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2.日向と日陰

冒頭に(本当に)ちょっとだけグロというか怖いシーンがあります。

ご注意下さい。

 まだ人々が神と繋がっていた遠い昔の話である。


山奥の池の周りに集落があった。

万物を統べる五柱(いつはしら)の神に守られた平和な集落だった。

ある日、集落に疫病が発生した。

それを境にこの集落に様々な天災が降り注ぐようになった。

何千もの人が死に、集落は死体に埋もれた。

埋葬も間に合わず、人々は何千もの死体を池に沈めた。


その後、この池は【千人池】と呼ばれるようになった。


切島町史 千人池ノ項 より


+++++★+++++


 眩しい光が収まり、咲音と日向は瞑っていた目を開けた。

「う・・・わ」

日向の声はかすれ、咲音は声も出せなかった。

2人の下には池が、上には空が広がっていたからだ。

「・・・下?」

咲音は違和感を感じた。

2人の目には池の全体が見える。


池が下に(しかも全体が)見えるはずが無い!


そう認識した瞬間。

「「え」」

2人は上空200メートルくらいから池に向かって落下し始めた。

「え、ちょっと何!?」

「咲音ちゃん、捕まって!」

日向は咲音を腕に抱き、庇う姿勢をとる。


2人はどんどん落ちていく。

水面が近づき、2人が身を固くしたその時。


「風、水、壁となれ」


 声がした。

大きな声ではなかったが、不思議とはっきりと聞こえる声だった。

咲音と日向の身体は落ちるのを止め、勝手に池のほとりへと運ばれていく。

「助かったみたいだね・・・」

日向は咲音を解放し、声の主を探す。


「あなたを待っていた。日向」

地面に足をつけた瞬間、声の主は現れた。


「・・・あの水鏡の!」

その顔を見て、咲音は声を上げ日向と見比べた。

声の主の顔はあの水鏡に映っていた顔だった。

日向と同じ顔。

でも日向では無い。

2人が並ぶと改めてそっくりだ。


「はじめまして。私は日陰(ひかげ)

その青年は優雅に会釈をした。

「何で君は俺の事を知っているんだ?半身ってどういうことなんだ?」

日向は今までに出てきた疑問を日陰に投げかける。

「まあ落ち着いてください。順に答えますから」


こうやって見ると、2人の性格は随分と違うようだ。


 咲音はそうボンヤリと考えた。

「まず、何で私が君のことを知っているか。それは、【半身】と関係があります」

そこで日陰は言葉を切り、突然日向の腕を取った。

日向の右手の甲には複雑な模様が刻まれていた。

日陰の左手の甲にも同じように。

「私はこの集落の神子(みこ)をやっています。神子は異なる世界に【半身】を持っていると言われている。この模様こそあなたがその【半身】である証です」

「・・・」

突然飛躍した話に2人は沈黙するしかなかった。


信じられない。

そもそも神子って何だ?


そんな言葉が胸中で呟かれる。


 真っ先に立ち直ったのは日向だった。

「・・・百歩譲って、俺が日陰の【半身】ということにしよう。何で俺達をここに呼んだんだ?」

日陰は池に目を移し、沈んだ声で答える。

「ここ最近、集落に天災が降りかかっています。始まりは疫病。次に起きたのは鳴神による山火事でした」

「それって・・・」

咲音は驚いて声をあげた。

千人池に向かって歩いていた時、日向がしてくれた【町史】の話はまだ記憶に新しい。

「・・・そうだね。ここは千人池だ」

日向も小声で言った。

平たく言えばタイム・トリップということだろうか。

「そしてつい先日、私が神々に神意を尋ねていたら・・・」


『人間共に制裁を下す』

五柱の神は口を揃えて言った。

『待って下さい!何故ですか!?あなた方の怒りを買うような事を私達はしたでしょうか!?」


聞き間違いであってほしい!


