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8.神ノ思イ出

主人公組は空気の回です。

これは少し昔のお話・・・。


グロは・・・多分ないと思います。

 

 その世界は永遠の闇の中にある。

存在するのは荒れ果てた大地と人間を食べる化け物のみ。

彼らのことを天上の神々は「鬼」と呼ぶ。


その名前は――罪の証。


+++++★+++++


 南にある川を目指して歩く咲音、日向、日陰を見つめる影があった。

1つは3人の後ろから、足音を殺して。

そしてもう一つの影は遠くからその光景を見て小さくため息をついた。

「あれは・・・鬼、か」

彼の前には透き通る水の入った銀の器がある。

水面には歩く3人の姿とあとを追う鬼が写っていた。

その鬼の姿を見て、彼は数年前を思い出す。


+++++★+++++


 ある1人の神が万物を統べる神々の前に姿を現したのは突然だった。

その神は青い瞳と黒い髪を持つ青年の姿をしていた。

「そなた、名をなんという」

水の神が尋ねると彼は、

「今の私は名を持っていません・・・あるのは【低位の神】という呼び名のみ」

はっきりとそう答えた。

「では何故ここに来た・・・低位の神が」

木の神が続けて尋ねる。

「私はこのように名を持ちません。だから名が欲しいのです・・・勝手なのはわかっています。でも、どうしても・・・」

場は静寂に包まれた。

長くとも短くともとれる沈黙を破ったのは、金の神だった。

「与えてあげてはどうでしょう・・・この者は本当に名を欲しがっています」

「だから甘いのよ、金は。低位の者の願いをいちいち叶えていてはキリがないわ!」

火の神はそう言った。

「たしかにそれもそうですね・・・水、どうですか?」

土の神が微笑を浮かべながら水の神の方を向く。

その言葉で他の神も、件の低位の神も水の神を向く。

この最高位の神のをまとめるのは他でもない水の神だった。

水の神は少し悩んだ後、

「ならばしばらく我らの傍に置いて様子を見るのはどうだろうか。その働き次第で願いを叶えるかどうかを決めよう・・・異論は?」

見回すと他の神は何も言わない・・・肯定の証だ。

「ではそのように取り計らおう。そなたには今日から我らについて働いてもらう・・・励め」

「ありがとうございます!」

彼は深く頭を下げた。


+++++★+++++


 それから半年間、彼はよく働いた。

その能力は他の傍につく神たちを越えていた。

五柱の神の言う多少の無茶にも対応できた。

そのうち、水の神は何故優秀な彼が「低位」に留まったままなのかを不思議に思うようになった。


 ある日水の神が彼に尋ねた。

「なぜそなたは低位のままなのだ?それほどの能力がありながら・・・」

彼は淡々と答えた。

まるで、他人事みたいに。

「名前が無いからですよ・・・名は全てを表す。その名前を持たない私は自分を外に出していないことと同じです。それで上位の方に警戒されているようです」

その言葉には棘があった。


名はその者全て。

性質も素性も本性も何もかもを現す。

自分でさえ知らない事も。

神の世界ではそれを持たない者は怪しい者とされ、低位以上の神にはなれなかった。


「やはりか・・・予想はついていたのだが。では1つ聞こう」

水の神は彼に近づいた。


「名がほしいか?そなたを表す全てを」


彼は迷わなかった。

「はい」

「よかろう。そなたの働きに免じて名を与えよう。そなたの名は・・・」


(こう)


