者による制裁だ――。





 ウォルナの街。総人口三万程度の、アンブル子爵の統治するレイダートの小さな街である。


 しかし、小さいながらその歴史は古く、伝統を重んじる保守的な街であり、今も残る古代の建造物が街の住民達により大切に保存されている。


 ナルシアはその街並を通信室のスクリーンを通じて見ていた。真摯とも冷徹ともとれる眼差しが何かを捉え、ピクリと動いた。


「船を止めよ」

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