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9.ワイバーンと祝勝会

「ワイバーンを倒す? お嬢ちゃんわかってんの? 魔術は使っちゃダメなんだよ」


 兵士の一人が、エレナの言葉をただの戯言だと決めつけ笑い出す。そしてエレナへの嘲笑は大半の兵士に伝播した。


「確かにさっきの動きはすごかったけど、ワイバーン相手じゃ、ねぇ?」


「無理無理、魔術なしで空飛んでる魔物は倒せないって」


 そんな中、トムはエレナの言葉を笑うことなく、真剣な目で、


「出来るのだな?」


 とだけ聞いてきた。


 エレナが無言で頷くのを見ると、トムは兵士たちに向き直り指示を出し始めた。


「……以上の編成で、ゴーレムを掃討せよ!」


「「「はっ!」」」


***


 弓矢を借りたエレナは、城壁の上からワイバーンを狙う。


 弓で倒せなくても、ワイバーンの気は引ける。


 エレナは人生で初めて弓を引く。


 遥か上空を飛行するワイバーンに届かせるための、長く張りの強い弓。当然、照準は安定しない。


「それなら、タイミングを合わせて撃てばいい」


 小刻みに揺れる矢尻と、ワイバーンの位置を注視して、そっと手を離す。


 ヒュン!


 射出された矢は、正確に先頭のワイバーンを射抜いた。


 だがそれに悲鳴一つ上げることなく、こちらに突っ込んでくるワイバーン。


 ワイバーンの鋭いクチバシがエレナの体を貫く寸前、エレナはワイバーンの背に飛び乗った。


 エレナを振り落とそうと、大きく揺れながら高度を上げて行くワイバーンに、エレナは剣を突き刺ししがみつく。


 狙い通りの展開に思わず笑みが溢れた。


 作戦通り! このままワイバーンの群れに突っ込んで、全部切り落とす!


 ワイバーンの群れに辿り着くと同時、エレナは乗っていた個体の首を落とし、跳躍する。


 トンッ。 スパッ!


 不規則なリズムで、空をかけるようにワイバーンの背を蹴り、攻撃をかわしながらワイバーンを狩るエレナ。


 最後の一匹の首を切り落とし地上を見下ろすと、ゴーレムとの戦闘中にも関わらず、空を見上げて呆然と立ち尽くす兵士たちが見えた。


***


「すげぇ! あの嬢ちゃん、本当に魔術なしでワイバーンの群れを倒しやがった……」


「ワイバーンに乗って、空飛ぶとか、まともじゃねぇなっ!」


 巻き起こる歓声の中、ライオスもまた、倒したゴーレムの上に乗り、空にいるエレナを見上げていた。


 エレナちゃんは本当にすごい。でも、あんな危険なことはやめて欲しい。


 後でエレナと話をしようと考えるライオス。


 その頭上に、岩の拳が降りかかる。


「まずい!」


 突如襲いかかって来たゴーレムの拳に、剣を振り遅れるライオス。


「ライオス様ぁ!」


 駆けつけたアーガストが、ゴーレムの拳を受け流した。


 それを見て、ライオスは剣を腰だめに構え直し、ゴーレムの足を切り落とした。


「アーガストか、助かった。ありがとう」


 ライオスは礼を言いながら、倒れたゴーレムにとどめを差した。


「いえ、僕はライオス様の護衛ですから」


 その後もアーガストが受けライオスが切る、という流れでゴーレムを倒し続けると、


「残る敵影なし、我々の勝利だ!」


 トムが勝利の雄叫びを上げた。


 この時、思い詰めた表情で剣をしまうアーガストに、ライオスは気づかなかった。


***


「鉱山内の魔力濃度、これを下げねば我々に勝利はない」


 団長のトムは、相変わらず険しい顔をしている。


「それについては俺に考えがある」


 自信ありげなライオスの作戦は、最も効率的でいて、最も難易度の高い方法だった。


 その手順は、


 魔力収集装置を設置し、魔力を集める。


 魔力誘導装置によって集めた魔力を鉱山の外へ送る。


 魔力消費が激しく、また魔力残存率の低い魔道具で、魔力を消費する。


 というものだった。


「その方法は我々も考えた。……が、鉱山への突入には、計り知れない危険が伴う」


「そのための俺たちだ。俺たちが鉱山に突入するから、その間は町を頼む」


 エレナの肩に手をかけ、胸を張るライオスは、


「また一緒に出かけられるな!」


 とでもいいそうな目でこちらを見ている。


 きっとライオスは、自分たちが死ぬ可能性なんて、全く考えてないのだろう。


「よし、いいだろう。ならばこちらからもせめて、部隊長を二人出そう」


***


「スタンピード第二波撃退、お疲れ様でしたぁー!」


 この日、スタンピードの波を退けた祝勝会が、小規模ではあるが開催された。


 ちなみに作戦決行日は、魔道具の輸送などの影響により一週間後に決まった。


「エレナ。ちゃんと食べてる?」


 ライオスは、皿を両手に持って声をかけてきた。


「ありがとうございます」


 エレナはライオスの手から、ワイバーンの肉が盛り付けられた皿を受け取った。


「それにしても、ワイバーンに魔術なしで空中戦を仕掛けたのには驚いたよ。確かに凄かったけど……」


 ライオスは話を続けながらごく自然に、エレナの顎を持ち上げて顔を近づける。


「……エレナにはもう少し、自分を大切にして欲しいかな」


 うぅ……。油断するとすぐこれだ。……ちょっと恥ずかしい。


 自分のうるさい鼓動を聴きながら、エレナはライオスの端正な顔から目を逸らした。


 するとライオスは、エレナの耳に口を近づけ、甘い声音で囁いた。


「照れてるエレナも凄く可愛いよ」


 ……すぐそういうことを言う。こいつ、やっぱり女たらしだって噂だけは真実だったんだな。


「そ、それより……、ご飯、食べましょう」


 話題を逸らし、スライスされたワイバーンの肉を頬張るエレナを見て、ライオスは愉快そうに微笑んだ。


 そうして二人の皿が綺麗になった頃、目つきが鋭い青い隊服の好青年と、赤い隊服に身を包んだ背の高い美女が近づいてきた。


「君たちが、エレナとライオス? あたしはアメリア、こっちはセイン。今度の作戦で、君たちと一緒に鉱山に突入することになった。よろしくね」


 ライオスは、差し出された手を順番に握り、挨拶を返す。


「こちらこそ、よろしく頼む」


「それで君たちに提案なんだが……セイン、あんたの案だろ? 自分で言いなよ」


 アメリアに肘で小突かれ、セインが一歩前に出た。


「連携を取るためにも、お互いの実力は把握しておくべきだと、オレは思う。……だから明日にでも、オレたちと手合わせしてくれないか?」


 エレナはライオスと顔を見合わせると、コクリと頷いた。


「わかった。その申し出、受けて立とう!」

「面白かった!」


「ライオス攻めるなぁ」


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