7.黒と赤の『鬼』
かつてない規模の殺人事件多発中(流血、死体、グロ注意!)
もう15禁にしたほうがいいかもしれない・・・。
ご注意ください!
【金(金行)】
土中に光り輝く鉱物・金属が元となっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表す。
収獲の季節「秋」の象徴。
+++++★+++++
水田地帯を目指して3人は再び歩き始めた。
「ここら辺は人が多いですね」
咲音は周りを見回して言った。
「そうですね。水田で働いている人達でしょう」
「何か人がいるって新鮮な感じだね」
日陰と日向も珍しそうに辺りを見回す。
と、そこに。
「誰か!誰か来てくれっ!」
中年の男性が道の向こう側から走ってきた。
「どうしました!?」
そのただならぬ雰囲気に日陰は駆け寄って声をかける。
「長老が・・・長老が殺された!」
「え・・・・!」
咲音と日向の顔が青ざめた。
日陰は冷静に、
「その家はどこですか?私達を連れて行って下さい」
「ああ・・・こっちだ」
男性は日陰に言われるがままに走り出した。
「行きましょう!」
道を少し進んだ所に、家があった。
中に入ると、
「これは・・・・!」
うつぶせになって背中に剣が刺さった死体があった。
時間が経っているせいか、体はすでに冷たくなっていた。
血だまりが3人の足下まで広がった。
「これは・・・先代と同じ」
日陰がつぶやいた。
「先代って・・・神子の?」
日向が問うと日陰は小さく頷いて、
「まさか・・・・同一犯なのか・・・?」
「そうかもしれません・・・。だって、そっくりなんでしょう?」
咲音も日陰の考えが正しいと思っていた。
「おじさん、長老を最後に見たのはいつですか?」
日向は男性の方を向いてそう尋ねた。
「確か・・・子供達が2日くらい前に見たと言っていたような」
「じゃあ早ければその日中に殺されていたってことか」
咲音も、
「じゃあ、誰かが長老の家に入っていったのを見た人はいますか?」
「それが誰も見ていないんだ・・・」
尋ねたが、そう答えが返ってきた。
その後、2人は質問を続けたが手がかりになりそうな事はなかった。
「う~ん・・・・全然わからないね」
すると、それまで黙っていた日陰が、
「ここ最近、この地域や周辺で何か変わった事はありましたか?」
口を開いた。
男性はちょっと考えてから、
「そういえば、猟師の連中が『夜に変な物音を聞く』って言っていたな」
「その猟師はどこにいるんですか?」
「森の入り口にある小屋だ」
「ありがとうございます。ちょっと行ってみます」
日陰は男性にお礼を言い、
「水、この地と肉体に満ちる邪気を清めよ」
長老の亡骸と家を術で清めたあと咲音と日向を連れて森の入り口に向かった。
+++++★+++++
森の入り口には小さな小屋があった。
「とりあえずこの小屋の人に話を聞いてみましょう」
日陰は、
「すみませーん」
と言いながら小屋の中に入っていく。
「お邪魔します」
「失礼します」
咲音と日向もあとに続いた。
家の中には誰も居なかった。
その代わり、
「短剣・・・・?」
刃に赤い血が付いた短剣が床に転がっていた。
その周りには血だまりができている。
「もしかして、この家の人も・・・!」
「そうかもしれない。日陰、外を調べてみよう」
日向の言葉で3人は外に出て家の周りを調べた。
咲音は森へ続く小道を調べていた。
赤い血が点々と奥へ続いている。
「この向こうに誰かがいるの・・・・?」
できるだけ足音を忍ばせて、道を進む。
「まだだ・・・まだ足りない」
聞き慣れない声が聞こえた。
そっと陰から様子を見ると、人が血の滴る大きな鎌を持って立っていた。
その横には、沢山の死体。
どれも背中を刺され、血だまりが広がっていた。
息を殺して咲音が見ていると、鎌を持つ人が咲音の方を見た。
長い黒髪を風になびかせ、血よりも赤い瞳を咲音に向ける。
口の端からは鮮やかな赤と、着物の切れ端が風に舞って飛んでいくのが見えた。
この人・・・人間を・・・!?
