第15話『四つの記念日』
章末なので短めです。
三月十九日は堀蔵小学校の卒業式であると同時に、『諸君!これがプロである!!』チャンネル開設二周年記念日でもあった。そして本日をもって――
「今回はRPG『ポシェットクリーチャー ブラッドレッド・パープルグロウ』に出現する新ポシェクリの色違い厳選の裏ワザをご紹介したいとー」
「「思います!!」」
「……おや!?『諸君!これがプロである!!』チャンネルのようすが……!」
「キュゥイイィィン……ンパァーーッ!!ぴぽぱぺぺぺぺーん」
「ブフッ……え、SEのクセ強っ……」
「テディ早くあの台詞言って」
「ッ……!おめでとう!『諸君!これがプロである!!』チャンネルに新たなメンバーが追加した!」
――新たに、ホットのゲーム実況開始記念日が加わった。
『ポシェットクリーチャー』――略称ポシェクリは不思議な生き物『ポシェクリ』と共に冒険するRPGである。
プレイヤーは広大な世界を旅しながら出会うポシェクリは千差万別。ポシェクリたちはそれぞれ異なる性質や能力を持ち、戦いや育成を通じて姿や力が変化していく。
中には、ごく稀に色や模様が違う特別な個体が存在するという噂もあるが――
「サルフィーとスパークットとグリムロアは楽勝だって言ったじゃん」
「にしても早すぎだよ。流石ミラクル……!」
――ホットの豪運にかかれば、一時間で三体の色違いポシェクリを見つけることなど造作もなかった。
テディは六時間で計八体の色違いポシェクリをゲットした撮影を編集で二十八分にまとめ、動画の最後に素敵なお知らせを添えた。
「タイトルでネタバレした通り、今回僕らが紹介した八体の色違いポシェクリを抽選でSNSのフォロワーさんに一人一体プレゼントするよ!」
「え゙……俺の色違いゴルディアも!?」
「ゴルディアは別格でムズかったね……二日やって無理だったら諦めるつもりだったけど。ホットのミラクルのお陰で視聴者さんも大喜びだよ」
「ううっ……俺も裏アカで応募しようかな」
「ダメです」
テディはホットのデビュー動画『【ポシェクリBP】色違い厳選が一気に楽になる方法※抽選で色違い配布あり』を見返し、弾んだ気持ちのまま週末夜の定期配信を開始する。
「こんばんはー。今回も『諸君!これがテディの雑談ゲーミングである!!』略してこれ雑、やっていきたいとー思います!」
『こんばんはー』『きたー!』『2周年おめ』『わこつ』
大量の挨拶とチャンネル開設記念日を祝うコメントが流れてすぐ、テディは6日前に上がった動画について触れる。
「やーそうなんだよ。年始の配信で皆に早く届けたいって言ってたのはコレね。記念日当日は配信できない代わりに新メンバーのホット置いときますねって」
『ホット・ドックでお茶が濁せるか』『今日ホットさんいないの?』
「今日いないよ。ホットさん見た目の通り夜お忙しい犬だから。でも次……これ雑とは別で二人でやろうかなーって考えてる」
『ホット……ホス……あっ』『あ』『把握』
テディはアクションシューティングゲーム『スクイッドウォーズ』をプレイしつつ、コメントにも目を配るという器用な配信を続ける。
「『じゃあ今日はホットさんの生態を明かす配信?』よりもね!まずこれからについて話そうよ。あ、ホットにさん付けは要らないから」
――もうチャンネルは二周年で、僕の実況歴は今年で三年目に突入か……。
「皆お祝いコメントありがとう。今年のこれプロはもう凄いよ?あんま言うとホットにプレッシャーかかるしアーカイブ聞くだろうからあんま言えないけど。なんたってホットと二人実況になるからね!」
『もう完全に二人実況?』
「ゲームと予定によってはソロ実況するかも。でも暫くは二人実況かな。もうこの日以降に出す予定の動画がしっかり溜まっててもう……」
『仕事早すぎ』『そんな撮影してたんだ』『寝てる?』
テディがゲームしながら視聴者と雑談している間にも投げ銭付きの『スペサルチャット』略してスペチャが流れる。これは視聴者が料金を支払って送信することでコメントが強調表示され、配信者に応援や感謝の気持ちを伝えやすくなる仕組みだ。二周年記念ということもあり、今日の配信はいつもより多くのスペチャが流れた。
「皆の応援があったかいんだからぁ……!あったかいと言えばホットなんだけど、この前の撮影で捕まえた色違いポシェクリに名前つけないのって言われたんだよね。どう?」
ポシェクリは捕まえた直後に任意で好きな名前を付けることができる。テディは一旦デフォルトの名前にしていたが……。
『つけて』『一旦つけてみ』『気に入らんかったら変えるわ』
「あー後から変更可能だもんね。ちな、ホットの名前は僕が一目見て命名しました」
『えっダ……』『ごめんそのままで』『お前だけは名付け親になるな』『ホットの方がセンスありそう』
「なんで!まぁ一回聞いてみてよ。まずゴルディアは見るからにサーフィン得意そうだよね?だからチューブライディングとかどう?」
『なげーよ』『チェンジ』『まんまやんけ』『マズイですよ!』『トレーナーの気持ち考えて』
「ロアムーンは……アクジキメラ」
『なんでやねん』『ややこしい』『お前それ大好きだな』『BPにいないからって……』
視聴者の言う通りアクジキメラは『ポシェットクリーチャー ブラッドレッド・パープルグロウ』の前作に限定で登場したポシェクリのため、最新作への転送は非対応だった。
「大好きだったのに……!もう僕はロアムーンを代わりにするしかないんだ。で、ラッシャドンはラッシャイラッシャイナに……ってもうポシェクリ配信に映そうかな」
テディは今やっているゲームをキリの良いところまで終わらせ、配信画面にポシェクリを映す。その場のノリと気分でゲームを切り替え、のんびり雑談を楽しむところがこの配信の持ち味だった。
「『ポシェクリ世代は?』……って出たこの質問。実は前作のエッジ・ウォールからなんだよねー」
『は?』『嘘乙』『若作りか?』
「いや本当に。僕が子熊の頃は綱渡りや玉乗りばっかやってたから』
『どこのサーカス育ちだよ』『子ゾウみたいな経歴』
「ずーっとPCでFPSや格闘ゲームばっかやってたからRPG系は全然で……『出たテディ80代説』……あ」
テディは常に年齢バレしないよう発言に気を配っていた所為で、視聴者から『テディの中身ってボイチェンしたお爺ちゃんじゃね?』と疑われたことがあった。
――まぁ老けて見られる分にはいっか。シェンも爆笑してたし。
約二時間の雑談ゲーム配信を終え、糸哉は寝る支度を始める。
「もう三年……早いな……」
就寝前に零した独り言によって、時の底に沈んでいた記憶が不意に蘇る。
――『二人ー?やるゲーム考えるなら最低四人はいるだろ。あと俺的にグループ組むなら六人実況がいい』
「あと四人……でも二人候補がいるからあと二人……」
0番目は永遠に空席のまま――彼は夢の中で銀灰色の空を見上げた。
次の話から閑話を挟みます。新章は16話からです。