そう願ったが、答えは返ってこない。


代わりに。

日陰の目の前に置かれていた水晶が黒く染まった。


そして、


『―――!?』


目の前で粉々に砕けた。


「私達は神の怒りを買ってしまった。だから今、天災が降りかかっているのです」

「現代では考えられない発想ですね・・・」

そんなことを言えば、『危ない人』のレッテルを張られてしまう。

「私は何故、神々が怒ったのかがわかりません。だから、直接尋ねに行きます」

「それは・・・また思い切りましたね・・・」

その行動力を咲音は尊敬してしまう。


自分には考えられない。


「その真っ正面から突っ込んでいくのは好きだな。で、それに俺の協力が必要なの?」

「その通り。神々に会うには私1人の力では不可能です。【半身】とひとつになることが必要なのです」

つまり、協力してくれと言われている。


「いいよ。俺も神々の意志は気になるからね。咲音ちゃんは?」

傍観者に徹していた咲音は突然話を降られて驚いた。

「えっ・・・私は別にいいですよ」

ここで日陰が初めて咲音に意識を向けた。

「あなたは・・・に似ていますね」

「なんて言いましたか?聞き取れなかったです」

咲音が日陰に聞き返すと、彼は小さく首を振り、

「何でもありません。では、日向。右腕をこちらに差し出してください」

「こうかな?」

日向は言われるがままに手の甲を空に向けて日陰の方に差し出す。


日陰は甲の模様に自分の左手を重ね、静かに唱えた。


「我、五柱(いつはしら)の神に仕える者。(いにしえ)より伝わる掟に従い、陰と陽の力を統べる事を欲す!」


その瞬間、2人の手が光り、

「う・・・っ。何だこれ・・・熱い・・・!」

日向は身体中を苦しい程の熱さに襲われた。

日陰も声こそ出さないものの、表情が歪んでいた。

咲音はハラハラして2人を見ているしかなかった。


 しばらくして光が収まり、

「模様が消えた・・・」

その代わり、2人の手の上にはペンダントが2つのっていた。

勾玉が1つだけついたシンプルなデザイン。

淡い黄色と水色の色違いだから対になっているのだろう。

「これで神々に会う為の力が手に入りました。日向、いつもこれを身につけてください」

そう言って日陰は黄色の方のペンダントを日向にさしだす。

それを受け取り、日向は、

「これからどうするの?早速会いに行く?」

日陰に尋ねた。

「一度集落に戻りましょう。長旅になりそうなので支度も必要です」

そう行って踵を返し、細い道を進んでいく。


「ついて行った方がいいよね。咲音ちゃん、いける?」

日向が心配したのは道の事だ。

今の世界と違って整備されてない道は歩きづらい。

中学生女子が歩くのは心配だった日向。

でも、田舎育ちの咲音にはいらぬ心配だ。

大丈夫な事をアピールするために、後ろを向いて歩いていたら、

「全然平気ですよ。別に珍しくもないです・・・!?」


躓いた。


身体が後ろに傾き、


こけるっ!


