閑話①と②『2話続けてどうぞ』
閑話①『ライアンという漢』
その質問コメントは定期配信『諸君!これがテディの雑談ゲーミングである!!』略してこれ雑の時間に流れた。
『テディって一人暮らし?』
「違うよ。ライアンと二人で住んでる。ルームシェアってやーつ」
突然の暴露に、プライベートをあまり知らない視聴者は激しく動揺した。
『ライアン!?』『誰その男……雄?』『ライオン!?』『ちょっとカメラ止めて?』
「(他で沢山噓つきまくってるから)一人暮らしって(これ以上)嘘重ねても後で困るしね。先に言っておくけどライアンはこれプロの活動にノータッチだから。本当にただの同居人でこのチャンネルには絶対出ないよ」
――まぁたまに話題に出すくらいならいいけど。ライアンってネタ製造機だし。
ライアンに興味津々な視聴者の期待に応えるべく、テディはゲームを中断してペイントソフトとペンタブレットを起動した。
「ライアンはねーこの国で例えるならサバンナみたいなとこで出会ったんだ」
『え?』『森ってこと?』『分からん』『どこだよ』
「開始の号令と同時に、フィールドの空気が一変して……カートはぶつかり合い、視線は獲物を探すように鋭く動くんだ。その場所にかつての平穏は無くて……油断した瞬間に獲物を失う、現代のサバンナだよ!」
『スーパーのタイムセールやんけ』
テディはすぐ気づいた視聴者に爆笑と賞賛を送り、白いキャンバスに彫りが深いライオンを描いた。
「ライアンはこんな感じかなー。仕事はタンクローリードライバーだって」
同居人のライアン・キングは豊かなたてがみを携え、紺色の作業着を着て仁王立ちしている。純粋にテディの絵を褒める視聴者もいれば『百獣の王とタイムセールで争うな』とツッコミが止まらない視聴者もいた。
「あれ。『待ってねぇ待って』って……突然のカミングアウトについていけてない視聴者いる?」
『は?』『い、いねーし』『でも一旦この話やめとく?』『まだギリ大丈夫』
「『今ライアンさんいるの?』今日は彼氏の家に泊まってるからいないよ」
『!?』『あ』『え』
「ライアン友達も多いからいっつもどっかで遊んでんだよねー。陽キャだぁ」
『あっ、え?』『ちょっと待てぃ!』『え?言い間違い?』
ここでモデレーターのシェンが配信画面上に吹き出しコメントを残す。
『ライアンwwwww絵で笑かすのやめろwwwww』
「似てるでしょ。シェンもライアンに会ったことあるから。お互い全然キャラ違うけど」
テディはあえて彼氏発言には触れず、キリの良いところで配信を終えた。たっぷり五分経った後、扉の外で控えめなノック音が響く。
「今出るーよっ」
「あいつからいっ君がお前のこと配信で話してるってメッセージ来たんだけど」
「どうだった?見切り発車の割には大分ボカせてたくない?」
ライアンとシェンは大学時代の友人だった。そしてテディ父の後輩でもある。
「うーん。確かに作業着とか俺人生で一回も着たことないし。こんなザ・ライオン!みたいに顔濃くないからバレる心配はない……けど最後余計な事言ってなかった?」
「兄さんとライアンが結びつかないようにと思って……」
テディが舌を出してあざとく笑うと、兄替わりであり同居人の彼は――
「勝手に俺の彼女を男にするな!!」
「それはっ……確かに!彼女さんごめんなさ痛い!」
――怒りを自分ではなく恋人の為に向け、弟分にベアハッグをかけた。
閑話②『裏方スタッフ紹介』
『諸君!これが裏プロである!!』略して裏プロとは、シェンを筆頭にこれプロチャンネルを裏で支えるスタッフたちを差す名前である。テディはホットが動画に初登場した翌日、オンラインで裏プロの説明を行った。
「裏プロのリーダーはシェンね。僕らこれプロの心臓はシェンが握ってるから。彼の采配でいつでもこのチャンネルはプチュンと潰れるから気をつけよう!」
「お、そうだな」
「テディ早く成人して権利取り戻して!」
テディはホットの訴えを無視して紹介するメンバーの順番を考える。
――法人だから税理士と弁護士は一応ついてるけど……僕も会ったことないし。その辺は割愛でいっか。
「まずは音楽提供やOP・ED映像、ショート動画の制作を担う動画クリエイターであると同時に、コラボ調整や案件対応、外部との連絡窓口までを一手に引き受けてくれてるモグラのメトロ!」
「初っ端からしごできの神キタ!」
テディが共有したスライドには、ダークブルーの車掌服を着た黒髪アフロの男性のイラストが映っている。ホットはメトロの名前と出で立ちからシェンとの繋がりを連想した。
「シェンとメトロって友達?」
「……!」
「嗅覚凄いねー。メトロはシェンのゲーム仲間であり、同じ超インドア……じゃくてハイパー在宅ワーカーでもあるんだ」
『次の処理対象:あなたも埋設しますか?』
「うわっビックリした……この人がメトロさん?」
「うん。ちゃんと人間だから安心して」
『自己紹介を実行します。私はメトロ・ポリタンです。メトロと呼んでください。ホットさん、初めまして』
自己紹介の予定を聞かされていたメトロが、タイミングを見計らったかのようにチャットに浮上してきた。ホットは不意を突かれつつも、すぐにボイスチャットで声を出す。
「ホット・ドックです……よろしくお願いします」
――え、AIみたいな口調……って言ったら失礼か。
「直接関わる機会はあんまないと思うけど一応ね」
『次回、ソーシャルゲームの限定ガチャ処理を代行していただけますか?追加希望データ:色違いゴルディア希望』
「あっよかったちゃんと人間だ……あとサラッと何言ってんの」
「メトロ!こぞってホットのミラクルを私的に利用するんじゃない!」
「おいホット。ポシェクリカードでレア出すには購入からお前にさせた方がええん?」
「多分……ってシェンもか!シェンの所為かよ!メトロが変な風に学習しちゃったじゃん!」
ホットの豪運を利用しようとする悪い大人たちを跳ねのけ、テディは次の裏プロの紹介に移る。
「三人目は僕らの立ち絵を描いてくれるイラストレーターで、配信や動画で使うサムネイルやロゴデザインも担当してくれるイルカのナイア!」
スライドにはイルカが画家っぽい服を着たイラストが映し出される。ホットはまず人間じゃないことに疑問を覚えた。
――イルカ可愛い……てことは名前的に女の人?
「絵はテディが描いてんじゃないの?」
「描けるけど、やっぱちゃんとした人の絵の方がいいじゃん。ナイアの方が早いし上手いし。それに僕ナイアの絵大好きだから」
ナイアもこの会話を聞いていたが、最低限の挨拶だけ文章で済ませてすぐトークルームから退出してしまった。
「シャイ……」
「テディが褒めたらすぐ逃げるな」
「分かってても止められないんだ……あ、個別で次の配信用サムネ届いた」
テディの言う通り、動画に参加しているだけのホットが裏プロと直接関わる機会は少なかったが――
「確かに。裏プロがいなかったら俺等なんてプチッだね」
「あっという間に熊鍋と犬鍋になっちゃうから」
「うまそう」
『美味と判断。摂取開始』
「やっぱ権限はテディが持った方がいいって!」
――画面に映らない彼らの働きに安心感と頼もしさを覚えたのだった。
ナイア「(どうしよ……メトロさんの後に普通の挨拶したらスベって味噌煮込みにされちゃう……無理!!)」




