ネット社会の残酷
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この外の世界では、テレビ局の前にSNSが動いた。
警察の動きも後手に回っている。
奏玲邦議員に連絡が一切つかなかったことで、まずは失踪が明るみになった。
そのことがわかったのが、昼を過ぎたあたり。
そこから、テレビ画面上部に、緊急速報が流れる。
それを知ったネット民たちは、一斉に「奏玲邦議員 失踪 行方不明」と検索した。
そこで「検索結果」に出てきたのが、「リアルタイムでの監禁場所の様子」だ。
その概要欄には、『ジェイクロスハート』への支援のことも書かれている。
そこから『ジェイクロスハート』の電話回線とホームページのサーバーはパンクした。
当の『ジェイクロスハート』事務局には、すでに7つのフリーアドレスから、それぞれの7つの動画チャンネルのアドレスが添付されたメールが送られてきていた。
初めはなんの冗談かと思ったが、画面に映る奏玲邦議員の姿を見て、改めて事の重大さを知る。
すぐさま慌てて警察に通報して、事件が明るみになった。
そして警察の指示のもと、急いで新たに銀行口座を開設して、ホームページで「奏玲邦議員への寄付」を呼び掛けたのである。
『ジェイクロスハート』事務局の職員は、その日一日をその対応に追われた。
そしてそれでも、なぜ寄付金額があの金額だったかというと、それを検索したネット民のほとんどが10代~代30の若い世代だったからだ。
それは奏玲邦参院議員が所属する野党第一党の政党支持率が、その世代ではわずか「0%~2%」だったということにも起因する。
それなので野党第一党の岩盤支持層である65歳以上の人たちには、その寄付の呼び掛けはあまり届いてはいなかった。
その代わりに届いたのは、「コアなマニアたち」だ。
その界隈は、異常な盛り上がりを見せた。
そのSNSでの反応はこちらだ。
「もう60歳間近の排尿なんて見たくねー」
「見えてない、見えてない。見えてるのは顔だけ」
「でも、ギリギリまで我慢したあとで、一気に放出しているあの表情はサイコー」
「これは24時間の監視が必須ですな」
などだ。
各テレビ局がこの事件の詳しい報道をしたのは、夕方のニュースでのことだ。
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監禁2日目の朝食には、ハムエッグのセットが出される。
但し、モニター画面は消えたままで、午後の3時過ぎに突然点く。
画面には、編集された動画が流れ、その右上にワイプでリアルタイムで監禁されている姿が映っている。
動画の内容は、奏玲邦を心配するものではなく、嘲笑するものばかりだ。
これまでSNSで、沢山の非難があることは知っている。
それでも支持してくれている人もいるのも事実だ。
それが午後8時の寄付金額の公開でハッキリとわかる。
2日目の支援金は、107万8000円。寄付してくれた人も100人は優に超えた。
それを見て、思わずほくそ笑む。だから感謝の言葉も昨日とは打って変わった。
「皆様。沢山の寄付、ありがとうございます。私奏玲邦、これからも皆様のために頑張って参ります。引き続きの支援をどうぞよろしくお願い致します」
まるで街頭演説のような挨拶が出た。
その日の晩の食事は、豪華な料理が提供された。
それに合わせて、テーブルマナーをわきまえた、気品ある食べ方をする。
あれからモニター画面は消えずに、リアルタイムでの監禁されている姿が映し出されている。
その食事を終えた直後に映し出されたのは、排尿と排便のときの「切り抜き」動画だ。
この心無い「切り抜き」動画に、悔しさと怒りが込み上げて、何度も右側の壁を強く叩いた。
そのままモニター画面には、残酷なほど自身を嘲笑したものが流れ続ける。
午前0時になると、音声だけは聞こえなくなったが、それでもテロップの文字だけは流れ続けていた。
午前3時過ぎ。世の中の人々が寝静まった時間に、静かに排便をした。
ところが、まったく予想していない配慮がされていたことに翌日気づく。
SNSの反応から、それはわかった。
それはこうだ。
「なんだよ!? トイレしてるときの音が消されてるじゃん!」
「ふざけんな!? 一番いいところでモザイクなんか掛けてんじゃねーよ!」
「あぁー。もう見る気なくした」
というものだった。
これには、犯人たちも後悔しているところもあるのだと、そう思った。