そして見るからに黒髪の青年は殺人犯である。
咲音は日陰と日向に知らせようと来た道を戻ろうとして、
――パキンっ
「!」
小枝を踏んでしまった。
「そこにいるのは・・・・誰だ」
背後から声が呼びかける。
咲音はゆっくりと振り返った。
「お前・・・未来の子か」
青年はゆっくりと咲音に近づいてくる。
「あなたは誰・・・?」
赤い瞳が咲音をとらえる。
「俺は通りすがりの殺人犯だよ」
「やっぱりあなたが長老やこの人達を・・・!」
咲音は後ずさるが、
「っ!」
木にぶつかってそれ以上動けない。
「丁度良い・・・俺はまだ腹が減ってるんだ・・・。未来の子は・・・」
――どんな味がするんだ?
口だけでそう言って、青年は大きく鎌を振りかぶった。
「いや・・・・!」
咲音はもうだめ、と目をつぶる。
――ヒュンっ
刃物が風を切る音が聞こえた。
しかし、
「うっ・・・!」
咲音に衝撃は訪れず、代わりに青年のうめき声が聞こえた。
おそるおそる目を開けると、
「金、氷、彼の者の体を貫け!」
「咲音ちゃん!怪我してない!?」
日陰の術が青年を貫き、日向が顔をのぞき込んでいた。
「日向さん・・・日陰さん・・・」
「お前、何者だ!」
日陰は術で出した剣を青年の喉元に突きつける。
青年は怯むこともなく、日陰を見つめて笑った。
「そうか・・・お前は神子か」
「何故わかる」
剣を持つ手が震えた。
青年は日向も見て、
「分身の人形か」
そうつぶやく。
日向も驚いて目を見開いた。
「答えろ!」
更に剣を近づけて、日陰は声を荒げる。
だが、青年は答えない。
「神子の血なら足りるかと思ったが・・・まだ足りない」
「!?」
その言葉は日陰に気づかせた。
「お前が・・・お前があの人を殺したのか!」
そのまま日陰は構えていた剣を振りかぶった。
「日陰!ストップ!」
「やめて、日陰さん!」
咲音と日向は慌てて日陰を抑えて剣をその手から取り上げた。
「気持ちはわかるけど・・・こいつを殺したら何もわからなくなっちゃうよ」
その言葉を聞いて、日陰の瞳に理性が戻る。
「お前の血も欲しいが・・・今はその時じゃない」
青年はゆっくりと日陰に背を向けた。
「待て!お前は何者だ!」
「だから通りすがりの殺人犯だよ」
「・・・何でこんなことをする!」
青年は答えなかった。
そして、煙のように消えた。
+++++★+++++
青年が消えた後、3人は倒れている人を近くの集落の人に任せて水田地帯に向かった。
「ここです」
月が見え始めた頃、日陰が道の向こうを指し示した。
「うわ・・・本当に田んぼばっか」
そこには一面の田が広がっていた。
黄金色の稲穂が月の光を受けて輝いている。
「で、神殿の入り口はどこにあるんでしょうか?」
「そうですね・・・あの家の人に聞いてみましょう」
3人は田の近くにあった大きな家に向かった。
「ごめんくださーい」
「はいはい。何でございましょう」
声をかけるとすぐに女性が出てきた。
「ちょっとお訊きしたいことが・・・」
日陰が神殿について質問すると、女性は目を見開いた。
「どうかしましたか・・・?」
「いえ・・・神殿に行きたいだなんて、変わった人もいるものだと・・・」
その言葉を聞いて、後ろに立っていた日向と咲音は苦笑いした。
「普通行かないもんね・・・」
「できればあまり会いたくないです・・・」
そのあと女性は神殿の入り口を3人に教え、夕飯のおにぎりまで持たせてくれた。
「すみません・・・色々と」
「いえいえ、構いません。私達もこの天災ではさんざんな目にあっていますから」
女性に見送られて、3人は家を後にした。
「そういえば日陰さん」
休憩でおにぎりを食べながら咲音はある事を思い出した。
「あの人に神子ってこと話したんですか?」
「・・・そういえば天災がどうとか言ってたね」
「・・・話してません」
「日陰さんって結構有名人なんですか・・・?」
咲音の言葉に日陰と日向は答えなかった。
女性に教えられたとおり、3人は水田地帯の一番奥にある大きな杉の木の前に来ていた。
「大きいね・・・樹齢200年?」
「もっとありそうですけど・・・」
