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1.タオルで始まる夏休み

この物語はもちろんフィクションです。

実際の人物、団体等々は一切関係ありません。


それではどうぞ、お楽しみ下さい。

 

 水鏡【すいきょう】

1.水面に物の形や人の姿が映ること。

【みずかがみ】ともいう。


+++++★+++++


 一際強い風が吹いた。

「あっ」

目の前を白いタオルが通り過ぎる。

咲音(さきね)、拾って~!」

後ろを振り返ると母親の声が聞こえた。


風が強いと洗濯物がよく飛んでいく。


この飯塚家の周りは水の入った田んぼがあるので急がないと大惨事だ。

咲音は慌てて走り出すが、

「嘘っ!?」

また強い風が吹き、白いタオルはどんどん先に行ってしまう。


これは無理かも!


咲音が半ばあきらめかけたその時。

「わっ・・・タオル?」

家の前の小さな道に立っていた青年がタオルを拾ってくれた。

「すみません!ありがとうございます!」

青年は背丈はもちろん咲音より高く、見た感じ年上――高校生くらいのようだ。

「いえいえ、ところで一つお尋ねしたいのですが」

青年はタオルを渡しつつ、尋ねる。

「ここは飯塚さんのお宅でしょうか?」

「そうですけど・・・うちに何か用ですか?」

咲音朝早くの訪問者に驚いていたら母が道に出てきて、

「もしかして、日向(ひなた)君?」

と少し嬉しそうに言った。

「何?お母さん知ってるの?」

咲音が尋ねるが母親は答えず、日向と会話を続ける。

「大きくなったわねぇ。今何歳だっけ?」

「18です。10年ぶりくらいにになりますからねぇ」

「あら、そうだったかしら」

そのまま思い出話に移行しそうになったところを咲音は慌てて割り込んで、

「お母さん!この人誰なの?」

そう尋ねた。

「知らなかったっけ?彼は飯塚日向君。咲音のいとこよ」

「はじめまして。よろしくね」

日向は人の良さそうな笑みを浮かべて丁寧にあいさつをした。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

つられて咲音もあいさつをする。


 「ところで・・・」

日向は腕時計を見ながら咲音に言う。

「制服着てるけど・・・時間、大丈夫?」

「・・・今、何時ですか?」

「7時10分だけ・・・ど」

「行って来ます!」

日向が最後まで言い終える前に咲音は走り出していた。


 驚いて日向は道の先を見るが、既に姿は見えなくなっている。

「速いですね・・・・」

「運動だけは得意だからねぇ。ま、上がって上がって」

日向は咲音の母親に連れられて家に入っていった。


+++++★+++++


 家から全力疾走して8分弱。

咲音は無事、電車に乗れた。

「これだから田舎は・・・」

都会を知っているわけではないが。

咲音は二人掛けの席に座り、つぶやく。

1時間に1・2本しかない電車。1本でも乗り逃したら遅刻に繋がる。


さっきの人、なんでこんなところに?


乱れていた呼吸が落ち着いてきたところで、咲音はさっきの青年について考え始めた。


いとこだって言ってたけど、会ったことあったかなぁ?


