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3.魔物討伐

 魔物たちが畑を襲うのは日が沈んですぐの時間帯。襲撃の頻度からして、どうやら今夜畑を襲いに来る可能性が高いらしい。


「エレナちゃん、本当に一人で大丈夫?」


 鮮やかなオレンジ色の瞳で不安そうに見つめてくるライオス。


 魔物討伐作戦──その内容は至ってシンプルだ。広範囲魔物探知機という、文字通りの機能を持つ魔道具を使って、それぞれが魔物を各個撃破すると言うものだ。


「大丈夫です。それに、ライオス様とアーガストだけでこの広大な畑を全て守ると言うのは、あまりにも負担が大きすぎますよ」


 辺境伯様の私兵には領民たちを守ってもらう必要がある。そのため、魔物たちの迎撃に出られるのはエレナ、ライオス、アーガストの三人だけだ。


「そうですよライオス様。エレナは魔術はもちろん剣の腕もすごいんです! 安心してお任せください!」


 栗色の瞳を輝かせ、誇らしげにその豊満な胸を張るマリア。


「なんでマリアが誇ってるの……」


「いいじゃん。友達なんだし!」


「いや良いんだけど……」


 そんなやりとりをしている二人に、ライオスは温かい視線を送り、微笑んだ。


「日が沈み出しました。エレナ様、ライオス様、配置につきましょう」


 アーガストの言葉に、エレナとライオスの(まと)う空気が引き締まった。


***

 

「グルルゥゥ……」


 十余匹の狼型の魔物──ファングウルフが、エレナを威嚇するようにその鮮烈な赤眼で睨みつける。


 久しぶりの戦闘……テンション上がるかも!


「おいで、狼ちゃん」


 口角を上げてニヤリと微笑み、両手で持った直剣で月光を反射させる。


「ガルルゥウ!」


 エレナの挑発に乗ったファングウルフは、一斉にエレナに接近した。


「そんな攻撃、当たるわけないでしょ」


 地面を駆けてくるものも、地面を蹴り飛びかかってくるものも全て、ヒラリヒラリと最小限の動きでかわす。


 ヒュンと音を立てながら揺らめく剣光は、全てのファングウルフを撫でるように通過し──。


 攻撃を避けられた狼達がエレナを振り返ると、エレナの剣からは血が滴っていた。


 「切られた!」狼たちがそう気づいた時にはもう、全てのファングウルフの首が落ちていた。


「これでもう私の担当分は終わりか」


 広範囲魔物探知機の反応がなくなったことを確認して呟く。


 うーん……久々の戦闘なのに、まだ不完全燃焼感が否めないな……。


 そんなことを思いながら、剣についた血を払って鞘に納める。


 そうしてエレナが辺境伯邸へ戻ろうと屋敷を振り返った直後、


 ドゴオォォン!


 轟音とともに、屋敷がある辺りから土煙が舞い上がった。


 急いで戻らなきゃ!


 エレナは反射的にそう思うと、屋敷に向かって駆け出した。


 屋敷にはマリアがいる。他にもコーデリアと辺境伯、そしてその従者達だっているし、屋敷の周りの住民にも被害が及ぶかもしれない。


「エンチャントウィンド、ライトニングアクセル!」


 エレナは素早い動きで杖を取り出し、地面に緑と金に光る魔法陣を重ねて展開。走る勢いそのままに、その魔法陣を踏み抜く。


 ヒュオッ! バリバリッ!