輝く力を持つ者。


「どうだろうか」

「とても素敵な名前です・・・ありがとうございます!」

彼――煌は喜んだ。


その日から煌はその名と共に上に登り始めた。


+++++★+++++


 それから数年の月日が経った。

煌は着実に(くらい)を上げていった。

そして、名もなき低位の神はどんな仕事もそつなくこなす優秀な神として注目を集めた。


 「お久しぶりです・・・水の神」

「おお、煌か。噂はよく聞くが・・・元気そうでなによりだ」

ある日、水の神のところに煌が訪ねてきた。

「はい・・・これも、あなた様が名を与えてくれたからです」

煌は礼儀正しく、深く頭を下げた。

「・・・高位になる日もそう遠くはないだろう。これからも励め・・・ところで、今日はどうした?」

水の神に問いかけられて煌は少し言い淀んだあと、

「1つ質問があります。何故、あなた様は私に名をくださったのですか?」

そう言った。

「それは、そなたが我らについてよく働いたからだろう」

水の神はさも当たり前のように答えた。

でも煌は、

「それだけでは無い気がするのです・・・決して疑っているわけではないのですが、火の神が仰っていたように私達低位の神の言葉など聞いていたらキリが無いはず・・・」

その言葉に水の神は驚いた。


水の神は「もっとわかりやすくしなさいよ」と火の神に言われるほど表情が無い。

だから嘘をついても気づかれることはあまり無い。

でも、煌は気づいた。


「いや・・・驚いた。我の嘘を見抜く者がいるとは」

顔にこそ出ないが、水の神は感心していた。

そして水の神は小さく微笑んだ。

「何故だろうな・・・我に情なんてものは無かったはずだ。それでも、そなたを『哀れ』とでも思ったのだろうか」

口に出して水の神は驚いた。


自分がこんなことを思っていたなんて。


「・・・そうですか。お時間をとらせてしまいすみませんでした」

煌はそれだけ言って水の神に背を向けた。

「ああ・・・」

その背を見て感じたのは、寂しさ。

水の神が知らない感情だった。


 水の神がいる部屋を出て、煌は凍りつくような冷たい笑みを浮かべた。

「情か・・・それがあんたを貫く剣となる」

彼の瞳が怪しくきらめいた。


+++++★+++++


 ある日、五柱の神々は天界に集まっていた。

「こうして集まるのも久しぶりですね」

「皆忙しいからな」

木の神は金の神に答えてから、

「ところで、今日は何故集まったんだ?」

水の神を見た。

「我も知らぬ。土がどうしてもと言うのでな」

「そのことですが・・・」

土の神が難しい顔をして話しだした。

「近頃、我らの周りで怪しい動きをする者がいます。今のところ目立った行動はしてませんが・・・このままにしておくわけにはいきません」

「へえ・・・そいつの名前は?」

土の神は周りを見て、誰もいないことを確認すると、

「まだ、他の者には言わないでください・・・彼の名は・・・」



「・・・煌とは、あの名を求めていた低位の者か」

木の神の言葉で火の神は思い出したようで、

「そんなやつもいたわね」

とつぶやいた。

「・・・それは、確かなのか?あの優秀な者がそんなことをするはずが・・・」

気がついたら口に出していた。

「水・・・どうしたのですか?あなたらしくありませんね」

「そうね。いつもなら『そうか』とか無表情に言い捨てるだけなのに」

土の神と火の神に言われ、水の神は慌てて、

「・・・何でもない」

と言った。

「とにかく、警戒を怠らないように。もしも、あれに手を出されたら・・・世界が崩れます」

土の神の言葉で五柱の神々はそれぞれの神殿に帰っていった。


 神殿に戻ったあと、水の神はずっと考えていた。


本当に煌なのか・・・?