咲音がそう思った時、

宙をさまよっていた腕が引っ張られ、

「ふ~、危なかった」

日向の胸に顔をうずめる格好になった。

「・・・すみません」

思わず謝る咲音に日向は意外に低い声で、


「謝っても・・・許さない」


そんなことを耳元で囁く。

日向には考えられない言葉と、

耳元にかかる息と、

身体に響く声でパニックになった咲音は日向の顔を思わず見た。


 そこにはいたずらっぽい笑顔を浮かべた顔があり、

「なんて言ったら・・・どうする?」

咲音は脱力した。

「からかわないでくださいよ・・・」

「ごめんね。でも、怪我がなくて良かったよ」

「あ、お礼を言ってなかったです・・・ありがとうございました」

「いえいえ。こっちも可愛いモノ、見せて貰ったしね」

咲音の反応のことである。

「・・・早く行きましょう」

真っ赤になった顔を隠して前に進もうとした咲音の前に手が差し出された。

「また、こけたら危ないからね」

一応中学生女子としては異性と手を繋ぐことをためらうものだ。

でも日向の様子は別に照れているわけでもなく。

妹と手を繋ぐような感じがする。


そう思うとなぜか咲音は複雑な気持ちになり。


「・・・」

無言で手を取った。


+++++★+++++


 道をしばらく歩くと、小さな家が幾つか見えた。

「日陰兄ちゃん、おかえり~!」

「おかえり~」

3人の前に小さな男の子と女の子が現れた。

着ているものからして集落の子供だろう。

「ただいま。ヒロ、ナオ。わざわざ迎えに来てくれたんですね」

日陰はヒロとナオに微笑んで頭を撫でた。

「兄弟ですか?」

「違いますよ。神子になる前に近所に住んでいた子です」

答えながらも日陰の目は穏やかだ。


 2人に両手を繋がれ、他愛のない会話をしながら道を歩く。

一行の前に1人の女性が現れた。

「こら!ヒロ、ナオ!神子様に失礼な事をしないの!」

そう言ってヒロとナオの頭を強引に下げさせ、

「どうかお許しいただきますよう・・・」

2人を引きずって帰っていった。

道には日陰と後ろを歩いていた咲音と日向しかいない。

「・・・あの方は子供達の母親です。神子になる前は普通に接してくれたのですが・・・」

独り言のように彼はつぶやいた。


ずっと普通の子供で暮らしてきた。

ある日、神子に選ばれるまでは。


男の【神子】なんて、災いを招く。


そう言われ続けた。


周囲の人達は離れていった。


もう、誰も。


日陰を【日陰】とは見ない。


見るのは、


【神子】の肩書きだけ。


「さあ、行きましょう」

歩き出した日陰の後を2人は慌てて追った。


+++++★+++++


 日陰の家は広くは無いが手入れがされた綺麗な家だった。

「何も無いですが、しばらくゆっくりしていてください」

そう言い残すと日陰は家の奥に入っていった。

残された2人はとりあえず適当な床に腰をおろし、家の中を見回す。


壁一面に掛かっている草や木の根。


小さな机の上には沢山の竹簡や木簡が置いてある。


日向は壁に掛かっている草を1つ手に取った。

「これ、ヨモギだね。薬になるのかな?」

「ヨモギが薬・・・ですか?」

「うん。ヨモギは貧血とか冷え症とかに良く効くんだ。今でもお茶とかにして飲んでる人も多いよ」


歩く百科事典みたいだ。


咲音はそう思った。

そこに小さくまとめた荷物を持ってきた日陰が現れた。

「日向、薬草に興味があるのですか?」

「いや、何でこんなにあるのか気になっただけだよ」

日陰は壁のヨモギを1つ手に取り袋に詰めながら、

「これは全部薬になります。私は薬草を煎じて集落の方々に処方しているのです」

「お医者さんみたいなこともしてるんですね」

「神子の仕事の一環ですから」

神子の仕事は色々あるらしい。


ここで咲音と日向はすっかり忘れていた疑問を投げかけることにした。

「「ていうか、神子って何?」」

「ああ・・・忘れてました」


この集落は、神の意志によって方向性を変える。


神子とは神の意志を聞き、人々に神託を伝える選ばれた者。


他にも病気の人を助けたり、集落の問題を解決したり、と色々な仕事がある。


通常、神子には未婚の女性が選ばれるものだが、どういうわけか神託により日陰が選ばれてしまった。


「神子に選ばれた時は本当に猛反対をくらいました。『男の神子など何事だ!』って」

事情をよく知らない2人にはそういうものなのか、という認識しか無い。

でも、一瞬歪んだ日陰の表情から彼の辛さを知った。

「じゃあ、さっき池で使った術は?」

日向が努めて明るい声で言った。

「あれは神子の持つ力です。神子には特別な神の加護がついていますから」

やっと理解が追いついた2人だった。


さてと、と日陰はつぶやいて2人に荷物を1つずつ渡した。

「そろそろ出発しましょう。できるだけ早めに着いた方がいいですからね」

「そうだね。行こうか」

「まずはどこからですか?」

尋ねられ、日陰は家の外に出て山を指差した。


「あの山にある【木の神】の神殿から行きましょう」

そんなわけで二話目でした。


自分で書いていてワケが解らなくなってます。

誰だ、こんなめんどくさい設定作ったのは!


私ですけどね。自業自得ですね。

本当に解りづらい話ですみません。


次は【木の神】と会う話・・・のハズです。

ぜひご覧下さい。

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