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5.少年ノ思イ出

いつもと少し変わって日陰の過去話です。

咲音と日向は少しだけしか出てきません。


流血というか・・・なシーンが久しぶりにありますのでご注意ください!



+++++★+++++


 幼い頃に両親を亡くした少年は、神子の元で暮らすことになった。

少年は自分の名前も家も忘れていた。

神子はそんな彼を見てこう言った。


「あなたに名を与えましょう。あなたの名は“日陰”。目立たなくとも人々の支えになれる優しい子」


少年――日陰は神子の元で成長していった。


 そして、日陰が10歳になった日。

彼は神子に呼び出された。

「私もそろそろ次代の神子を見つけなければなりません」

「神子をですか?それなら(ひかり)(あおい)が選ばれそうですね・・・あ、もしかしたら(なつ)かも・・・・」

全員集落で有名な少女の名だった。

ぶつぶつ呟く日陰を見て、神子は言った。


「そうですね。でも私はあなたが神子になれば良いと思うのです」


日陰は耳を疑った。

神子がそんな事を言うなんて。

「・・・ご冗談を。俺は男です。神子にはなれませんよ」

笑って答えると神子も小さく笑って、

「そうですよね」

そう言った。


 神子が出て行った後の部屋。

日陰は神子の言葉を考えていた。

「俺が神子になったら・・・・」

もしも。

もしもの話だ。

俺が神子になったら・・・。


苦しむ人を助けられるだろうか。

術で集落を安全にできるだろうか。

幸せに、なるだろうか・・・・。 

+++++★+++++


 ふと気がついたら、床に座っていた。

「あ・・・寝てたんだ」

ゆっくり立ち上がり、日陰は隣の部屋に入った。

「おはようございま・・・す・・・神子・・・・!?」

語尾はだんだんと小さくなっていった。

目の前の光景が信じられなかった。

「神子っ!しっかりしてください!」

部屋の真ん中に広がる血だまり。

その中心に神子は倒れていた。

背中には刀が刺さっていた。

「神子っ!神子・・・・誰がこんなことをっ!」

叫びながら駆け寄る日陰の耳に、神子の微かな声が聞こえてきた。

「すみません・・・少し油断をしていました・・・。私は・・・もう・・・時間が無い・・・」

「喋らないでください!傷が!」

傷口が広がり、新たな血が日陰の腕を、服をそして神子を濡らした。

苦痛に顔を歪めながらも神子は言葉を紡ぐ。

「どうか・・・この集落を・・・守っ・・・て・・・私の・・・愛しい・・・」


“日陰”