咲音にはまったく記憶が無い。


確か・・・日向さん。

18ってことは高3くらいか・・・。


『次は・・・・』

アナウンスが流れる。

町内の中学校に通っているため電車に乗っている時間は結構短い。

駅員に定期を見せ(自動改札なんて物は無い)駅から出たら一緒に登校しているクラスメートが待っていた。


+++++★+++++


 「え~明日から長い休みになりますが、健康な生活を心がけ、休み開け元気に登校してください」


やっと終わった。


咲音は大きく息を吐いた。

周りからも「やった~」とか「遊ぶぞ~!」とか思い思いの声があがる。

明日からは夏休みだ。

咲音の心も弾む。

たくさんの荷物で重くなったカバンを持って帰路についた。


+++++★+++++


 「ただいま~」

荷物のせいもあってか、駅から歩いてきただけで咲音は汗だくになっていた。


アイスでも食べようかなぁ。


そんなことを考えながら居間に入ると、

「おかえりー」

そんな声と共に、

「咲音ちゃんもどう?」

ダイニングで優雅にお茶を飲んでいるいとこが目に飛び込んできた。


さて、私はどうすればいい。


しばらく迷ったあげく、咲音は

「・・・何やってるんですか・・・?」

そう尋ねる事にした。

日向は自分が持っているグラスを見て少しバツの悪そうな顔になってから、

「・・・咲実《さきみ》さんに留守番を頼まれちゃって」

咲実とは咲音の母の名前だ。


いくら親族とはいえ、留守番頼むって無防備すぎない!?


咲音はそう思わずにいられない。

「咲音ちゃんは今、中2?」

母の行動に頭を抱えていたら今度は日向から質問された。

「はい、そうですけど・・・」

答えていたら日向はテーブルにグラスをもう一つ置いた。

多分これは咲音用。

話に付き合え、ということだろう。


 「日向さんはどうしてここに?」

咲音はおとなしくイスに座り一番気になっていたことを質問した。

「ん~・・・話せば長くなるんだけど、簡単に言えば『夏休みを満喫しにきた』・・・かな」

「本当に簡単に言いすぎです」

「ちょっと自然に触れてみたくなったんだよね。そう両親に話したらここを紹介してもらって」


自然に触れることの何が良いんだろう・・・?


咲音はそう思わずにいられない。


田舎なんて不便なだけなのに。


「というわけで」

日向はにっこりと微笑んで、

「夏休みの間、色んなところを案内してね」

「は?」


そんな勝手に!


