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第八話 人質妃、攫われる

気がかりな琴の音の再調査へ


 珍しく朝食中も忙しなく書状を確認したり、側近に指示を振ったりしている太星が一旦落ち着くのを待って、玫玫は声をかけた。


「陛下、もう一度あの庭園を調べに行きたいのですが」

「何か見つかったの?」

「いえ、少し気になるくらいで」

「許可をしてやりたいところだが、今日は同行出来ないな」

「庭園に行って、すぐに帰ってきますので()()と二人で問題ありません」

()()? 随分仲がよさそうだな」

「仲は悪くないとは思います?」


 今日は機嫌が悪いのかな。


「あの、だめでしょうか?」

「わかった。馬車と共を数人つけさせる。日暮れまでには行って帰ってくるように」


 なんだか、子供みたいな言いつけだなぁ。


「わかった?」

「はい! 行ってまいります」



 玫玫と晴藍は馬車に乗り込み、お共数人と池に浮かぶ庭園に向かった。


 今日は琴の音はしてない……。


 先日、琴を弾いている女性を見た亭に入ってじっくりあたりを見渡している玫玫。


「このあたりに、このまえ」


 池を眺めながら欄干に腰掛けた晴藍は玫玫に問いかけた。


「玫玫、黒の終末兵器について桃ではなんて聞いていたんだ?」

「一夜にして三国を滅ぼせるものだと……青は違うのですか?」

「おおむね同じだ。空を黒く染め、雷鳴轟かせ、一夜で三国を滅ぼさんとする兵器」

「陛下は本当にその兵器を持っているんでしょうか?」


 いつもの飄々とした様子を思い浮かべて玫玫は首を傾げる。


「そんなものは存在しないのにも関わらず、あると言い。我々はただからかわれている、と?」 

「私たちを面白がったり、飄々としたりしていたと思えば、今日は機嫌が悪かったんです」

「機嫌が悪い?」

「はい……晴藍と二人で庭園に行ってもいいですかって聞いたら突然機嫌が悪くなって」

「ほう?」

「随分仲が良さそうだなって嫌味まで言われてしまって」

「それは……」


 晴藍が何かを言いかけた時、日が傾いてきたので帰りましょうと侍従から声がかかった。

 馬車に乗り込んですぐ晴藍が馬車を扱う御者に叫んだ。


「おい、王宮の方角を間違えていないか」

「え」

「お前、聞いているのか!」


 晴藍が馬車の小窓から外を見た。


「やられた」


 玫玫も晴藍の傍ら外を覗く。

 馬車を取り囲み、馬を走らせているのは顔の知らない男たちだった。見知った侍従は一人もいない。


「どうしたら……」

「飛び降り……ることはできそうにないな」


 晴藍は玫玫を見て提案を引っ込めた。

 立ち上がり、玫玫の隣に座り直した晴藍は額に手を当てて思案していると今まで黙っていた御者から声をかけられる。


「黒のお妃様に危害を加えることはございません。どうかご安心下さい。暴れず、今はただお静かに願います」

「その言葉を信じろと?」


 晴藍がとても低い声で返し、玫玫は肩を揺らして驚いていた。


 いつもの晴藍とは違う。


 御者は冷静に言葉を続けた。


「命をかけて、お二人を目的地へお運びするのが我々の勅命にございます。どうか、それだけは信じてください」

「開門!」


 そう聞こえて、黒を出たのを理解した玫玫。


 ビュウ。


 馬車を揺らす程の突風が吹いた。小窓から馬車を囲む男性の被り物が飛んでいった。

 一つに束ねられた髪が風に揺れている。


 緑色の髪だった。



 馬車が止まり、二人が馬車を降りるともうすでに日は落ちて夜だった。

 馬車の周りは篝で照らされていた。

 さわさわと風が木々を揺らす音がする。黒や桃より強く土と葉の匂いがする。


「どうぞ、お足元お気を付けください。王がお待ちです」


 御者の言う通り、玫玫と晴藍は拘束をされるどころか、手を貸され丁寧に扱われた。

 玫玫は心もとなく晴藍の袖を握っていた。


「ここは(りょく)だな」


 晴藍は冷静にあたりを見渡した。緑色の髪色を見て確信したようだった。


「緑の帝となると……柳 景旬(りゅう けいしゅん)殿だな」

「晴藍、私面識ないです」

「私もない」


 玫玫と晴藍はこそりこそりと連れてこられた理由を探すが、何ひとつ思い当たらない。

 扉前で先導をしていた侍従が立ち止まり、左右に避け二人に道を開けた。

 突然、扉が開かれて二人は部屋の中へ恐る恐る進んで行った。

 部屋の奥、立派な椅子に腰かけている人物がいた。


 あの方が柳 景旬様?


 高く結い上げられた髪、きりっと整えられた眉と刃物のように鋭い視線。玫玫の呼吸が浅くなる。

 今ここで何かしらの罪で罰せられてもおかしくない雰囲気だった。

 手が震える。

 玫玫は震える右手を止めるためにさらに震えている左手で押さえた。

 ぎしっ。

 景春が立ち上がり、二人の元へ歩いてきた。

 立ち上がり、歩く姿だけで気品があり、威厳があった。

 手を組んで、身を低くしようと片足を後ろに引いた時。

 玫玫と晴藍の二人の前で先に床に膝をついたのは景旬だった。

 高い位置で結われた髪が大きく揺れた。


「此度の非礼を心からお詫び申し上げる」

 

 あれ?


 景旬を近くで見て、思いのほか高い声を聞いた玫玫は違和感を覚えた。

 きめの細かい肌に細くしなやかな指、身長は高いけれど、細めの身体。

 玫玫は隣に立つ晴藍の喉仏を見た。


 あれ?


「すまない。驚かせるつもりはなかった。 緑の女帝、柳 景旬だ」

 

 玫玫の思っていることは全て、顔に出ていたらしい。





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