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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
小学生編

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 第12話『駐車はいつでも命がけ』

敦斗が画面に表示された文字を見た瞬間、頭の中が真っ白に塗りつぶされる。声を上げるより先に、長く息を吐いている自分に気づいた。


「あ、敦斗……」


「っ……」


隣にいる両親の声が遠くから聞こえる。敦斗は口を開いては閉じ、どうにか零した言葉は――


「テディ……ごっ、ごめ……俺……」


――まともな日本語にならなかった。


☆彡

「――今回攻略していくゲームはこちら!二人で一台の車を協力して駐車するゲーム『パーキング・ジョイントリー』!」


「を、全てクリアした先にある新ステージ!高難易度のチャレンジモードをやっていきたいと……」


「「思います!!」」


テディとホットの二人実況はすでに手慣れたもので、自然と息が合っている。いつもなら新ステージの解説とクリアするコツを説明しながらプレイしていくところだが……。


「これ今日やるゲームじゃなくない?」


「えー。まさに今日がうってつけでしょ」


「別いいけどさぁ……」


――ホントは無理矢理気持ち切り替えてやってんのに……。いや今日撮影やるって自分で決めたことだろ……ちゃんとやろう。


「……このゲーム普通に楽しいし」


「だよね。通常モードも割とコツいるなー」


敦斗は揺れる心を抱え込み、覚悟を決めて通常ステージに新要素が追加されたゲームモードに挑んだ。


『パーキング・ジョイントリー』とは、二人プレイ専用の協力型カジュアルアクションゲームである。二人で一台の車を指定の位置に駐車するというシンプルなルールだが、車に僅かでも衝撃が加わると――


「ホット右に切りすぎ!壁に擦っちゃう!」


「え――」


『ガツッ……ボガーーン!!』


「ギャーー!」


――即座に爆発してゲームオーバーとなる。


ステージの多くが崖上に配置されているため、気を抜けば――


「テディその先まだ足場ない!ブレーキブレーキ!」


「待って……わーー!」


「テディー!と車ー!」


――車ごと運転手がそのまま海へ転落してしまう。プレイヤーが不注意で落ちた場合もスタート地点からやり直しである。踏めば崩れる足場もあるので要注意だ。


そして時間制限の仕様として、プレイヤーが車を離れると――


「テディおじちゃんがお爺ちゃんになってる!」


「あっこれ見た目も老けるの!?婆さんや。僕の髪はまだあるかい?」


「誰が婆さんだ!髪は……ないと言えばない」


「うーん。どっちかって言ったらあると言えばあるの方が嬉しかったな……」


――生命エネルギーが高速で消耗してしまう。プレイヤーの死もゲームオーバーに繋がるので、運転手と誘導の役割をバランスよく分担する必要がある。


チームワークが不可欠で、細かい運転操作が求められるゲーム性だが――


「テディ!障害物はっ……俺が全部どかす!」


「す、凄い!最早この車よりホットの方が頑丈だよ!」


――急勾配の坂や落ち武者の出る個性的なステージでも、テディとホットは一度全貌を把握するだけでほとんど完璧に車を停めていった。


「よし完璧っ……」


『ドンッ』


「ぎゃっ!」


「え?」


「テディごめん俺が当たりに行っちゃった」


「何してんの!僕だってふざけたいのに!」


無駄な破壊や死を遂げていないと言えば嘘になるが。


「やーでも流石ホスト、じゃなくてホットさん。外車乗りこなすの上手いねー」


「いやいや。ウチのタイちゃんも左だけど最近あんま乗れてないな」


「タイちゃん?」


「車のあだ名」


「だs……車かわいそう」


撮影を重ねる度、ホットがどんどん成金ホストキャラになっていく。テディはそれを面白がって次から次へと話が膨らんでいった。


「やべっ。そろそろ本番行かなきゃ」


「通常モードは動画化しないの?」


「まぁいつかね。だから最初から録画してもらってるし」


「けど思ったより簡単だったな。チャレンジモードもそこまで鬼じゃないかも」


「あ、諸君これはホットが運転のプロであるからして。普通はここまでサクサクいけませんからねー」


――ノーマルモードでも大分苦戦するって話題のゲームなのに。おふざけアリでも一時間ちょっとで全クリしちゃった……無免許小学生なのに。


テディは内心、このゲームに関しては自分よりホットの方が上達が早いと感じる。だがこれを素直に伝えれば謙遜と受け取られることは分かっていたため、テディは胸の内にしまっておいた。


