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11.終わる命と生まれる気持ち

やっぱりグロいんですかね・・・。

気をつけてください。


 鬼は苦しんでいた。

自分の全てが憎かった。


輝く力を持つ者。


僕はそんな風にはなれそうにない・・・。


+++++★+++++


 「煌、我はそなたを『生んだ』。だから・・・そなたを『殺す』のも我だ」

水の神は静かに片手を挙げた。

「そうですか。でも、私は死ぬ訳にいかない」

鬼――煌も鎌を構えた。

数拍の沈黙。

そして2つの影は同時に動いた。

鬼の鎌と、水の神が手にした剣がぶつかり合った。


+++++★+++++


 咲音はヒロとナオの案内で、細い道をひたすら走っていた。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

ナオが咲音を振り返り、心配そうに声をかける。

正直に言えば、大丈夫じゃない。

でも、それを言ってもどうにもならない。


それに、倒れるわけにはいかない。


「大丈夫だよ」

咲音はそう答えた。

木の根をよけながら、咲音は小さな背中を懸命に追った。

また走りつづけてしばらくして、一番前を行くヒロが声をあげた。

「お姉ちゃん、出口だよ!」

その言葉に前を見ると、僅かに明るい光が差し込む場所があった。


もうすぐ池だ。


咲音は走る速度を上げて、池のほとりへと出た。

「本当・・・近い」

着くのは夕方か、と思っていた咲音は、まだ高い日の位置に驚いた。

「ナオ、ヒロ。ありがとう!」

「ううん。いいの」

「頑張ってね、お姉ちゃん」

2人は再び細い道を戻っていった。

「さて・・・」

残された咲音は水面を覗き込んだ。

あの時――日向と現代の千人池を見た時と変わらない静かな水面だった。

そっと深呼吸して、咲音は懐から5つの鍵を取り出した。

水の神に言われたとおり、ゆっくりと鍵の束を水面に掲げる。


――ザアッ


風が吹き抜けた。

次の瞬間、


「えっ・・・・!」


咲音が手に持っている鍵が光り出した。

錫の鍵は青色、銅の鍵は紅色、金の鍵は黄色、銀の鍵は白色、鉄の鍵は黒色。

目が開けていられないくらい眩しい光は、咲音を包み込んで。


――ドスッ


「うっ・・・・」

咲音は地面にたたき付けられた。

「いつの間に・・・」

立ち上がり周りを見渡すと、落ちた場所は小さな部屋のようだった。

真ん中に木でできた箱がおいてある。

咲音は近づいて箱を手に取った。

鍵穴が5つ。

それぞれの穴の上に動物が描かれている。

青龍、朱雀、麒麟、白虎、玄武。

五行を司る聖獣の姿だ。

咲音は一つずつ、鍵を外し、穴に差し込んでいった。

カチリ、カチリと音がして、穴はだんだん埋まっていく。

そして最後の一つ。


――カチッ


鍵が開いた。


咲音はゆっくりと箱を開けた。

中には小さな透明な水晶玉があった。

「これを神殿に持っていけばいいのね」

手に水晶玉を持つと、ずっしりとした重さが伝わってくる。

水晶玉の輝きに、思わず咲音はため息をつく。すると、

『お前は未来(さき)の子か』

「へ?」

水晶玉から声が聞こえる。

老人のようで、でも若い男のような不思議な声だった。

「あなたは・・・?」

『我は五柱の神に封じられた【繋ぎの魔物】』

「繋ぎの魔物?」

聞いたことのない単語に咲音は首を傾げる。

『繋ぎの魔物とは神と神子を繋ぐもの。つまり、神の言葉を神子に伝える役』

「・・・ねぇ、水の神の神殿の様子って見れる?」

『可能だ』

魔物はそう言った。

しばらくして水晶玉に神殿の風景が映った。

一面の光。

真っ白で何も見えない。

咲音は食い入るようにその光景を見ている。

やがて、2つの影が光の中に見えた。


+++++★+++++


 その瞬間、爆発音と共に眩しい光が部屋の中に溢れた。

細かく砕けた石が小さな音をたてて床に落ちる。

熱風は水面を揺らした。

光がおさまり、爆発の中心には血の滴る刃を持つ影と、倒れる影があった。

青の瞳で鬼を見つめた水の神は刃の血を払った。

地面には左胸――心臓の位地に刺し傷ができた鬼が倒れている。