木を見上げている咲音と日向の横では日陰が木の周辺を歩き回っている。
「あ、ありました」
日陰が指さした先には虎が彫られた小さな岩があった。
「この虎って・・・白虎ですよね」
「よくわかりましたね、咲音さん」
ここに来る前、咲音は日向に五柱の神々と伝説について教えてもらっていた。
「勉強の成果が出てるね、咲音ちゃん」
「はい!」
日向は嬉しそうに笑った。
日陰もそんな2人を見て小さく笑って、
「じゃ、やろうか」
そして首から勾玉を取り出した。
日向もそれにならう。
そして、
――カチッ
勾玉が窪みにぴったりはまり、地面が割れて小さな穴が現れた。
「また穴か・・・・」
ちょっとうんざりしつつも3人は穴に足を踏み入れた。
+++++★+++++
狭い穴を一列になって進み、3人は突然広い空間に出た。
周りを土で固められた空間で日陰は一歩前に出て、
「我はこの地におわす五柱の神々に仕えし神子。鉱物を守りし金の神よ。我の前に姿を現したまえ!」
いつものようにそう唱えた。
すると、
――リィィン
鈴の鳴るような軽やかな音がして、一人の女性が目の前に現れた。
「あ・・・・!」
「あなたは!」
「え!?」
その姿を目にして3人は思わず声を上げた。
「ようこそいらっしゃいました。私が金の神です」
金の神は3人が立ち寄った家で会話をした女性の姿をしていた。
「すみません、騙すつもりは無かったのですが・・・・最近殺人鬼がこの村に現れているので時々ああして村に出ているのです」
金の神はすまなさそうな顔をして3人に言った。
「殺人鬼って・・・・あの黒い髪で赤い目の人ですか」
咲音はさっき見た大きな鎌を持つ青年を思い出しながらそう尋ねた。
「そうです。彼は数年前からこの村や近くに現れては人を殺していきます」
「あの人は、何者なんですか・・・?」
咲音が尋ねると金の神は、
「殺人鬼・・・その名の通り、彼は鬼です」
「鬼・・・・?」
そう言われて咲音と日向が思い出すのは絵本とかに出てくる赤や青の鬼だ。
「でもあの人、普通の人間みたいでしたよ」
「見た目だけはそうでしょう。彼は元々神でしたから」
「え!?」
事も無げに放った金の神の言葉に3人は驚いた。
「神とはいえ一番下の位の神ですが・・・彼は以前我々に仕えていました。でもある日大罪を犯して裁きを下された」
『闇を生きる鬼となって地の底の世界で生を終えろ』
「地の底の世界・・・ってつまり地獄のことですか?」
「そうみたいだね・・・でもそれなら何でこの世界にいるんだ?」
日向の質問を聞いて、
「最近、万物の均衡が崩れていますね。そのせいで地の底とこの世界を分けていた壁が壊れてしまいました・・・そして彼は人間を求めてやってきました」
金の神は溜息をついてそう答えた。
「これからあの鬼だけではなく他の鬼もこの世界にやってくるでしょう・・・これをあなた達に」
金の神は日陰に銀製の鍵を渡した。
「早く水のところに行ってもう一つの鍵を手に入れてください・・・・均衡を取り戻し、壁を修復しないと大変なことになります」
「はい」
日陰は頷いて金の神に向かって頭を下げた。
金の神は静かに消えた。
+++++★+++++
「いよいよ最後だね」
日向の言葉に日陰は小さく頷いた。
「・・・緊張してますか?」
固くなっている日陰に咲音は遠慮がちに声をかける。
「まあ・・・少しは」
日陰は小さく笑ったあと、表情を引き締めて、
「水の神の神殿はここから南に行ったところにある川の近くです・・・行きましょう」
歩き出した。
咲音と日向もそれに続いて歩く。
3人は気がついていなかった。
木の陰からじっと見つめている黒い影に。
「未来の娘に人形に神子・・・あれだけあれば十分だ」
何だよこの超展開!
・・・と自分にツッコミを入れたくなる7話。
読んでいただきありがとうございました。
また何か増えた・・・しかも一番危ないヒトだ。
イメージとしては「猫耳が似合う男」を目指していた・・・ハズ。
もう跡形もありません(泣)
グダグダ終盤に入ってきましたが、次話もよろしくお願いします。