10.一人と二人
想像すると恐ろしいシーンあります。
いつもより短めです。
その身体は土の塊。
その命は輝く水晶。
その心は・・・人の物。
+++++★+++++
それは一瞬の事だった。
目をつぶった咲音は、鎌の衝撃を覚悟したがいつまでたっても来なかった。
恐る恐る目を開けると、目の前の見慣れた背中が傾いだ。
その背中が咲音の盾になった。
「うそ・・・」
それは色素の薄い髪を持った人。
「日向・・・さん・・・?」
「大・・丈・・・夫・・?怪我・・・してない?」
日向は身体から血を流しながら、咲音に笑いかけた。
「日向さん・・・!今、止血を・・・」
日向の背中は袈裟懸けに切られていた。
溢れ出す血は既に固まっていた。
・・・いや。違う。
目の前の光景が咲音と日陰には信じられなかった。
傷口から流れるのは血なんかじゃない。
砂だ。
「なに・・・これ?」
日陰の口から呆然としたつぶやきが聞こえた。
「日向の身体は、私が神殿の土を使って作ったのです」
声がした。
それと同時に日向の前に土の神が現れた。
「彼の身体は人形の身体。霊力を込めた水晶を土に埋め、術をかけて作りました。ですが・・・」
そこで土の神は日向を見た。
「動力源の水晶が今の攻撃で砕けました。もはや彼はただの土の塊・・・」
「そんな・・・!」
土の神は冷酷とも思える声で言った。
咲音と日陰は声もなかった。
長い沈黙。
それを破ったのは、
――ヒュンッ
鎌が日陰に襲いかかる音だった。
「・・・っ!本当に鬼だなぁっ!」
「うるさい。一人食い損ねたんだ、次は食う」
鬼は機嫌が悪そうだった。
赤い瞳はさらに鈍い輝きを放つ。
「お前に食べられるわけにはいかない!日向に怒られるからね」
日陰は剣を構え、鬼に突進していった。
+++++★+++++
「日向さん・・・」
残された咲音はただ日向の横に膝をつくだけだった。
まだ信じられない。
さっきまで、笑っていたあの人が。
頭をなでてくれた手が、冷たい。
「氷の壁、時を止めた空間を」
水の神が日向に向かって術を放った。
すると、日向の周りに厚い氷の壁ができた。
「これは・・・?」
「この壁の中は時の流れが遅い。これで水晶を修復するくらいの時間は稼げるはずだ・・・とは言っても、そこまで持たないが」
咲音に声をかけ、水の神は土の神を見た。
「土、水晶の修復にどれくらいかかる」
「少なくても3日はかかる・・・そこまで身体が持つかどうか」
「持ちますよ。日向さんは大丈夫」
咲音は思わず口を挟んでいた。
まるで自分に言い聞かせるかのように。
土の神は困ったように笑って、消えた。
日陰は焦っていた。
体力が底を尽きかけている。
このままじゃ・・・負ける!
剣は刃こぼれしてボロボロ。
術をつかう霊力もあまり残っていない。
「そろそろ終わりか?」
「・・・まだまだっ!」
涼しい顔でいる鬼に、日陰はある術を使うか考えた。
その術は日陰の知っている中で最大の威力を持つ。
しかし、使えば自分の命を削る。
死ぬかもしれない。
でも、目の前には守りたい人達がいる。
それならば、迷う必要なんてない。
日陰は剣を逆手に構えた。
「そなた・・・あれを使うのか!?」
水の神は日陰の動きに気づいて、声をあげた。
「はい・・・止めないでくださいね」
「いいのか・・・それで?」
水の神の問いかけに日陰は静かに頷いた。
そして深呼吸をすると、
「万物の根源たる五つの力、その全てをもって我の魂を喰らい、粛清の剣となれ!」
はっきりとした声で唱えた。
「魂を・・・喰らう・・・?」
日向の傍にいた咲音は、術の一部分に首を傾げた。
「その言葉の通りの意味だ」
気がついた水の神が咲音に言った。
「あの術は万物の力に術者の魂の力を加えて光の剣を作る強力で危険な術。使う度に術者の命は削られ、運が悪ければ死に至る」
「そんな・・・!日陰さん・・・やめてくださいっ!」
咲音は叫んだがすでに遅い。
日陰の手にしていた細身の剣は光り輝く巨大な剣に変わっていて、その槍からは周囲とは違う巨大な力があふれ出していた。
日陰はゆっくりと剣を鬼に向ける。
そして、走り出した。
全身から力をあふれ出させて、鬼に向かって走る日陰。
その表情は、少し苦痛に歪んでいた。
「日陰さん!」
そして、
――キィィン!