そんな気持ちがある自分自身に戸惑う。

「まったく・・・どうしたものか」

困ったようにつぶやいたところに、

「失礼します、煌です」

声がかかった。

見ると部屋の入り口に煌が立っていた。

「・・・ああ、何か用か?」

「ちょっと報告に・・・実は上位試験を受けようと思うのです」

神が昇進するには「試験」を受けなければならない。

上位試験は低位の神がさらなる能力を求めて受ける難易度の高い物だった。

「そうか・・・何故今まで受けなかったんだ?名を与えたらすぐに、そなたは上位を目指すと思っていたのだが」

水の神は少し気になって尋ねた。

「それは・・・やっと準備が整ったからです」

「準備か・・・。まあよい、しっかりやれ」

「はい。では私はこれで」

煌は一礼して部屋を出て行った。

その背中を見て、水の神はあることに気がついた。


煌を中心に黒い煙が渦巻いている。


「悪の感情か・・・本当かもしれないな」



+++++★+++++


 上位試験当日。

水の神は神殿の水場でぼんやり佇んでいた。


煌は・・・。


ふとそんなことを考えて、

「まるで人間のようだな・・・」


こんな事を考えるなんて自分でも思っていなかった。


つぶやいて水面を見た時、


――リィィィン


鈴の音が聞こえた。

「来たか・・・」

弾かれたように顔をあげ、水の神は水面に向かって息を吹きかけた。

その息が通り抜けた場所から水面が揺らぎ、誰かが映った。

「やはり・・・そなただったか」

その影を認めると、水の神は煙のように消えた。


 その影は大きな扉の前に佇んでいた。

「もうすぐだ・・・これを開けたら全てを」

扉に手をあて、影は唱え始めた。


「我の力を持って、道を示さんことを欲す。万物を統べる魂の源よ、この扉を開き・・・」


だがそれは、


「煌!」


その声に遮られた。


煌が振り向くと水の神が静かに煌を見ていた。

「そなたの本当の望みは名などでは無かったな」

水の神は煌に近づく。

煌は少し身構えた。

「本当の望みは・・・『万物の力を手に入れる』、そんなところか」

煌は思わず息をのんだ。

「・・・図星か。だが甘いな。この天界において我の目の届かない場所があると思ったか」

「私を・・・どうするつもりですか」

煌は青の瞳で水の神を睨んだ。

「もちろん、万物の魂に手を出しておいて見逃すわけにはいかない。・・・しかるべき罰を」

その言葉と共に、水の神は手を軽く振り、氷で煌の身体を動けなくした。

その顔は相変わらずの無表情だった。


+++++★+++++


 数日後、五柱の神々は再び集まっていた。

話し合いの内容は煌の事だった。

「それにしても、あのおとなしそうなヤツがこんな事するなんて意外だったわ」

「そうですね・・・」

火の神と金の神の言葉に木の神も、

「ああ、罪を許すわけにはいかないが失うには惜しい優秀な者だ」

そう言って頷いた。

「そのとおりです。罰は与えなくては。どうしますか?」

土の神は他の神を見回す。

「そうだな以前の働きもあるし・・・降格させるか?」

「これ以上下がれないわよ・・・やっぱり魂、砕いちゃう?」

「な・・・火はいつも言う事が恐ろしいです。能力を奪って人間にさせたらどうでしょうか?」

木、火、金の神から出た意見を土の神はまとめ、

「水はどうですか?」

水の神を見た。

視線を受け、水の神は静かに口を開いた。


「煌は、鬼にする」


その言葉に他の神は驚いた。

「正気か・・・?」

「鬼って・・・そこまでする!?」

そんな意見も出たが水の神は、

「我は本気だ。世界を狂わすかもしれなかった行為だ・・・このくらいが丁度よい」

そう言って聞かなかった。

「ではそうしましょう。誰が術をかけますか?」

土の神に問われ、

「我がやろう」

水の神は静かに答えた。


 水の神は神殿にある『氷の間』と呼ばれる場所に入った。

その名の通り、部屋中に氷が敷き詰められている。

部屋の中央に大きな氷山があった。

その中には煌が入っていた。

「解凍」

水の神が言うと氷山は溶け、煌が出てきた。

「どうしたんですか」

「そなたの処分が決まった・・・鬼になってもらう」

水の神の言葉に煌は一瞬驚いたあと、

「はははっ・・・」

急に笑い出した。

「何故笑う」

「何故って・・・甘いですね。私を殺さないんですか」

「殺すようなものではないか・・・地の底で暮らすのだから」

煌は笑いをおさめると、

「いいでしょう・・・鬼にだって何だってなってやりますよ」

そう言って水の神の前に進み出た。

「そうか・・・・何か言い残すことは」

煌はしばらく考え、

「そうですね・・・」

恐ろしいほど綺麗な笑顔で言った。


「あなたはいつか後悔する・・・・この私を殺さなかった事を」


そして静かに目を閉じた。

水の神は静かに手を出すと、


「黒き世界の門、開け」


そう唱えた。

すると煌の足下に黒い渦が現れ、そこに煌は沈んでいく。

体が半分くらい沈んだ時、水の神は見た。


湖よりも深い青の瞳が赤く染まっていく。


頭の先まで煌が沈んだ後、門は静かに閉じた。


 誰もいない氷の間。

水の神は煌が消えた場所をぼんやりと見ていた。


――ポタッ


静かな空間に小さな音が響いた。

水が滴り落ちるような音。

「・・・」

その水が出ていたのは、自分の目からだった。

「何故・・・我は泣いているんだ?」

自分でもわからない感情にとまどう。

何よりも自分の目から「涙」が出ることに驚いた。

しばらく一人で泣き続け、水の神は思った。

「ああ・・・これが」


悲しいということか。


+++++★+++++


 「いかんな・・・もう忘れたはずだったのだが」

水の神は静かに目を開けた。

水面には相変わらず咲音達と鬼の姿が映っている。

「後悔か・・・そうだな。そなたの言うとおりかもしれない」

水面をなぞると波紋が現れ、そして映っていた光景は消えた。

「今は神子達にたくそう・・・この決着はいずれ」

水の神は再び目を閉じた。

そんなわけで第八話でした。


今回は神様の話でした。

全然話進みませんね。

早く神殿行けよ(笑)


水の神は「誰よりも人間に近い存在」だと私は思っています。

好き放題やってるように見えて、神様も苦労してます(多分)


楽しんでいただけたら幸いです。

次回もぜひご覧下さい。

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