 その瞬間、魔法陣は砕け、エレナは風と雷を(まと)った。


 そして次の一歩──前に出した足が地面についた刹那、エレナは音をも置き去りにして加速。僅か数十秒で十数キロ離れた辺境伯邸へと辿り着いた。


「エ、エレナ?」


 どうやらマリアはすでに屋敷から避難していたようだ。


 マリアの無事を確認できて安心したエレナは深く息を吐き、屋敷に向き直る。


「あれは……オークの群れ?」


 玄関扉とその周辺の壁に空いた穴からは、十数匹のオークが辺境伯家の私兵と戦闘していた。余裕の表れなのか、エントランスを手当たり次第破壊しているオークもいる。


「ひいっ……。誰でもいいから今すぐわたくしを助けなさいっ!」


 悲鳴に振り向くと、壁に寄り掛かり、蹲っているコーデリアがいた。


 彼女の前で一匹のオークが、コーデリアの頭よりも太い棍棒を振り上げ、今にも振り下ろそうとしている。


「コーデリアちゃん大丈夫?」


「えぁ……その声、エレナ?」


 涙を溜めた目を、ゆっくりと開くコーデリアに、エレナは剣をしまい手を差し伸べる。


 その後ろでは、首と腕を落とされたオークが崩れ落ちた。


 それを見たコーデリアは、脊髄反射のような速さでエレナに抱きつく。


「エレナぁ。ありがとぉー!」


 エレナは自分の胸で泣くコーデリアを片方の手でそっと抱え、空いた手に杖を構える。


「凍てつく風よ、イバラの導きに寄りて氷塊となり、我が敵を貫け。アイシクルフィアー」


 詠唱が終わると同時、先の尖った氷の柱が、それぞれのオークの足元から勢いよく生えた。


 詠唱を短縮しないことで威力が底上げされたエレナの魔術は、視界に入る全てのオークを難なく串刺しにした。


「すごいエレナ! 今のって上級の氷属性魔術じゃない。しかもそれをこんなに正確に発動させるなんて……エレナは天才よ!」


 命の危機に瀕してツンツンした性格が吹き飛んだのか、コーデリアは泣き止み、エレナに向かって満面の笑みを浮かべる。


 この世界では、上級魔術を一つでも扱うことができれば宮廷魔導士になれると言われているため、コーデリアが興奮するのも当然だろう。


 褒められ慣れていないエレナは「ははは……」と困り笑いを浮かべ、


「とりあえずオークの死体を片付けましょう。放置しておくと疫病の原因になるので」


 軽傷の辺境伯私兵に手伝ってもらい、オークを運ぼうとした時、エレナの目にはルーンが刻まれた石のペンダントが映り込む。


 これって確か、隠密のルーン……こんな物、ただの魔物が持っているはずは……。


 ペンダントを手に取り裏返してみると、弧を伸ばした三日月に剣が刺されている紋様が彫られていた。


 もしかしてこれって、暗躍組織とかそういう展開じゃない? 厨二心がくすぐられ……。


「エレナ後ろっ!」


 コーデリアの叫びで我に返ると、エレナは振り向きざまに剣を抜こうとする。


 そこにいたのはオーク。エレナたちに飛びかかり、その体重で押しつぶすつもりだ。


 撃ち漏らしがいたのか! これ、切っても潰される。魔術も間に合わない。それに私が避けたらコーデリアちゃんが死ぬ……。


 エレナはコーデリアを弾き飛ばした。


 ああ、二度目の人生も短かったな。まさか私が、オークなんかに殺されるとは思わなかったなぁ。


「「エレナッ!」」


 コーデリアの悲壮感をはらんだ声と重なる声──その主はライオス。


 風を纏い身体能力を上げたライオスは、エレナの前に滑り込み、素手でオークの巨体を受け止める。


 ライオスの立つ地面が悲鳴を上げて割れた。


「ゲイル……ブラストォ!」


 次の瞬間、ライオスの手からオークに向かって爆発的な突風が吹き荒ぶ。その凄まじい勢いに耐えられず、岩より重いオークの体が吹き飛ぶ。そしてそのまま屋敷の天井に激突し落下した。


「エレナ、無事か?」


 息を切らしながらも心配そうにエレナを見るライオス。命を救ってくれたこともあり、汗が滴る顔に、真剣な表情を浮かべたライオスを見て、エレナは不覚にも、


 かっこいい……。


 そう思い、頬を赤らめてしまった。

「面白かった!」


「ライオスやるじゃん!」


と思ったら


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