「ひと癖もふた癖もあるステージで、バディと力を合わせ、シビアな駐車を決めろ――諸君!これが『パーキング・ジョイントリー』である!!」


「チャレンジモードやってくぞ!」


「よーし!で、地上ステージ1のノーマルモードは自転車配達員のお姉さんを避けながら五差路を進んで、路肩に停車した後ハザードを点ければクリアだったけど……」


しかしチャレンジモードでは――


「大型トラックがお姉さんと並走してる!えっ何かその後ろにメダル?あるよ!」


「通り過ぎるのを待っても、またすぐ反対方向から来るから急いで!あとそれ取るのは必須みたい」


「ホントに!?じゃあ取った後バックしなきゃじゃんっ……!」


――当然ただ避けるだけではない。エリア内には車でしか取れないメダルが二枚存在し、それを両方取った上で路肩に停車してハザードを点けなければならなかった。


「あーでもすっごい。ヌルヌルでバックしてる」


「俺バックが一番好き」


「ちょ……。マズイですよ!」


「どうせカットだよ」


「そこだけエコーかけてフォントもさわらび明朝にしよ」


「俺の字幕だけ官能的にするなよ」


路肩とガードレールの間にあるメダルも無事獲得し、最初のステージは僅か十八秒でクリアした。


地上ステージは一から五まで主にホットのドライビングテクによって難なく攻略し、テディが個人的に最も気に入っていた天空ステージへと進む。


「さーコインはどこだー?」


「あ、こっちの道の端に一枚あった!」


「えっ……あ」


「あ」


テディとホットが同時に足を滑らせ、失敗を告げる効果音が重なった。


「ふふっ……こーいうしょうもないミスはいつもカットするんだけど、やっぱ失敗って面白んだよねー」


「もうこれはこのゲームが悪い……!こんなの笑うって!」


天空ステージの最後を飾るステージは、大きく分けて『川下りエリア』『合流・開放ギミック』『屋内駐車エリア』の三つのフェーズで構成されている。


『川下りエリア』では誘導係がビニールボートに乗り、川の流れに沿って下流にいる車と運転手との合流を目指す。


「ゴボゴボゴボ……」


「ホットありがとう……!これで皆にボート乗ってる途中で下りたらどうなるか紹介できるよ……!」


「デディ……助けてゴボ……」


「僕泳げないの知ってるでしょゴボォ」


「何でテディまで溺れてんの」


泳いで渡ることは不可能で、プレイヤーが水没した瞬間そのままやり直しとなる。


誘導係が合流する間に、運転手はバック発進した先にあるメダルを獲得。そして『合流・開放ギミック』では二人が合流した後、誘導係は車両の屋根を足場にして貯水タンクの上へ移動する必要がある。そこには足元操作式のボタンが設置されており、これを踏むことで隣接するシャッターが開放される仕組みだ。


「レッツゴー!」


「うわっ。お爺ちゃんお婆ちゃん危ないて!」


キッズルームを連想させるような『屋内駐車エリア』はノーマルモードより狭くなっていた。中ではシルバーカーを引いた老人数名が不規則に移動しており、これを避けながら進行する必要がある。


「さぁ!ノーマルモードでの歩行者は一人だけでしたが、チャレンジモードでは三人に増えている!おまけに中も全体的に狭い!テディ運転手による微調整が求められます!」


「おまけにもう一枚のコインがまたいやらしいところにあるなぁ……」


駐車エリアの真ん中には追加のメダルが配置されており、運転手はノーマルモード以上に厳しい幅からの直角駐車を余儀なくされた。


「窓からチューリップの花壇が見えたら止まってドライブに入れて、早めにハンドルを右に……」


――うわー左ハンドル無理すぎっ……!何でサイドミラー無いんだよこの車!


この撮影は攻略動画用である。テディは慣れない精密なキーボード操作に苦労しつつも、弱音を吐かず解説を続けていった。


『パーキング・ジョイントリー』には地上・天空・雪原・墓地・神殿という五つのステージが存在する。それぞれに一から五の異なるステージとギミックが用意されており、全部で二十五種類のステージを楽しむことができる。チャレンジモードを加えれば遊べる量は倍になるが――


「テディ急いで!落ち武者の巨人が俺のとこ来てる!」


「えっちょっと疲れたから面白いの見たい」


「そんな理由で俺の命がっ、グエーー!」


――状況の難しさと比例して、プレイヤーの疲労も徐々に高まっていった。


こうして夕飯とお風呂の休憩を挟みつつも、二人は全てのチャレンジモードを制覇した。


「はーお疲れ!やったはいいけど、皆チャレンジモードやってくれるかな。ノーマルモードの全クリ前提だからな……」


「でもめっちゃ楽しかった!最後のステージでめっちゃ落ちまくった時は初めて詰むかと思ったけど」


糸哉は録画データを確認し、敦斗のコメントにふっと相好を緩める。


「でも肝心の受験は落ちなかったね」


「……!」


「合格おめでとう――お互いにね」


改めて言われた瞬間――脳内に咲いた桜が、ようやく敦斗にとって現実のものとなった。

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