潜入マニュアルはいらぬ
―こちらス○ーク。待たせたな、今潜入した―
―待たせたって誰をだ?ボケてる暇があったら信号の発信源くらい突き止めてくれよ―
「まあまあ硬いことをいうな同志よ。ジャミングがかかってて不鮮明ではあるが、そうだな、あの辺りから出ているぞ。」
と”シンジ”が指差したのは、多種多様な男どもが群れを成している、「コスプレブース」なるところだ。あそこに群れるオタクの中にバカがいるのか?
「まあ疑うのも無理はなかろう。俺たちも以前はあいつ等の仲間だったからな。」
「その話は止めてくれ。俺は何年も前に二次元とはオサラバしたんだぜ。」
何を言っているのかって?良い子のみんなは知らなくていいことだ。悪い子は、そうだな、お父さんにでも聞けや。
それはそうと、バカを探す為に「コスプレブース」へと向かう俺たち。何のためらいもなくずかずかと入っていけるのは何も趣味だからではない。あくまでも仕事だ。そこ、間違えるなよ。テストにはださんがな。
―何をブツブツ妄想しておるか、同志?―
・・・うるせぇ。そういうお前はそこらのコスプレイヤーに目を奪われているじゃないか。仕事忘れんなよ。
―わかっておるよ・・・まだ未練が残っているのでな―
だったらこの稼業辞めて同人の世界にでも入ったらどうだ?という俺の当然の疑問は
―だからといって、この仕事が嫌いなわけではないぞ、同志!―
という”シンジ”の強調された言葉によってさえぎられた。
―おい、あいつじゃないか?信号がかなりどぎついぞ?―
と”シンジ”は指差した。まだ子供じゃないか。見たところ、14、5歳ってところじゃねえのか?
「はぁ、お前、何考えて・・・」
―・・・誰?・・・僕を捕まえにきたの?おじさんたち―
その少年が振り向いた。どうやらこいつも<サイバーネット>に常時接続しているらしいな。最近はガキですらつなげるのか。結構料金は高いはずだぞ?俺ですらつい2、3年前に繋げるようになったばかりだっていうのに。
―僕は聖職を担っているんだ。・・・邪魔しないでよね、おじさんたち―
―・・・何が聖職なものか。貴様のやろうとしていることは立派な犯罪行為だ。さぁ、<公開錠>を渡してもらおうか―
”シンジ”がいきなり仕事モードに入った。・・・だから嫌いじゃないんだよな、こういうところが。ちなみに、<公開錠>というのは、通常、<サイバーネット>には自分の個人情報を暗号化して接続するのだが、その際、接続を介助する<プロバイダ>と呼ばれる専門機関をとおさないといけない。その<プロバイダ>に接続を求める際に、自分の設定した<公開錠>を送信するのだ。この<公開錠>さえ判明すれば、相手の思考を読むことも、相手をコントロールすることもできる。普通、コントロールするといっても、<サイバーネット>から強制切断させられるだけで、それ以上のことは法的にいけないのだが、俺たち”掃除屋”にはそれに関する免責特権っが与えられている。つまり、相手を動けなくすることくらいたやすいのだ。<公開錠>さえわかればな。
―そう簡単に渡すとでも思ってるの?だとしたら笑いものだよ―
―思ってないさ小僧。だから力ずくで奪うのさ―
力ずく・・・これが俺たちのいう”説得”である。事実上、電脳をハッキングすることだ。
―じゃあ来なよ。そのかわり、こちらも抵抗するからね。―
―よし、同志よ。戦闘フィールド形成だ!早くしろ―
・・・はぁ。やっぱりか。仕方ない。
俺は<サイバーネット>上に仮想空間を作り上げる。だいたい三十平方メートルぐらいか妥当かこのガキくらいなら。ハッキングするといっても相手も勿論抵抗する。だから俺たちはこうして相手の電脳を一時的に疲労させる必要があるのだ。仮想空間を作り上げると、俺たちは声を合わせるのだ。
「戦闘開始!」