咲音は口をあんぐりと開け、無言で日向に抗議をしたが、

「だめ・・・かな?」

上目使いで見つめられて、

「・・・わかりました」

そう言わざるをえなかった。


+++++★+++++


 そして翌日。

咲音は日向と駅前に立っていた。

「・・・・」

「どうかしました?」

駅を見上げる日向はさっきから無言だ。

「あぁ。人がいないのに驚きましたか」

「・・・駅だよね?」

日向はずっと駅を見ている。


まあ、普通は驚くわなぁ。


咲音は心の中でつぶやく。

それもそのはず。

飯塚家の最寄り駅は駅員もいない無人駅。

今の時間帯は利用者も少ないから本当に2人以外に人がいない。

「あれ、券売機って無いの?」

「そんな便利な物無いですよ。あるのはもっと大きな駅だけです」

答えながら咲音はどんどんホームを歩いていく。


――カンカン・・・


踏切の警報機が鳴りだした。

『間もなく・・・』

アナウンスが鳴り終わると同時に電車がホームに入ってくる。

「乗りますよ」

今時珍しい手動ドアを開け、2人は電車に乗り込んだ。


+++++★+++++


 夏休みとはいえ、今日は平日。

同じ車両には高校生が少しと、買い物帰りの老人しか乗っていない。

4人掛けのボックス席に2人は座った。

「あまり人がいないね」

「平日の真っ昼間はこんなものです。でも、朝や夕方は学生が大勢乗っているからもっと混んでますよ」

日向は車内を珍しそうに見回している。

そして急に咲音の方に向いて、

「さっきから思ってたんだけど・・・この電車ってサンドイッチみたいだよね」

「・・・何で?」

「車体の色だよ。ほら、この電車って白地にオレンジと緑のラインが入ってるじゃん」

つまり白がパン。ラインが具ということだろう。

「・・・そうですか?ていうかよく思いつきますね」


いつも乗っているのに全然思いつかなかった。


少し感心していたところに車掌がやってくる。

「定期券・切符を拝見します」

「そういえば切符を買ってなかったね」

日向に言われて咲音は気がついた。

自分は定期でなんとかなるからすっかり忘れてた。

「七田から切島まで一枚ください」

咲音が定期を見せ、料金を払うと車掌は切符を渡し、通路を歩いていった。

「ありがとう・・・こうやって買うんだね」

「駅員さんのいるとこでは普通に買いますよ。無人駅から乗った時だけです」


そのあと、電車に興味を持った日向に請われるがままに咲音は田舎の鉄道事情について話した。

ちょうど「一時間に一本の不便さ」について話していた時。

「あ、ここでおりましょう」

目的の駅についた。

咲音は駅員に定期を見せ、日向は切符を渡し駅を出る。

「ところで何で図書館なんかに行きたいんですか?」

今日2人が行こうとしていた場所は図書館。

昨日話をしている時、日向が行きたいと言い出したのだ。

「ん?あぁ・・・ちょっと行ってみたいだけだよ」


答えになってない。


咲音は、読書感想文の事も考えないといけないから丁度いいかな。そう思い、深くつっこまずにいた。


+++++★+++++


 図書館には中学生と高校生が少しずついた。

「じゃあ私は読書感想文の本を探してますから、自由に見てください」

咲音がそう言うと、日向は小さく笑って本棚の間に消えていった。


咲音も本を探し始めることにする。

とりあえず、文学の棚を眺める。

何冊か読んだことのある本があった。


その中の一冊から選べば書くのが楽かも・・・。


そんなことを思いつき、とりあえずお気に入りの一冊を棚から取り出し開く。

久しぶりに読んだ本だから色々と忘れていた部分もあった。


立ちながら夢中になって読んでいると。

「あ、いたいた」

「・・・・!」

背後から日向に声を掛けられる。肩に手を置かれるオプション付き。

びっくりして声を出しそうになったが頑張ってこらえる。

何事かと日向を振り返ると、日向は2冊の分厚い本を抱えていた。


「どうしたんですか・・・それ?」

「もうちょっとゆっくり読みたいから借りれないかな・・・と思って」

抱えていた本は町の歴史が載っている本――【町史】だ。

「それ借りてどうするんですか・・・」

「読むんだって。ちょっと興味があるから」

「それくらいはわかりますって。でも、コレって家にあったような・・・」

確か飯塚家の本棚の下の方にポツンと置いてあった気がする。

「え、ホント?じゃあ借りなくてもいいね」

日向はそう言うと咲音の持っている本を見た。

「読書感想文?」

「はい。宿題の」

そう咲音が答えると日向は苦笑いをした。

「大変だな~」

そう言いながら。


+++++★+++++


 図書館から帰ると、2人はさっそく【町史】を探し始めた。

たくさんの古い本の中にそれは埋もれていた。

「あ、ちょっと古い版みたいですけど・・・」

図書館にあったものと表紙のデザインが違う。

「全然大丈夫!ありがとう」

本を受け取り、日向はさっそくページをめくる。

咲音も横から覗いてみるが・・・。

「・・・頭が痛くなる」

見ただけで読むのを諦めた。


