12.別れ
短っ!?
・・・それだけです。
魔物が飛びかかってくる。
咲音は避けることもできない。
「――!」
思わず目をつむる。
でも、予想していた衝撃は襲ってこない。
代わりに・・・。
「光、魔物を消し去れ!」
神殿に残してきた、声が聞こえる。
魔物を飛び越え、咲音の前に立ったのは、
「日陰さん・・・・!」
「大丈夫ですか?」
「どうしてここに・・・!?」
「迎えに来ました・・・・ってやっぱりこうなってたか」
日陰は周りを取り囲む魔物を見回して、小さく溜息をついた。
そして、咲音をちらっと見て、
「魔力がまだ回復してないから、強い術は使えないけど・・・あなたを守ることはできます」
その手を取ると、真っ直ぐ前を見て、
「行きましょう・・・・!」
「はい!」
二人は走り出した。
自分の心臓―があるはずの位置。
そこに刃が突き刺さった。
そして、体内で何かが砕ける。
日向はそれを感じたあと、急に体に力が入らなくなった。
俺はどうしたんだろう・・・。
なすすべもなく、倒れる。
あ・・・咲音ちゃんの声が聞こえる・・・。
薄れていく意識の中、最後に見たのは年下の女の子の泣き顔だった。
あぁ・・・そんなに泣かないで。
君は笑っているほうがずっといい。
だから、精一杯の力で笑った。
そして、日向の意識は闇へ沈んでいった。
「・・・・!?」
突然、水の神は動いた。
視線は日向の体が入っている氷の方へ。
「まさか・・・!」
慌てて氷を溶かすと、日向の体はもう頭しか残っていない。
いくら時の止まった空間とはいえ、命を留めるのはもう、不可能だった。
「日向!諦めるな・・・!お前がいなくなったら・・・日陰は、咲音はどうするんだ!」
(・・・でも、もう力がでない)
日向は口を動かそうとするが、うまくいかない。
少しだけ見えていた周りの景色はさらに暗くなっていって・・・。
(あ・・・見えない)
日向の全ては砂に変わった。
「・・・・!」
日陰が突然立ち止まった。
「どうしたんですか・・・?」
「・・・日向が・・・」
その言葉だけで、咲音は全てを悟った。
「嘘・・・・!」
信じられない。信じたくない。
2人はまた、無言で走り出す。
そして、神殿の入り口に着いたのは夜中だった。
2人の体力は既に限界。
でも、2人は走った。
――バンっ
扉を開く。
そこには水の神と土の神がいた。
いや、『しか』いなかった。
「日向は・・・・?」
震える声で日陰は神に問う。
「すまない・・・」
水の神がゆっくりと、動いた。
「・・・・」
神殿の床にできた砂の山に咲音と日陰はゆっくりと近づく。
咲音は両手で砂をすくった。
サラサラと、指の間からこぼれ落ちる命。
「間に合わなかったわ・・・でも水晶はここにある」
土の神が静かに言った。
「もう一度、彼を創ることはできる・・・器だけは」
「もう二度と『日向』は創れない。できるのは『日向』の外見をした別のモノだけだ」
水の神はそう言って、2人を見た。
もう一度、創るのか?
長い沈黙。
「いいえ」
「創りません」
2人は同時に言った。
「それはもう、日向じゃない」
「・・・そう言ってくれて助かった」
いつの間にか、砂は消え去っていた。
「日向の魂は輪廻を巡り、いずれこの世に現れるだろう・・・」
それからしばらくして、だいぶ落ち着いてきた咲音はふと思い出し、
「あの・・・水晶玉・・・」
「そうだったな。その様子だと水晶玉は腕の中か?」
『その通りだ。神子よ、我を解き放つ言葉を』
魔物の言葉と、水の神と土の神の視線に促されて、日陰はゆっくりと咲音の手をとった。
「我が名は日陰。古の契約に従い、その姿を我が前に現せ!」
すると、
「きゃっ・・・!」
咲音の腕が光って、
『我は繋ぎの魔物。契約に基づき、神子を繋ぐものとなろう』
水晶玉が手の上に現れた。
「久しいな、二番目の魔物」
水の神は水晶玉に向かって話しかける。
『ああ、先は一番目が世話になった』
少し会話をして、
「日陰――神子よ」
突然水の神は日陰を振り返った。
「はい」
「これよりこの水晶玉は天と地を繋ぐ唯一の媒介となる。もう二度と過ちを繰り返さず、この地を治めることを誓えるか?」
「誓います」
日陰が言った刹那、
「契約はなされた!我らはこの地を見守ることを約束しよう!」
フッと水晶玉が咲音の手から消えた。
「水晶玉は神子の社に戻った」
「じゃあ・・・・・・」
「全部、終わったんですね・・・・」
二人は同時に息を吐いた。
そんな二人を見て、水の神は、
「そういえば・・・咲音。そなたはどうするのだ?」
「え?」
「全ては終わった。そなたをあるべき場所に返すこともできるが」
「あ・・・・」
咲音は思わず声をあげた。
忘れてた。私は未来から来た人間だ・・・・。
すぐには答えることができなくて、
「あの・・・未来に戻ったら日向さんは・・・・・?」
咲音はそう尋ねた。
「日向の存在は消える」
「消える・・・・!?」
「人々の記憶から綺麗に消え去る。覚えているのはそなただけになるだろう」
「・・・」
「この地に残ることもできるが・・・どうする?」
水の神が問う。
咲音の瞳に迷いの色が浮かぶ。
日陰さんと別れるのは・・・辛い。
長い時間、沈黙が続いて、
「帰ります。未来での日向さんの存在を私は忘れたくない」
咲音の言葉に、日陰は穏やかに笑って、
「それがいいですね。日向をよろしくお願いします」
咲音に言った。
「水~!来たわよ」
神殿に少女の声が響いた。
「皆、来てくれたか」
「え?」
咲音と日陰が声のする方を見ると、他の3人の神が立っていた。
「何でここに?」
「時間を操る術を使うには、我ら全員の力が必要」
木の神は相変わらずの落ち着いた声音で、
「だから水に呼ばれて来たのよ」
火の神は元気な少女の声で質問に答える。
「未来の娘よ。準備はよろしいですか?」
穏やかに金の神が言った。
「ちょっと待ってください!」
咲音は日陰に駆け寄り、
「本当にありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ沢山助けていただいてありがとうございました。あなた達のおかげでこうして水晶玉を手に入れることが出来ました」
「大変だったけど、楽しかったです・・・・元気でがんばってください!」
それだけ言うと、咲音は神の居る場所へと戻り、
「お願いします」
「わかった・・・時間を動かすは5つの力」
水の神の声に続いて、
「その力を持って、時の道を開く」
『開け!』
その瞬間、咲音の体が光った。
視界が白く霞んで、世界が見えなくなる。
咲音は最後に日陰の顔を見た。
「君に会えてよかった・・・・ありがとう」
日陰は咲音に向かって大きく手を振って、そう言った。
それが、あの世界、あの時間の中でみた最後の光景だった。
短くてすみません。意味わからなくてすみません!!
いよいよ次回あたり最終話な感じです。
なんか1クールアニメの如く13話で終わらせます。
そんなわけで最終話も是非ご覧下さいませ!