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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
小学生編

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 第3話『二人の目標』

糸哉が実況部屋で意気込んだ翌日。彼は返却された『五年生振り返りテスト』を見て――


「ホット……その頭でよくお父さんとお母さんがゲームを許してるよね」


「……ヤバイ?」


「普通にヤバイから真面目な話しよっか」


――まず敦斗の学力向上を目標に追加することにした。


「まさかホットがクソガキだけじゃなくてクソ馬鹿だったなんて……」


「クソガキはテディもだろ。でも百点最後に取ったのいつだっけ……」


敦斗は横目で糸哉の答案を見て唸る。四教科すべてに満点の花丸が記され、それは学業とゲームを両立している証だった。


「僕レベルに到達しろとまでは言わないけど、せめて八割はないと駄目だよ」


「えーでも今日テディの家のゲーミングPCでゲーム……」


「できるワケないよねー?次のテストまでにホットが苦手なトコ総復習して六年の範囲も教えなきゃ……」


「ひどい!別に百点取れなくても生きていけるし……」


「でも頭良くなった方がゲームIQも上がってサトナ強くなるよ」


――確かに。あ、でも俺の家でお泊り勉強会なら……アリ!


敦斗は即座に思考を切り替え、スマホタイプのキッズ携帯で専業主婦の母にメッセージを送った。


☆彡

敦斗の部屋にて。糸哉は私物のドリルを広げ、敦斗の学力を測った。


「――ふむふむ。ホットはガチガチの文系だね」


「文系?」


「国語と社会はまだギリギリでマシってこと。反対に算数と理科が……完全に小三から躓いちゃってるみたい」


「あーでも確かにそっからかも」


糸哉は他人事みたいに言うなと睨むが、糸目なので怒りが伝わりにくかった。


――ここで僕がホットの学力上げればよりご両親の好感度アップに繋がる……!


