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親に見放された天才令嬢は婚約者と旅をする  作者: 早川冬哉
第一章「スール辺境伯領農地改良」
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1.エレナと婚約者

「どうしてあなたは愛想笑いの一つもできないのよ!」


「剣も魔術も勉学も、全てにおいて天才と言われたお前が、なんで笑うことだけできないんだ! ……これではまともな婚約者なんて作れるわけがない」


 エレナの記憶には、両親からの罵倒が多い。


 酷い時には、父に顔を殴られ、顔を腫らしたまま歩いていると、母に突き飛ばされたこともある。


「そんな醜い姿をわたくしに見せないで。わたくしの目が腐ったらどうしてくれるのよ!」


 母は、転んだエレナの腫れた頬に足を乗せ、怒りを露わにした。


 痛い……いたい……。


***


 エレナは十年前──五歳の頃には前世の記憶を取り戻した。前世でひきこもりだったエレナは、今世ではルーズガルド公爵家の長女──エレナ・フォン・ルーズガルドとして生きている。


 そして、記憶を取り戻すとすぐ心の中で叫んだ。


 「「「異世界きたぁぁあ!」」」


 それからと言うもの、長いひきこもり生活で(つちか)った眠気耐性に物を言わせて、昼夜問わず魔術、剣術、そして読書に励んだ。


 その結果、


「エレナ様。是非とも我ら王国騎士団に!」


「いいや、エレナ嬢の魔術の才能は人類史を見ても並ぶ者がない! 彼女は宮廷魔術師になるべきじゃ!」


「いえいえ、エレナ様の知識とその応用力! エレナ様は魔道具研究に革命をもたらすべく生まれてきたに違いない! 是非とも我が国立魔道具研究所においでください!」


 と、各方面の重鎮(じゅうちん)たちからの誘いが殺到した。


 しかし、そんなうれしい悲鳴をあげていられたのも束の間。


 口数も少なく、表情筋も死んでいたエレナは、プライドの高い貴族たちから才能を妬まれたのだ。


 そして、エレナのコミュ力はミジンコ以下。話しかけてくれた人に対しても、ほとんどは無言で目を逸らすことしかできない。なんとか声を出せたと思っても、


「で、何の用?」


 という感じで、なぜか突き放すような冷たい言い方になってしまう。


 そんなエレナに、婚約者なんて見つかるはずもなく、感情の読み取れない冷たい青色の瞳も相まって、いつしか貴族たちの間で「氷姫(こおりひめ)」と揶揄されるようになった。


 でも、別にどうでもいい。


 これは強がりでもなんでもない。誰になんと言われようと、エレナはダラダラのんびり過ごせればいい。気の赴くままに魔術や剣術、知識を使えればそれでいいのだ。


 それに、エレナには一人だけ親友がいる。


「おはよーエレナ! 今日はこの青のワンピースなんてどう?」


 明るく弾んだ声とともに、栗色ショートヘアにオレンジ色の紐リボンを付けたエレナの親友──マリアが朝の身支度を手伝ってくれる。


 マリアはエレナのそば付きメイドだが、エレナの幼馴染でもある。彼女は幼い頃から、このルーズガルド公爵家に仕える両親と一緒にこの屋敷の使用人寮に住んでいる。


 そしてマリアは年の近かったエレナと一緒にいる時間が多かった。エレナはその頃魔術やらなんやら、修練ばかりしていたが、マリアはなぜかいつもエレナの横にいた。


「おはようマリア。……相変わらず朝からテンション高いね」


「うん! ……あっ、でも今日なのか。例の道楽王子が来るのって」


 マリアは栗色の瞳を細め、顎に指を当てて不安そうな表情を浮かべた。


「うん、そう。確かにあまりいい噂は聞かないお人だよね」


「そうだよ! 噂によると、ライオス殿下は相当な女たらしだとか……。エレナも気を付けなよ」


 人差し指でエレナの頬に触れ、エレナの顔を覗くようにして話すマリア。可愛すぎるっ!