「我は全てを統べる神だ。鬼になど負けるはずがない・・・それをわかって、そなたはあえて、正面から挑んできたのか?」

光の消えかけた赤の瞳が神を捉えた。

「そうかもしれないし・・・そうではないかもしれない。・・・勝てると思っていたし、負けると思っていた。でもこれだけは言える・・・」

鬼は手を神の方へ伸ばす。

そして、瞳から涙がこぼれた。


「私は・・・自分が嫌いです・・・人を殺し、血や肉を食べて生きるこの体が。大罪を犯すことを選んだこの精神が・・・大嫌いです。いつから私はこうなった。考えてもわからない・・・それでも、あなたには感謝しているのです」


「恨んではいないのか・・・そなたを鬼にした我を」

「はい。あなたは名をくれた。私をいつも気にかけてくださった・・・親しい者がいなかった私は本当に・・・嬉しかった」

そこで鬼は小さく呻いた。

刺し傷からの出血は止まる気配がない。

「・・・最後に一つ・・・我が儘を・・・言わせてください」

朦朧とした意識の中、鬼ははっきりと言った。


「その手で、私を消してください。再び封印するのではなく・・・魂の消滅を」


魂の消滅。

死後の魂は死後の国にも地の底にも行かず、もう二度と、輪廻の輪には戻らない。

この世界で最も残酷とされる死に方。

「それを我に言うのか・・・?」

水の神の表情が変わった。

その顔にはいつもの無表情ではなく、戸惑いが浮かんでいた。

「あなたに頼んでいるのです。他の誰でもない・・・私を『生んだ』あなたに」


「我はそなたを『生んだ』。だから・・・そなたを『殺す』のも我だ」


それはさっき水の神の言った言葉。

鬼は水の神に「自分の手で終わらせろ」と言ってきたのだ。

「・・・よかろう」

水の神はいつもと変わらない声音で言い、鬼の前に膝をついた。

そして両手を鬼の胸にかざす。


「我はこの世を統べる者、罪を犯した者の名は・・・煌。我の名においてその悪しき魂を砕き、輪廻への道を閉ざせ!」


詠唱が終わると同時に、水の神の手が光った。

煌の指の先が消えていく。

「・・・泣いて・・・いるんです・・・か?」

今にも消えそうな声で煌は水の神に話しかけた。

「・・・」

水の神は何も言わない。

ただ、静かに涙を流していた。


こんな風に泣くのはもう2度目だ。

今までに感じたことのない、この感情。

あぁ・・・・そうか。


水の神は初めて知った。


これが悲しいということか。

苦しいということなのか。


静かに涙を流している神を見て、煌はもう顔しか残っていない体で微笑んだ。

「あなたの・・・ことは・・・嫌い・・じゃ・・・なかった・・・ですよ」

水の神は少し驚いてから、少しいびつに微笑んだ。

彼なりの精一杯の微笑みだった。


「我もだ・・・ありがとう」


そして、煌の顔は光の粒子になって消え去った。


 咲音は何も考えられず、ただ泣いていた。

水晶玉に映った光景は咲音の意外なものだった。

鬼と水の神があんなに親しいなんて思ってなかった。

そしてその別れは悲しいものだった。

「・・・・」

泣いている咲音に、

『娘、お前の役目は、何だ』

そう言ったのは繋ぎの魔物だった。

「・・・!」

咲音の涙は一瞬で止まった。

「早く神殿に・・・!」

そう言って、咲音が魔物の方を見ると、

『わかっている。娘、水晶玉を手に持て』

言われたとおり、両手で水晶玉を持った。

すると、

「わ・・・」

水晶玉は咲音の手の上でどろどろした液体になり、肌に吸い込まれていった。

『これでお前が死なない限り、水晶玉は安全だ。ただし、お前は強大な力の源をその身に宿したことになる・・・多くの魔物や怪物が襲ってくるかもしれん』

手から繋ぎの魔物の声が聞こえる。

「わかった」

咲音は短く答えて、出口へと走って行った。


+++++★+++++


 ――ここはどこだろう。

何も見えない。

何も聞こえない。

何も感じない。

日陰は真っ暗な闇の中に立っていた。

歩くこともできずにただ立っていた。

辺りを見回すと、一筋の細い光が遠くに見えた。

日陰は迷わず歩き始めた。


 そこには『あの人』がいた。

日陰が神子になったきっかけ。

「先代・・・・?」

光の中、立っていたのは日陰を育てた先代の神子だった。

『日陰・・・お前はもう、来てしまったのですか・・・?』

「来た・・・?」

どういうことだ?