「……ねえ。何でテディはそこまでしてくれるの?」


「実は僕……いずれホットをもんの凄いビックな計画の仲間に引き入れたいんだ」


「も、もんの凄いビックな計画!?どんなの!?」


「それはまだ言えない。仲間に入れる為にはある程度の学力が必要なのと、この話をずっと内緒にしておくこととが絶対だから」


糸哉は本心を隠したまま『秘密』という名の誘い文句で敦斗のやる気を引き出すことにした。しかし彼は二番目の条件に戸惑いを見せる。


「それさ、父ちゃんと母ちゃんにも内緒……?」


「親は別。だけど、ホットが馬鹿のままだったら絶対に賛成も応援もしてくれないから。僕はホットの親を納得させた上でホットを計画の一員に加えたいんだ……そこで!」


糸哉はババン!と『大舞(おおまい)学園中等部』のパンフレットをテーブルの上に置いた。


「……え?テディまさか中学そこ受けるの?」


「お。『行く』じゃなくて『受ける』って言うことは……ご存じなんだね」


敦斗の言う通り、大舞学園中等部は中高一貫校――中学段階で選抜を行い、高校へは無試験で進学できる仕組みだった。


「ホットも高校受験しなくていい方が楽でしょ?それに一緒に頑張ればライナーやヘロンと物理的に離れられるよ」


「…」


「あと言い方悪いけど……色々あってちょっと気まずい子とも、ちゃんと距離を置ける」


――まぁこれは僕が受験期間をゲーム実況に当てたいから考えてたことで、ホットに強制はできないんだけど……。


糸哉が捕捉しようと口を開く前に、敦斗の母がお菓子と飲み物を運んできた。当然テーブルの上に置かれていた紙に気づく。


「あら。テディ君そこ受けるの?頭いいのね」


「はい。高校受験したくないからって理由ですけど……」


――ここで外堀を埋めてもいいけど、ホットのお母さんが促しちゃうかな……。


糸哉がどう動くか逡巡したその時。敦斗が母の前にパンフレットを掲げた。


「母ちゃん俺ここ行きたい!入試まで頑張るから……テディと同じ中学に行きたい!」


「「敦斗 (ホット)……」」


母と糸哉が目を潤ませて感動し、敦斗の成長を褒め称えた。


「だからテディ!俺をそのビックな計画に入れてね!」


「勿論!ホット最高にカッコいいよ……!」


敦斗が勢いで言った台詞は、彼の入浴中に回収された。


「――じゃあ父ちゃんと母ちゃんに聞かせて?テディ君が考えてるビックな計画について」


「……はい」


――ホットのお母さんが自分たちのこと父ちゃん母ちゃん呼びするの違和感凄い。


リビングにて。糸哉は敦斗の両親の前で少し早い説得を始めることにした。


「実は僕、知人のNico・Tubeアカウントでゲーム実況を行ってて――」


☆彡

敦斗がリビングに寄ると、父が号泣している母の背をさすっていた。


「え」


「……ほらママ。敦斗が風呂出たけぇ入って来んさい」


「ゔん」


母が半ば泣きながら部屋を離れ、敦斗は父に説明を求める。ところが、父の目元も赤く染まっていた。


「どしたの」


「いや……何もない。敦斗……今はテディ君に助けてもらっとるばっかかもしれん。けどいつかテディ君が悩んだ時は、敦斗が横で助けてあげんさい」


「はーい……」


父にこれ以上聞くのは無理だと勘づいたのか、敦斗は自室にいる糸哉に話を聞いてみることにした。


「テディ」


「なにー?」


「二人となんか話した?」


「うん。僕の親忙しくてあまり家に帰ってこれないから、家のことはほぼ全部僕がやってますって言ったらホットのお父さんお母さん泣いちゃった」


「全部!?」


――まだテディと会ってから三日しか経ってないからしょうがないけど、テディって何者?


糸哉は大したことないのにと笑い、すぐドリルに目を落とす。彼の空気を感じ取った敦斗は、大人しく勉強に集中することにした。


「大舞学園中等部の入試は国語・社会系の適性検査と算数・理科系の適性検査と集団面接があるから、ホットはとにかく理系を底上げしよう」


「面接!へー大人っぽ!」


「……その様子じゃ大丈夫かな?あと学校での生活態度も先生に送ってもらわなきゃだから、揉め事は極力避けて良い子でいよう」


「……その理由とテディがいるなら卒業までやれそう」


「うん。一緒に頑張ろ」


「ちょっと話変わるけど……」


糸哉の変わらぬ笑みに安心した敦斗は、つい頭に浮かんだことを口走ってしまう。


「テディが立ててるビックな計画ってさ、二人の時だけ俺を『ホット』って呼ぶのと関係ある?」


「うん。僕のことはテディ呼びで構わないけど、学校では普通に名前呼びにすることにした」


「へー」


暫く無言の空気が流れ、糸哉は犬飼両親との会話を振り返る。彼が敦斗に話した内容は事実だがほんの一部であり、本題とは程遠かった。


――まさか僕が実況者になった経緯をちょっと明かすだけでガチ泣きするなんて……シェンに話した時は口から煙草の煙しか出てこなかったのに。


いずれ敦斗とゲーム実況をやりたい――その想いに胸を打たれた両親は、迷うことなくその目標を応援すると約束した。この返事には流石の糸哉も予想外である。


――中学受験を決めたのに、すぐホットにゲーム実況をやらせようって息巻いてたし……何かうん……ホットって親から愛されて育ったんだなぁ……。


同じ一人っ子でも大違いだと思った瞬間、糸哉の心に小さな影が落ちる。それがじわじわと人型の形を成す前に――彼はそっと肩の力を緩めた。


――まぁホットの親に話しちゃったし。進捗が順調だったら五月の連休に部屋呼んでもいいかな……あ、でも家族でどっか行ったりするかな?


「テディここなんだけど――」


二人の勉強会は二十二時まで続き、その間敦斗は一度もゲームに逃げようとしなかった。


☆彡

プラチナウィーク――略称PWは、四月末から五月上旬にかけて祝日が沢山重なる期間のことを指す。敦斗はそれまで憑りつかれたように勉学に集中し、わずか二週間で六年生の授業に追いつくことができた。


――算数だけだけど。それでも予想以上の追いつきだ。


糸哉は手作りテストの採点結果を見つめて自然と感心する。敦斗は元々の理解力が高く、躓きの原因は複数の外的事情にあった。


「テディどう?」


「んーとねー」


――本人も問題が分かる楽しさにハマってるみたいだし。そろそろ飴をあげてもいいかな……っと。


人が近づいてくる気配に気づいて顔を上げると、自分の左斜め前に座る井鷺の姿があった。敦斗の顔が強張り、糸哉は万が一に備えて答案用紙をさり気なく隠す。だが井鷺の用件はまさにその紙にあるようだった。


「それウザいからやめろよ!」


「分かった」


拍子抜けするほどすんなり引いたため、敦斗と井鷺は思わず硬直する。糸哉は心に渦巻く感情を微笑みで押し込み、真剣な雰囲気を作った。


「何でもない日なのに、後ろの席の僕らが休み時間も勉強オーラ出してたらそりゃプレッシャー感じるよね。でもそれくらい敦斗の勉強ヤバくてこのままだと中学行けないかもしれないから……」


「ガチ?お前そんなヤバいの」


「……っ」


――我慢我慢……。クソっ井鷺君が頭良くなきゃ言い返せんのに!


敦斗もまた糸哉の忠告を思い出し、唇を噛んで井鷺への悪態を抑え込んだ。

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