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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
小学生編

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 第6話『実況者ホットの準備期間』

無事『諸君!これがプロである!!』のホットが爆誕した訳だが――


「テディの立絵って誰が描いてんの?」


「僕」


「「僕!?」」


「ちょっと待って今ホットのお母さんの声聞こえたんだけど」


――この日はホットのキャラクターデザインを決める日だった。


糸哉は何も知らない敦斗の為に、ゲーム実況者における立ち絵の重要性について説明する。


「顔出しをしない僕らにとっての顔代わりだね。サムネや配信画面で一瞬でこれプロだって分かるように作るんだー」


「人って耳より目で情報を処理するものね」


「はい。初見の視聴者との距離を縮めやすくなるし、ホットのキャラ性が印象に残りやすくなる。そんなキャラデザを……」


「へー。俺は……なんでもいい!テディが描きやすい絵でいいよ」


本人の希望が特に無かったので、糸哉が描いたラフの中から敦斗母が選ぶことになった。


「スタンダード・ダックスフンドがモデルの男性で……どうしてホスト風にしたの?」


「ダジャレ?」


「もあるけど、今後ホットがリアルの生活にリソース割きたいってなった時、夜の生配信を気にしてほしくないから。ホットがホスト風なら視聴者に『ホットは夜が本番だから……』とか『月末だから特に忙しいみたい』とか言い訳立つし」


敦斗がリーダーの配慮に喜んだ反面、一つの懸念が浮上する。


「出たかったら出てもいい?」


「勿論!あ、ちなみに僕が言う『リアルの生活』っていうのは部活じゃなくてテスト期間だから」


「うっ」


「流石テディ君!でもテスト期間だけ綺麗に休んだら不自然じゃない?」


「母ちゃんナイス!そーだそーだ!」


「……ホストなら週末配信は年に一回で十分ね」


「母ちゃん!?」


糸哉が調子に乗るから……と笑い、ホットの立ち絵が完成した。


ダークブラウンの髪色にヘーゼルの瞳。服はライトブラウンのスーツにライトグリーンのシャツ、ブラウン地に赤と黄色の斜めストライプが入ったネクタイを締めた男性がホストっぽいポーズで立っている。


「あははははは個性やば!いいじゃん敦斗!他と差別化できてるできてる!」


「もう母ちゃん出てけよ!」


「ホット君推しちゃおうかな~」


「キッツ!マジでやめて!」


「まぁまぁ」


母親の茶化しで敦斗が拗ねる前に、糸哉が会話の軌道修正を図る。


「勿論、立ち絵を使わなくても再生数が高いゲーム実況動画は沢山あるよ。これは僕が個人的に入れた方が好きってだけ」


「ふーん」


「後はデフォルメ化した二頭身バージョンと両方に喜怒(きど)(あい)(おどろ)(こま)の差分だね」


「待って最後知らない五字熟語出た」


「敦斗すぐ驚くから~。動画で一番出て来る差分かもよ」


「えー別に全部普通の顔でいいでしょ」


「駄目よ!」


息子より先にこれプロファンとなった敦斗母は、立ち絵の感情表現についてよく理解していた。


「声だけじゃ感情がいまいち伝わりにくいの。親近感の向上と、喜怒哀楽の補強のために差分はとっても重要。ね、テディ君」


「はい。何より見てて楽しみが上がるし、トークが弱い場面でもある程度カバー出来るから楽なんだよ。実写の代替的な」


「……じゃあこれがネットの世界の俺なんだ」


「うん。あ、ホスト風にしたってだけでガチのホスト役になりきらないでいいから。でも年齢バレ防止で多少大人っぽい感じだと助かるかな」


「分かった。ホストとか全然知らないけど……俺このキャラでやってみる」


画面に並んだ立ち絵を見つめ、敦斗はまた一つ『諸君!これプロである!!』のメンバーとしての自覚が芽生えた。


☆彡

PWから早一か月。敦斗の部屋の一角には新たにゲーム実況用のスペースが設けられた。シェンが遠隔で指示を出し、糸哉がPCの配線を整理して、敦斗はデスクにマイクアームを取り付ける。


「モニターの上からマイクアームを下ろす派の人もいれば僕みたいにデスクに取り付ける派もいるから。もし初期位置やデバイスが合わなかったら教えて」


「分かった……ってあれ?モニター三枚じゃない」


「単純にゲーム実況するだけなら二枚で十分だよ。僕は編集もするから」


「へー俺も編集……」


「「編集なんて始めたら頭おかしくなって美人の彼女と別れるよ(ぞ)」」


「失敗体験のテンプレ!?」


途中で敦斗の両親が見学に入ったが、作業は滞りなく進み――L字デスクの上にはマイク、キーボード、マウス、マウスパッド、ヘッドホン、ヘッドホンスタンド、そして二枚のPCモニターが正面と右横に揃えられた。犬飼家から感動の拍手が送られてすぐ、敦斗は『ビデオキャプチャー』と印刷された黒い機械に気づく。


