表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/22

第六話 人質妃、綱渡りの共同戦線

玫玫と晴藍の共同戦線


「晴藍様がどうして、壺の中に入っていたんですか?」


 玫玫は部屋の隅に置かれた壺を指さして言うと晴藍は腕を組んだ。


「話せば長くなるのだが……」


 晴藍は壺に入っていた経緯を少しずつ話しはじめた。


「私は黒の終末兵器を青へ持ち帰りたいのだ」

「持ち帰る?」

「私は終末兵器を持ち帰り、宰相を脅したうえで父と協力し国を取り戻さないといけない」

「晴藍様の国なのに、取り戻すのですか?」

「青の王、私の父は突然病で倒れられた。現在の(まつりごと)は宰相が行っている……が、父の病は宰相の盛った毒が原因だとわかった」

「毒……」

「問い詰めたが宰相はうまくはぐらかし、後宮にいる母や妹をだしに私を脅してきた」

「ひどいですね」

「そして、先日私を手にかけようとしたのだ。追われた私は部下の助けもあり、命からがら青の王宮を逃げだした。偶然、青から黒へ向かう商人の荷車が通りがかり、乗り込むことが出来たわけだ」

「命を、狙われたんですか」


 玫玫は息をのんだ。


「あぁ。そうして私は今ここにいる。助けてくれたのが玫玫殿で運がよかった。しかし、どうして私を助けてくれたんだ? 助ける義理はないだろう。それに身柄を拘束されていないとなると匿ってくれているのだろう?」

「見つかったら殺されてしまうんじゃないかと思って……」

「それなら私を匿っていることがバレた後、君も危ないだろう?」

「そこまで……考えていませんでした」

「おひとよしなのか、肝が据わっているのか。君と話をしていると力が抜けるな」

「あ、ははは」


 晴藍はふっと柔らかく美しく微笑んだ。


 皇子様だ……。

 こんなにも物語から出て来たみたいな人いるんだ。

 