言われている意味がわからない。

日陰は何も答えられず黙っていた。

先代の神子は再び口を開く。

『お前はまだ来てはいけない。その役目を成すまで・・・さあ行きなさい』

日陰の額に手を当て、先代の神子は何かを唱えた。

すると、視界が明るくなって日陰の耳にたくさんの音が聞こえはじめる。

「何を・・・!?」

したんですか、そう尋ねようとした声はだんだん小さくなってくる。


 次に見えたのは自分にそっくりな顔をした影だった。

「日向!」

それは鬼の刃に倒れた日向だった。

体から流れていた血は止まり、日向は真っ直ぐ立っていた。

「怪我は大丈夫なのか!?」

日陰は肩を掴んで言った。

でも、

「・・・日向?」

「・・・・」

日向は何も言わない。

何か様子がおかしい。

目の焦点があっていない。

「おい、日向っ!」

叫ぶと日向はゆっくりと目を日陰に向けた。

その目は何も感じていないようで、日陰は思わず息を呑んだ。

感情のこもらない声で、日向は言った。


「ありがとう・・・ごめんね・・・・」


そして、その姿はだんだん消えていった。


+++++★+++++


 「・・・・!」

次に日陰が目を開けると、そこは水の神の神殿だった。

覚醒しない頭でゆっくりと辺りを見回す。

そして思い出した。

「そうか・・・俺は・・・」

鬼に命を懸けた術を放って、そして倒れた。

「鬼は・・・!?」

剣の突き刺さる感触はあった。

でも鬼の姿は無い。

「安心しろ、逃げてはいない」

感情の読めない、静かな声がした。

水の神は日陰の横に立って、地を見つめる。

「煌は我が始末した。二度とこの世に現れることはない」

煌。

それが鬼の名前だと、日陰は気づいた。

水の神の頬に涙の跡があることにも。

驚いたものの、日陰は何も言わない。

ただ、その顔をじっと見つめていた。

しばらくして、水の神はその視線に気づいたのか、青の瞳で日陰を見た。

「どうかしたのか?」

「いえ・・・そういえば日向はどうしたんですか?咲音さんは?」

「・・・それだが」

水の神は腕を重たそうに動かして、神殿の片隅に置かれた氷を指した。

「あれは我の術で作った壁だ。あの中に日向はいるが・・・見ての通りだ」

その指の先にあるものから、目が離せない。

「本当に・・・日向?」

砂になりかけた体は確かに日向の物。

でも信じたくない。

「鬼の刃がちょうど水晶に当たった。修復にまだかかりそうだが・・・日向の体がもつかどうか・・・」

「・・・・咲音さんは?」

「未来の子は池に向かった」

「・・・あれを取りに行くために、ですか?」

「そうだ」

日陰は水の神に背を向けた。

「どこに行く?」

「迎えに。咲音さんを・・・迎えに行きます」

日陰は走り出した。


 咲音は神殿に向かって走っていた。

ヒロとナオに教えてもらった狭い道は既に薄暗くなっていた。

水晶玉の力のせいか、咲音の体は風のように道を駆け抜けていく。

「早く・・・早くしないと!」

その時、


「何っ・・・・・!?」


道をふさぐように、黒い影が現れた。

獣のような、人のような異形のモノ。

『・・・人を襲う魔物だ』

頭の中に直接語りかけるように、繋ぎの魔物の声が響く。

「魔物・・・!?」

後ろを見ると、更に魔物は増えてきていて、逃げ道は無い。

「どうしよう・・・私、戦えないよ・・・!」

『今のお前なら逃げ切れる事もできるかもしれないが・・・・』

繋ぎの魔物がそう言ったとき。


――ザッ


地を蹴る音と共に、影が一斉に動いた。


気がつけば10話越えしてましたよ・・・今気づいた(笑)

ご覧頂きありがとうございます。水鏡の向こう側です。


終わりませんね・・・この話。

いい加減完結させようと思ってるのですが・・・。


とりあえずもう少し続く予定ですので、次話も是非ご覧下さい!

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