再び刃がぶつかりあった。
鬼が押されている。
光の剣はだんだん鎌を押していき、
「うっ・・・・!」
鬼の肩に、光の剣が突き刺さった。
日陰はすぐに剣を抜き、再び構える。
だが、その顔がもう一度歪んで。
――バタンっ
「・・・え!?」
倒れた。
「日陰さん!」
咲音は日陰の元に駆け寄ろうとして、
「次はお前か・・・・?」
鬼に行く手を阻まれた。
しまった・・・。
咲音は自分の迂闊さにあきれながら、鬼を睨んだ。
「通して下さい」
「嫌だ」
鬼は無表情に鎌を振りかぶ・・・れなかった。
「何をする」
「そなたを通すわけにはいかぬ・・・娘、神子の元へ」
水の神が術で鎌を押さえていた。
「はい!日陰さん!」
咲音は日陰の横に膝をついた。
「・・っ・・・はぁ・・・」
荒い息を吐いて、日陰は倒れている。
光の剣は消えていた。
「・・・無茶・・しないでっ・・・」
泣きながら叫ぶ咲音に日陰は困ったように笑って、咲音の顔に手を伸ばした。
冷たい手が頬に触れる。
「ごめんね・・・心配・・・かけちゃった・・・・ね・・・」
消えそうな声で日陰は笑った。
咲音の口からは嗚咽が漏れるだけ。
また失うのは嫌!
日向の事を思い出し、咲音は強く思った。
日陰は手を静かにおろすと、そのまま気を失った。
「日陰さん!」
「大丈夫だ・・・霊力を消耗しただけだ」
水の神は咲音の前に立ち、鬼をみた。
鬼は日陰の術で気を失っていた。
「しばらくは動かないだろう・・・娘よ」
澄んだ碧の瞳が咲音をとらえた。
咲音も真っ直ぐ見つめ返す。
「助けたいか・・・・大切な者達を」
「はい・・・助けたいです!」
咲音は頷いた。
「では、池に向かえ」
「池・・・・?」
「そうだ。そしてこの鍵を水面に掲げるのだ」
水の神は咲音の持つ五種類の鍵を指した。
「掲げると・・・どうなるんですか?」
「力の源、水晶へと続く道が現れる。それを持って、もう一度ここに戻ってこい」
「でも・・・鬼が・・・」
咲音は倒れている鬼の方を向いた。
「安心しろ・・・我が食い止めよう。さあ、行け!」
「はい!」
咲音は走り出した。
一瞬だけ日向と日陰を見て、
「待っててください・・・必ず、助けます!」
そう呟いた。
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「そろそろ目が覚めたか」
鬼は静かに立ち上がった。
水の神の方を見る。
「そなたを生かしておくわけにはいかぬ・・・煌!」
その名を呼んだとき、黒髪の鬼は一瞬目を見開いた。
「我が名を与えた者だ・・・我が始末する」
「覚えていましたか・・・俺の名を」
「当たり前だ。忘れるはずがない・・・どうしてそなたはあの扉に手を出した」
水の神はいつもと同じ無表情で尋ねた。
でも、その手はわずかに震えている。
「・・・あなたは・・・変わりましたね。どうして震えているのですか?」
煌はそれを見て小さく笑った。
「・・・我にもわからぬ。それより、質問に答えよ」
「あなたが考えたとおり・・・力が欲しかっただけです」
「本当に・・・それだけか?」
「はい」
水の神は目を閉じて、少し何かを考えた。
そして再び目を開いた時、
「やはりそなたは、我が始末する」
その瞳は真っ直ぐ煌を見ていた。
神殿を出て、咲音は森の中を走っていた。
息が切れて苦しい。
でも、止まるわけにはいかない。
頼れるのは自分だけ。
守ってくれる人は・・・いない。
森を抜け、池に続く道を走る。
その時、
「わっ」
「きゃっ!」
咲音は誰かにぶつかった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
それは初めて集落に行った時に出会った姉弟――ヒロとナオだった。
「あれ、お兄ちゃん達は?」
2人はそろって首を傾げる。
咲音は何も言えなかった。
「・・・・急いでるの?」
ナオは咲音の手を握った。
「そうなの・・・2人が大変で・・・私は早く池に行かないと・・・」
うつむきながら咲音は事情を話した。
「それなら、こっちの方が早いよ!」
「え?」
ヒロとナオは咲音の手を取って、細い道を指さした。
「こんなところに道が・・・・」
「僕たちこの道で遊ぶんだ・・・案内する?」
咲音は迷わず、
「お願い!」
そう答え、走り出した。
ご覧頂き、ありがとうございました。
なんか・・・すみませんでした(土下座)
暗いよ~怖いよ~意味がわからない←
これからどうしようか(笑)
よろしかったら、お付き合い下さい~。