売れなかった配信者
ある国に、無名の配信者がいた。
その人間は、好きに生きるだけでちやほやされる配信者というものにひどく憧れていた。そこでその人間は仕事を辞め、配信を始めたものの、大した能力もないその人間の配信には全く視聴者はいなかった。
無論、視聴者のいない配信者が稼げるわけもなく。その人間が貯めていた金は、人気になるためだと散財した結果、あっという間に底をつきかけていた。
このままではいけないと思ったその人間は、これまでの配信とは打って変わって、思い付く限りのことを試した。
雑談、歌、ゲームはもちろんのこと、スポーツ、アウトドア、教育、ニュース、怪談、占い、演劇、DIY、金融、料理、ファッション、乗り物、動物、旅行、ギャンブルetc.
しかし、その人間が何をしようと視聴者が増えることはなかった。
そうして、途方に暮れ、ただ闇雲に街を歩いていたある日。
そんな人間のもとに、フードを深々と被る怪しげな風体の者が近づいた。
「アンタ、浮かない顔をしているな。何か悩みでもあるのか?」
「……いきなりなんだてめえは。俺は忙しいんだ、胡散臭え商売なら他を――」
「まあ落ち着いてくれよ。俺はアンタの配信の視聴者だ」
「!」
視聴者を名乗るその者は、今も配信中であるその配信画面を人間に見せた。
「……ずっと見てた一人はお前だったのか。でも、尚更何の用なんだ?こんな底辺配信者なんかによ」
「なに、アンタにネタってやつを提供しようと思ってな。何でも一つだけ願いを叶えてくれる悪魔……そいつを召喚できる本だ。これをアンタにやるよ」
「悪魔だあ?そんなもんがいるわけねえだろ。馬鹿にしてんのか?」
「まあ、ダメでもともとだろう。金は取らないから、試すだけ試すといい」
「……」
その人間の唯一の視聴者は、気づけば目の前から消えていた。しかし、配信画面を見れば視聴者数は変わっていなかった。
「……くそ」
何かを考えるようにじっとしていた人間が、本を持ったまま路地裏に歩き出した。人気が無くなった辺りで立ち止まり、人間が本を開くと――目の前に、本物の悪魔が現れた。
「オマエだな。我を呼んだ人間は」
「…………おいおい、マジだったのかよこれ……」
「久々に呼ばれて気分がいいからな。戯れに、何でも一つだけ願いを叶えてやる。ただし、方法は我が決めるがな」
そう語る悪魔にしかし、人間は即答した。
「死ぬまで、俺を世界で一番人気の配信者にしてくれ!」
「いいだろう。ではその対価に、オマエは何を差し出す?」
「……おい!対価ってなんだ聞いてねえぞ!」
「別に差し出さなくても構わん。これはいわば気持ち、チップのようなものだ」
「じゃ、じゃあ俺のこの腕時計をやるよ。結構高かったんだぜこれ!」
「よかろう。ではそれを対価として、我がオマエの願いを叶える。それでいいな?」
「ああ!感謝するぜ!」
「なに、礼には及ばんよ。では、さらばだ」
願いを聞き入れた悪魔は、すぐにその人間を地獄に飛ばした。
もう、数万年前の話だ。




