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5.コーデリアとの休日

「ねえ、起きなさいよ! ねえっ!」


 体をゆすられたエレナは寝返りを打ち、掛け布団にくるまる。


「うぅ……。まだ早いよぉ」


 目を閉じたまま、寝ぼけた声を上げるエレナに、


「いい加減起きなさいよ、エレナ!」


 大声で怒鳴り、掛け布団を取り上げたのはコーデリアだ。


「なんでコーデリアちゃんが私の部屋にいるの?」


 まだ寝ぼけているにも関わらず、エレナの発する声は冷たい。その声に、コーデリアは一瞬たじろいだが、すぐに胸を張る。そして手に持っていた、コーデリアの身長よりも大きなクマのぬいぐるみを差し出してきた。


「あなたこのお人形治せる? 昨日の襲撃で破れちゃったのよ」


 見ると確かに、人形のいたる所が破けており、綿も飛び出している。


「治せるよ。でもどうしてメイドに頼まないの? メイドに頼んだ方がきっと上手く治してもらえるよ」


 エレナは深い青の瞳で、コーデリアのキラキラした水色の瞳を覗き込む。するとすぐにコーデリアはそっぽを向いた。


「それが、さっきお父様に頼みに行った時、ライオス様も一緒にいて、『エレナちゃんに治してもらったらいいよ』って言われたのよ」


 元々エレナがここに連れてこられた理由は、ライオスの


「友達をつくってみようか」


 という発言のせいだった。


 おそらくライオスは、コーデリアならエレナの友達になれると踏んで、関わるように仕向けたのだろう。


 有事の中でも目的を失念しないライオス──普段はあんなでも、実はしっかり者なのでは……?


「わかった。その人形貸して」


 そう言ったエレナは、魔術で植物性の糸と綿、氷の針を作り出す。


 そして半刻が過ぎる頃には、綺麗な状態の人形が仕上がっていた。


「あなた、少しは見どころがあるじゃない」


 エレナの手元から人形を奪うようにして手に取ると、それを満足そうに抱きしめた。


 そんなコーデリアを、エレナの無機質な視線が突き刺す。


 お礼くらいちゃんと言おうよ。


 そう語りかける無言の圧が、深青色の視線に乗っていた。


 一瞬拗ねたように口をすぼめたコーデリアは、開き直るようにして満面の笑みを浮かべる。


「……ありがと」


***


 あれからコーデリアと二人で朝食を摂ったエレナは、コーデリアに誘われて、二人で辺境伯領の散歩に出かけた。


 マリアも誘おうと思ったが、ふかふかのベットの上で気持ちよさそうに寝ていたのでそのままにしてきた。


「おやっ、リアちゃんじゃないか。これ、もぎたてのウグレだよ。持っていきな!」


「おう、こっちにはラフルがあるぜ。持ってけ!」


 コーデリアは先ほどから、誰かとすれ違うたびに声をかけられ果物を貰っている。リアというあだ名で呼ばれていて、敬語も使われていない所を見ると、コーデリアは領民たちに親しまれているのだろう。


 コーデリアは果物をもらうたび、その金髪のツインテールを揺らしてはしゃぐ。そして今は、ウグレと呼ばれるブドウのような果実を頬張り、


「ネルラおばさんありがと。すっごく美味しい!」


 と、年相応の幼い笑みを浮かべた。


 コーデリアちゃん。外では──というより私以外には素直な子なんだな。


 エレナは目の前で流れる幸せそうな光景に目を細める。


 たまには外に出て、人のために魔術を使うのもいいかもな。


「んっ? あんたは昨日の魔術師じゃないか。うちらみんな、お嬢ちゃんには感謝しても仕切れないよ。あんたのおかげでうちらの畑が蘇ったんだからね」


「仕事ですので」


 真顔、感情の乗らない声で、エレナが言い捨てる。


 悪い癖でちゃったぁ! なんで私は、初対面の人に対してこうも冷たい言い方しかできないんだろう。


 気まずくなって、エレナはその場を去ろうと後ずさる。そしてきびすを返そうとした時、


ドンッ!


 ネルラおばさんと呼ばれた農婦が、エレナの背を叩いて小気味のいい音を出す。


「仕事だとか関係ないよ! うちらにとってあんたは恩人。大事なのはそこだけさ」


 意表を突かれたその言葉に、エレナが固まる。


「ほらこれ、リアちゃんと二人でお食べ」


 ネルラはそういうと、手に持つタイプの小さめのカゴに、いくつか果物を詰めてエレナに渡す。


 それを受け取り、農民たちの幸せそうな顔を見てエレナは、


「えっと……、ありがとうございます」


 ぎこちない口調でお礼し、微笑んだ。


 私今、笑ってる。この世界に来てから初めてマリア以外の前で笑ったな。


「ねえエレナ。それ早く食べたい! あそこの大きい木の陰で食べるわよ!」


 そう言うと、コーデリアは小高い丘の上にポツンと生える一本の木を目掛けて駆け出す。


 エレナが歩いて木陰に来ると、「遅いわよ!」と文句を言いながら、コーデリアはカゴの中にある果物を鷲掴みにした。


 それを一息に食べ切ると、コーデリアは意を決したように、真剣な目でエレナを見た。


「あなたは本当にすごいわ。魔術も裁縫もなんでも出来て、なんだかんだ優しくて……。だから癪だけど、ライオス様のことは譲ってあげるわ」


「つまり、私を認めてくれたってこと?」


 真顔で聞き返すエレナ。それに対してコーデリアの顔は、みるみる紅くなっていく。


「そうよ認めたわ! はっきり言わせないでよ。それで、だから、わたくしのこと、リアって呼んでいいわ」


「……リア」


 そう呼んで、エレナはコーデリアの頭を撫でる。


「ちょっ! 何するのよ慣れなれしいわよ!」


 そう言いつつも対した抵抗をしないコーデリアを見て、エレナはまた、微笑んだ。

「面白かった!」


「コーデリアかわいい!」


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