よくこんなの読めるなぁ。


咲音は感心してしまう。

「2人とも、何やってるの!ご飯になるから早くいらっしゃい!」

母の呼ぶ声が聞こえる。

「「今行きま~す!」」

2人は声を揃えて言った。


+++++★+++++


翌日。母が2人にこう言った。

「【千人池】に行ってきたら?」

咲音は少し考えて心の底から嫌そうな顔をした。

日向は【千人池】がわからなかったから首を傾げた。

そんな日向を見て、母は説明をする。

「【千人池】っていうのは、この家より上の方にある池なんだけど、緑が多いから行ってみると面白いかもよ」

日向の目がきらめいた。


これは興味を持った証拠だ。


そう知ってる咲音は【千人池】行きを阻止するべく反論を試みる。

「でもあの池って遠いよね!こんな暑いのに大変じゃん!」

だが日向と母は、

「「大丈夫、大丈夫」」

そう言って聞かなかった。

こうして咲音と日向の千人池行きが決定した。


+++++★+++++


 母に持たされたお弁当を片手に2人は【千人池】に向かって歩き始めた。

「暑いね~・・・」

「だから言ったじゃないですか」

【千人池】まではひたすら坂道を上る。

咲音と日向は暑さのせいもあってか早くも疲労困憊だ。

途中にあった神社で一休みし、2人はひたすら坂を上る。


 疲れて会話も少なくなってきたころ・・・。

「・・・着きました」

「疲れたね・・・・」

【千人池】に到着した。

目の前に広がるのは大きな池。

そして池を囲むように桜の木が植えられている。

「う~ん・・・!頑張って来たかいがあったな〜!」

日向は大きく伸びをして池に近づく。

「春は桜が咲いていてもっと綺麗ですよ。花火大会とかもありますし」

もっとも咲音はお花見と花火大会以外にここに来ることはあまりないが。


 「さて、ここで問題です。このように水面に物や人の影が映ることを何と言うでしょうか?」

池の周りを歩きながら、日向がいきなりそう言った。

いきなり過ぎて咲音はついていけない。

それでも必死に答えようとするが、

「・・・・ギブです」

咲音は全然わからない。

「正解は【水鏡(すいきょう)】。みずかがみ、の方が一般的かな?」

「水鏡・・・」


すいきょう。


みずかがみ。


口の中でその言葉をつぶやく。

「何か綺麗な響きの言葉ですね」

「確かに。他にも【水鏡】って言葉には色々な意味があるんだけどね」

日向の言葉を聞きながら咲音は池を見てみる。

水面には綺麗に周りの風景や、自分たちの姿が映っていた。


 そのまましばらく歩いていると池の中にポツンとひとつだけ石があるのを見つけた。

「あれ、何だろう?」

日向に尋ねられたが咲音にもわからない。

「あんな石・・・あったっけ?」

この池は昔から知っている場所だが、咲音には全く記憶がなかった。

「ちょっと見てみよう」

そう言いながら日向は池に近づいていく。

「あまり近づくと危ないですよ」

咲音もあとを追う。


その時。


『――おいで。僕の半身』


声が聞こえた。

咲音は日向の方を見る。

日向も咲音の方を見ていた。

「気のせいじゃ・・・ないね」

日向は再び池に目線を戻す。

そのまま、固まった。

「日向さん・・・?」

咲音もならって水面を覗き込んだ。

そして息を呑む。

「日向さんが・・・」


水面に映る顔は日向の物だ。

でも、それは日向では無い。

日向の色素の薄い髪は夜の闇のような黒色に。

瞳は燃えるような赤色に変わっていた。


咲音が慌てて日向の顔を見るが、いつもと同じ髪色に瞳の色だった。

水鏡に映る姿だけが、おかしい。


「何なんだ・・・コレ」

思わず日向が水面に手を伸ばす。


ゆっくりと。


手が水面に触れる。


と、同時に。


『ようこそ。こちら側へ・・・』


また声が聞こえて、

「え・・・!うわっ!」

そのまま2人は何か見えない力で池に引きずり込まれた。

服に池の水が染みていく。

体がだんだん重くなっていく。

「日向さん!」

「捕まって!」

日向はとっさに咲音を抱え必死に池から出ようとした。

しかし、体はどんどん沈んでいく。

咲音も一生懸命もがく。

でも。

「何これ・・・!凄い力・・・!」

あまりの力の強さに為す術もなく。


『待っていたよ。――光を』


2人は完全に池に沈んだ。


池の畔には2人の荷物だけが残された。

初めまして・・・でいいですか?

海無みなし 七河ななかと申します。

以前、「生徒会の事件簿・・・?」なるバカ話を「美月天音」名義で書いていた者です。


今回の連載はバカ自重でお送りしたいと思います(笑)

さて、タイトルはギャグっぽかった第一話ですが・・・。

途中出てきた電車はちゃんとモデルがあります。

知る人ぞ知るアノ電車です。分かり易すぎです(笑)

他にも池だったり何だったりモデルはあります。


第一話を読んでくださってありがとうございました!

次回も是非ご覧下さい。

ではでは~。

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