 玫玫は晴藍と話をしていて、一番聞きたかったことをいつ聞こうかと様子を窺っていた。


「あ、ああの。晴藍様」

「なんだ?」

「黒の終末兵器とは何かご存じなのですか?」

「なぜ、桃のいや……黒の妃である君が興味津々に聞くんだ? どちらかと言えば君は所持している側だろう」

「えっと……私も立場は同じでして。晴藍様、よかったら私と手を組みませんか?」


 玫玫は晴藍の話を聞いていて同じ境遇にハッと思い浮かんだことがあった。


「実は……」


 玫玫は自分が嫁入りした理由を説明した。

 目的は黒の終末兵器を探し出すこと。

 皇帝陛下は探せと王宮内は捜索が可能であること。そして、捜索の協力者がずっと欲しかったことを熱く語った。


「なるほど」

「さすがに、だめですよね……」

「いいぞ。利害は一致している。私は終末兵器が欲しい。玫玫殿は終末兵器の在処が知りたく、捜索の人出が欲しい。それに妃であれば動きやすい。私からしても好都合だ」

「ありがとうございます!」


 玫玫はひょんなことから協力者を得たのだった。

 天に拳を突き上げずにはいられなかった。



 途方もなく虱潰しに探していた玫玫だったが、晴藍のおかげで捜索の速さが各段に上がった。

 晴藍の状況把握の能力と指示出しがあまりにも的確だったのだ。


「まず、終末兵器というからには小型の物であるとは考えにくい。一夜にして国を滅ぼせるようなものだ。小さい倉庫は後回しにしよう」


 そういう風にあたりをつければよかったんだ! 一つずつ見てまわっている場合じゃなかった。


「なるほど、大きい倉庫から見ていくのですね!」

「あぁ、地図の整理は私が行おう。どの方角にどれくらいの倉庫があったか、何が入っていたかを逐一教えてくれると助かる」

「わかりました!」


 玫玫が実際に王宮内を回り、部屋で情報をまとめるのが晴藍の役割となった。



「晴藍様の指示はえっと……」


 晴藍からの指示が書かれた手のひらの大きさの紙を見ながら歩いていると、腕を急に引かれて、転がるようにどこかの部屋に入った。


「んん?」


 目の前にはたくさんの書物が棚に並び、積み上げられている。

文字通り、書物のつまった書庫だった。人、一人通れるような通路で後ろから誰かに抱きかかえられていた。


 しゃらん。


 聞き覚えのある鈴の音がして、玫玫は声をあげた。


「陛下!?」


 ぎゅうっとお腹に回された陛下の腕に力が入っていて、締め上げられていた。


「く、苦しいです。こ、殺す気ですか!?」

「ずいぶん久しぶりだね」

「久しいもなにも、朝食時にお会いしてますが!」

「最近の姫様、朝食後はすぐに部屋に戻ってしまうからゆっくり話すのが久しぶりって話だよ。探しものに精が出ているみたいだね」


 するすると太星は玫玫の袖に指を入れ、手のひらの大きさの紙を抜き取った。


「あ、それは……」


 玫玫が気づいた頃には目の前でかさりと紙が開かれてしまった。


「綺麗な字だね。これ、誰の字?」

「……」

「よく見えないかな。これ、誰の字?」


太星は玫玫の顔に紙を近づけた。


「ワタシノジデス」

「晴藍って誰?」

「……えっと、ネコノナマエデス」


 バクバク。

 心臓が暴れ、手汗がひどい。


「姫様、壺に興味があるんだって?」


 喉を鳴らして唾液を飲み込んだ玫玫は恐る恐る首を傾ける。


「な、なんのことでしょう?」


 太星は玫玫の頬をつまんで外へ伸ばした。


「俺は秘密主義だけど、秘密にされるの好きじゃないんだよね」

「それは横暴なのでは」

「一人で探すんじゃなかったの?」

「うっ」

「会わせてよ。その猫」


 陛下が晴藍様を見たら、殺してしまうかもしれない。

 私の大失態だ。指示を確認した瞬間に紙を食べてしまえばよかった。

 

 玫玫はぐるりと身体を回して、太星と向き合った。


「猫を見ても、それがどんな猫でも処分しないでください! 親元に必ず返してあげてください」

「そんなに大事なんだ、その猫」

「だ! 大事といいますか、高貴といいますか」

「わかったわかった。勢いがすごいな」



 玫玫が部屋の扉を開け、奥の部屋に進むと晴藍はいつものように声をかけてきた。


「玫玫殿、遅かったな。昨日分はもうまとめ終わったぞ」


 返答のない玫玫を気遣い顔をあげた晴藍は分かりやすく固まった。

玫玫は顔のパーツを中心にぎゅっと寄せていた。彼女なりの合わせる顔がないという表情である。

 晴藍の目の前には黒の皇帝である、季太星が立っていたのだ。


「はじめまして、王晴藍殿」

「季、太星……殿」


 晴藍は慌てて床に膝をついて手を組んだ。

それを見て、玫玫は晴藍を守るように身を乗り出して前に立った。


「約束しましたよね、陛下。処分はせずに、親元に返すと」

「姫様はこちらにおいで」

「晴藍様を捕まえるのですか!?」

「あの夜の姫様と同じように話をするだけだよ」

「あの日の夜?」


 太星との夜の思い出は初夜くらいしかない玫玫はあの夜の事を思い出していた。


「あ! 陛下!」


 その隙に太星は床に跪く晴藍の顎を掴んで上を向かせた。

 絵になる二人だなと玫玫は素直に思ってしまった。


「青の皇太子殿自ら、黒への諜報活動か?」

「黒を陥れようとは思っておりません。ただ一つ、無礼を承知でお願いいたします。私の話をお聞き入れくださいませんか……」


 床に額をつけるようにして晴藍は頭を下げた。

 青が、頭を下げるの? 三国でも一番大きくて強いと言われている国の皇太子なのに。


「話を聞こうか」


 太星は近くの椅子に腰を下ろして晴藍の話を聞いた。

玫玫に説明をしたように青の政について、病床の父について、宰相について話した。

 それから、一呼吸を置いた。


「黒の終末兵器をお譲りいただきたい。貸出でも構いません。それを使って宰相を脅し引きずりおろします」


 その話を聞いて太星は玫玫から話を聞いた時と同じように喉を鳴らして笑った。


「晴藍殿」

「はい」

「ふふ、いいよ。見つけてみせてよ。そうしたら貸し出してあげる」


 玫玫は聞き覚えのある返答に頭を抱えた。

 絶対、面白がってる!


「二言はございませんか」

「二言はない。それと、黒の皇帝として晴藍殿を快く迎え入れることは出来ない」

「ごもっともですね」

「けど、姫様がどこからか拾ってきた女の子としてなら王宮内にいてくれても構わないよ。姫様の侍女なら怪しまれないで済むかもしれないね」

「な! 陛下」


 太星は笑顔で言った。


 今、晴藍様に女装して侍女になれと提案したの? あ、晴藍様震えている。怒らないわけがない一国の皇子様に女装して侍女になれだなんて……。


「こ、心得た。その代わり、終末兵器を見つけ出したら必ず貸し出し願いたい」

「わかった」


 唇を噛みしめた晴藍を見て部屋から出ていった太星を玫玫は追いかけた。


「陛下! あんまりではないですか。皇子様に侍女だなんて」

「皇子を保護して、姫様と探しものを許可して、なんて予定調和つまらないだろ?」

「つまらない等の問題ではありません」

「それに、彼、絶対女装が似合うよ」


 陛下は性格があまりよろしくない。

 そして、陛下の言う通り晴藍殿はとても女装が似合った。

どこからか現れた美人な妃付の侍女がいると瞬く間に噂が広がった。

 少し、複雑な気持ちだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