その言葉は紡がれることなく、神子は力尽きた。


「神子・・・・神子ぉぉぉぉ!」

その亡骸を抱え、日陰は泣いた。叫んだ。

日陰にとって、神子は母親だった。

唯一の家族を亡くした悲しみに彼は我を忘れて泣いた。


+++++★+++++


 「私が先代の跡を継ぎ、神子となりました」

半年後。

日陰は集落の重鎮が集まる会議に出席していた。

そして、神子に選ばれたことを報告した。

場は騒然となった。

それもそのはず。

神子といえば女性。

集落の人間はそう思っていた。

そこに男が選ばれた。

にわかには信じられない。

「何か、証拠はあるのか!?」

そう問われ、日陰は、

「これが証拠。血の模様です」

自分の左手の甲を見せる。

そこには複雑な模様が刻まれていた。

「・・・これはまさに先代と同じ模様!」

「本当にこの男が神子なのか!?」

重鎮達はゆっくりと頭を下げた。

「神子様・・・・どうかこの集落を良き方向にお導きを」


これで。

これでいいんだ。


頭を下げる重鎮達を見ながら、日陰は心の中で呟いた。


 会議の場から帰る途中、日陰は池の畔に立ち寄った。

「・・・・」

感情の無い目で手を水に浸す。


水に濡れたところからじんわりと、


手の模様が消えていった。


そう、この模様は偽物だ。


彼は偽りの神子になった。


神の怒りを買うような所為だ。

でも、日陰にはそんな事を考える余裕なんてなかった。


あの人の望みのままに。

あの人の集落を守る。


それだけが彼を動かした。



+++++★+++++


 池の畔に神殿と呼ばれる場所がある。

神子が神意を尋ねる時に使う場所だ。

「我はこの地におわす五柱の神々に仕えし神子。万物を統べる神よ。我の前に姿を現したまえ!」

水晶の前で、日陰はそう唱えた。

本物の神子じゃないから現れないんじゃないか。

そんな心配もあったが杞憂に終わった。

『何用だ。偽りの神子よ』

ばれている。

日陰は流石に焦ったが、それは顔に出さず、

「やはりおわかりですか。そうです。私は偽りの模様を持つ神子です」

努めて冷静に答えた。

『我らの意志に背くなど、どのような罰を受けても文句は言えんぞ』

罰。

それはただの罰では無いだろう。

予想もできない。

怖かった。

それでも日陰は負けるわけにいかなかった。

「どのような罰でも受けましょう。しかし、それは私の命が終わる時にしていただきたい」

『何故今すぐではない?』

「守る為。あの人の望むように、集落を守る為です」


何て勝手な理由だろう。


答えてから日陰はそう思い、自嘲気味に笑った。

それでも譲れない。

「一人の俺を救ってくれたあの人の為ならば・・・・私は何にだってなりましょう。亡霊にだって、化け物にだって」

この思いだけは。

『おもしろい理由だ!今は罰を与えないでいよう。皆もそれでよいか?』

神が問いかけると他の神から賛同の声があがる。

『偽りの神子よ。お前への罰は【大切な者を失う】事。罰を与えるのはいつになるかわからない。明日かもしれないし、死ぬ間際かもしれない。それでもお前は、神子になるか?』


神子になるか?

そんなのは愚問だ。


「なります。この先、何を失うことになっても」


日陰は水晶を真っ直ぐ見つめ、答えた。

『良い覚悟だ。お前に血の模様を与えよう・・・異界にいる半身にも』

神が術を唱えると、日陰の手が光って模様が刻まれた。

先代の神子の物とは少し違った。

『お前は偽物だからな。誰かにばれたらそれまでだ』

神は最後にそう言って、それっきり話しかけてこなかった。


やっと手に入れた。


試しに、

「木、火、明かりをともせ」

日陰が唱えると、松明に明かりがついた。


あの人の為の力・・・【本物】の神子の力。

もう、俺の物だ。


+++++★+++++


 こうして日陰は正式に神子となった。

集落の大体の人はそれを認めてくれた。

でも。

「お前が神子だなんて災いを招くに決まっている!」

「今年は雨が少ない・・・神子のせいだ」

「お前が・・・」

「お前のせい・・・」

そんな声も聞こえきた。

夜に外に出て、殺されかけた事もあった。

集落の人達には敬遠された。


日陰は独りだった。


その寂しさを紛らわすかのように、日陰は神子として暮らした。


もっと完璧に。


真実を見極めて。


あの人のように、立派に。


みんなに認められる神子に。


「オマエノセイダ」


その言葉はもう、聞きたくない。


+++++★+++++


 「・・・・!」

日陰は突然身を起こした。

背中を汗が伝っていく。

左手には微かなぬくもりがあった。

横を見ると、咲音が驚いた表情のまま固まっていた。

「おはようございます。咲音さん」

「お、おはようございます・・・・」


あ、もしかして・・・。


「・・・あなたが手を握っていてくれたのですか?」

「は、はい・・・何だかうなされていたみたいなので・・・」

「そうですか・・・」


久しぶりに【見て】しまったからだろうか。

昔の思い出を。


日陰は横に座る少女と少し離れた場所で寝ている少年を見る。


神の罰はどうなるかわからない。

でも、2人だけは。

俺の心を開いてくれた2人だけは失いたくない。


・・・そんなことを思う俺は、勝手だろうか。

まあ、それは別にいい。

勝手なのは今に始まったことじゃない。


あの日、神に宣言した日から俺はずっと勝手だっただろう?


罰を受けるのは、やり遂げた後だ。


そんなわけで日陰の思い出でした。

いつもより2000字くらい短いですが・・・長いです。

本当は土の神の神殿に行く途中に入れるはずでしたが・・・入りきらない(笑)

ということで分けました。


次回はちゃんと神殿に行きます!

是非ご覧下さい!

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