「これは?」


「キャプチャーボード。プレスイ(家庭用ゲーム機)とか、PCゲーム以外のゲーム実況動画を撮影する時これを使って取り込むんだ」


「じゃあプレスイのゲームする時はこれがないと録画できないってこと?」


「うん」


「へぇー。あとテディの部屋はもうちょっとさ……何か色々なかった?」


「あー多分ストリームデックとオーディオインターフェースとエフェクターのことかな?あれは配信向けの機材だから今は使わないよ」


「え?俺配信出ないの?」


「出てもらうけど、僕が始めた配信にホットが参加してるって形になるから。慣れたらホット視点の配信でもやろう」


そしてシェンが独自に開発したボイスチェンジャーの設定も、声の高さや響きが自然に聞こえるよう調整し――


「あ。あーー。この動画を見ている『諸君!これがプロである!!』のホットです!」


「えっ!?パパーー!敦斗が大人の声で喋ってるーー!」


――敦斗は二十代中頃の声を手に入れた。


「シェンが『多分変声期が来ても大丈夫だけど、一応調整したいから声が変わったら言って』だって」


「分かった」


「ええっ本当だ!敦斗のボーイソプラノが消えてる!」


「音楽の先生に少年合唱団への道を薦められたこともある敦斗のボーイソプラノが……」


「父ちゃん母ちゃんうるさい!」


「うわ。同時に聞くとやっぱ敦斗とホットの声大分違うね」


『遠くにいてもマイクが拾えば敦斗じゃなくてホットの声になるから問題ない』


そして一学期が終わり、蝉の声が朝からうるさいくらいに響きはじめた頃。彼等にとって小学生最後の夏休みがやってきた。


「夏休みの宿題は七月中に終わらせるぞー!」


「お、おー!」


「焦りが顔に出てるよ……!」


ゲーム実況準備の合間には勉強も欠かさない。その目標を達成するために、二人は毎日通話を繋ぎっぱなしにした。互いに問題を解き、時には敦斗が質問をする。


「俺の家で一緒にやってもよくない?」


「毎日は申し訳ないし、僕も家でやることあるから」


だが離れた場所にいるのに、敦斗はまるで同じ机を囲んでいるかのような気分になった。


――リモート学習なんて始めてやるけど、意外と寂しくなくていいかも。


そうして準備と勉強に明け暮れるうちに、長いはずの夏休みは驚くほどあっという間に過ぎていった。


しかし敦斗にとって、今年は親友とも呼べる存在に出会った年でもある。糸哉と夏休みに遊ぶことは、彼にとって非常に待ち遠しく感じられるものだった。


「テディ!大舞賀(おおまいが)神社の夏祭りと堀蔵(ほりくら)夜市行こ!七月三十日と八月二十日!」


「あーー。僕その日どっちも配信ある……」


「えぇ!?」


「……から十九時までだったらいいよ」


「危ねー。じゃあどっちも十七時からだから始まってすぐに行こ!」


「分かった。夏祭りとか……久しぶりすぎて何?」


敦斗は自分も近所の夏祭りは小二ぶりだと言いかけたが止め、帰ったら糸哉の配信を見ようと決めた。


「コメントはまだ怖くて出来ないけど、次の配信もリビングで見よっかな」


「健全な配信を目指してはいるけど……!ホットのお父さんお母さんに観られるのはちょっと恥ずかしいな」


「伝えとく」


「いいよ。あーホットも早く同じ気持ちを味わわないかな……」


☆彡

夏休み最終日。糸哉と敦斗はシェンが住む家の前に到着した。


「……へ?」


「本当にここ?って顔してるけどここだよ。ほら、シェンは神だから。全部の驚きにはそう理由付けて」


「シェンは神……」


「うん」


シェンは五十五階建てタワーマンション『ザ・タワーイースト』の五十四階に住んでいた。最上階は共用施設としてスカイラウンジ・バーベキューエリア・ドッグランが備わっている。


「あれ?何で何もしてないのにドア開いたの?オートロックでしょ?」


「ここの鍵ハンズフリーキーだから。エントランスもエレベーターも部屋の鍵も、リュックやポケットに入れたままで開くからいいんだよ」


「……!?」


「これで驚いてたらシェンの元まで辿り着けないよー」


敦斗は生まれて初めてハンズフリーキーというシステムを聞いて言葉を失う。自分が今まで家族旅行で泊まったホテルと比較することでどうにか平常心を保った。


――ホテルのエレベーターもカードキーかざさないと動かないし。コンシェルジュはホテルの受付だと思えば……。宅配ボックスはテディん家のマンションにもあるし!

堀蔵夜市……毎年小学校の校庭で開催されるプチ夏祭り。

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