 ライオス──エレナの父がより強い後ろ盾を求めて奮闘した結果、エレナの婚約者になった人だ。


 本名はライオス・ヴァン・エクステリア。隣国エクステリア王国の第一王子で、なんでも公務を放り出して国中を遊び歩いているらしい。そしてその旅先では、例外なく問題ごとが起こっているとか……。


「……ってマリア!? なんで髪をいじってるの」


 マリアは服装のセンスはあるのに、髪を結わせたらいつも大惨事になるのだ。


 案の定、今もエレナの髪を三つ編みにしようとしていたが、歪んでいてボサボサだ。


 とてもじゃないが、このまま人前に出る勇気は起きなかった。


 なんとか髪をとかし終えると、執事のしゃがれた声が部屋に響いた。


「お嬢様、ライオス殿下がいらっしゃいました」


 ああ、来てしまったか……。面倒ごとは勘弁して欲しいな。


「どうぞ」


 声に反応して部屋の扉が開く。そしてエレナは、相手の顔を見る前にワンピースの裾をつまみお辞儀し、お決まりの社交辞令を述べる。


「お初にお目にかかります。エレナ・フォン・ルーズガルドでございます」


 数秒そうしてから顔を上げると、スラリとした長身の男──ライオスがエレナの前に立ち、気どった仕草でお辞儀する。


「初めまして、黒髪のよく似合う、海色の瞳が魅力的なお嬢さん。俺はライオス・ヴァン・エクステリア。これから婚約者としてよろしくね」


 ところどころ跳ねた短い金髪のライオスは、その切れ長のオレンジの瞳でエレナをじっと見つめている。


 まあ、顔だけ見ればイケメンだな。……言動にはウザさを感じるけど。……そういえばこの後、この男とお茶会があるんだっけ? 面倒だなぁ。


「お二方、庭に茶会の準備をしてございます。よろしければご案内させていただきますが、いかがいたしましょうか?」


 執事の提案に、エレナとライオスは頷く。


 婚約できなかったエレナは今まで、顔を合わせるたびに両親から罵られてきた。だが実際、両親にさえ会わなければ自由に過ごせる時間が多かったのだ。


 それをこれからはこの軽そうな男のために費やすことになるのか……。


 エレナは、ライオスに気づかれないようため息をついてから、庭に向かって歩き出した。


***


 ──ルーズガルド公爵邸の庭。花壇に囲まれた一角で、エレナとライオスの二人は、丸テーブルを挟んで座っている。


 テーブルには、高級ハーブティーと茶菓子が並んでいるが、エレナは口をつける気にはなれなかった。


 ふと、ライオスが微動だにしないエレナを見てイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべる。


「ねえ、エレナちゃんは友達とかいなそうだけど寂しくないの?」


 普通初対面でいきなりそれ言う? 私ってそんな友達いなそうに見えるの? ……まあ、前世ではいなかったけど。


「私にも友人はいますので平気です」


「強がらなくていいんだよ、エレナちゃん。これからは俺が、婚約者としてエレナちゃんに寂しい思いなんかさせない」


「どうかお構いなく。私には古くからの友人、マリアがいますから」


 すぐ近くのベンチで控えているマリアを指差して、言うと、


「他には友達いないの?」


 とライオス。


 痛いところを突かれたエレナは、目の前に置いてあるハーブティーに口をつける。


 その様子を見て、ライオスはジト目で私を見つめる。


「……いないのか。なら、友達をつくってみようか」


 ……へ? そんな簡単につくれたらひきこもりなんてやってないよ。


「この国の皇帝との契約で俺は月に一度、地方の問題ごとを解決しなければならない。だからさ、その旅にエレナちゃんも一緒に行かない? 旅先の人たちと話せば、きっと友達になれるよ」


 それ絶対面倒なやつじゃん。


「断固拒否で」


 でも、相手は一応一国の王子。断った方が面倒かな?


「いや、そんなに拒絶しなくてもいいじゃないか。護衛にはアーガスト──元エクステリア王国騎士団副団長もいるから、危険はないよ」


 ライオスについてきて、今はマリアの横に座っている白髪の美青年──あの人護衛だったのか……じゃなくてさっきの、声に出ちゃってたか。


 こいつねちっこい性格してそうだな。私が折れるまで一生言い続けそうだし、しょうがないか。


「わかりました。では後ほど日程を教え──」


「ありがとうエレナちゃん。よし、じゃあすぐ出発しよう。今すぐに!」


 ライオスはエレナの手を引き立ち上がると、マリアとアーガストも引き連れて馬車に乗り込もうとする。


「待ってくださいライオス様! エレナはなんの旅行支度もしておりません。せめて一時間ほどお待ちになって頂けませんか」


「ああ、それもそうだな。俺の気が利いていなかったよ。ごめんエレナちゃん。あとマリアちゃんもありがとう」


 いや普通何日か前に言うものでしょ!


 そう思いつつも旅行先などを聞いてから屋敷に戻る二人。その姿を見送ったライオスは護衛のアーガストに尋ねる。


「なあ、なんで俺ってエレナちゃんにこんな突き放されてるの?」


 アーガストは何も答えず、困った人だと言うように首を振った。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


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連続(今日は四話)投稿するので、もしよかったら二話以降もぜひ読んでみてください!

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