第五話 人質妃、青の皇子を拾う
終末兵器を探していたはずが……
「今日からは西側の倉庫」
玫玫は悪戦苦闘しながらも東側の倉庫の捜索と地図を作り終え、
今日から西側の倉庫を調べ始めるところだった。
「なにかあるのかな?」
どこから入ろうかとあたりを見渡しているとばたばたと侍女と侍従が走り回っていた。
密かに後を追うとたくさんの物品を乗せた荷車の前にたくさん集まっていた。
「それは西の倉庫だ! そのあたりのものは一度陛下へお見せすることになってる」
侍従たちが手分けして荷車から荷物を降ろし、侍女が数を数えたり箱の中の物を確認したりしていた。そして、それらの荷物を運び込びこんでいる倉庫を見つけた。
玫玫はこっそり侍女や侍従が去ったのを確認しながら倉庫に入った。
「桃のものではなさそう」
倉庫に運び込まれたものを眺めていると突然、荷物の中から物音がした。
玫玫は声を上げ、呼吸を整えてから音の鳴ったほうに進んだ。そこには人が入れそうな程大きな壺があった。
犬か猫かも。
壺の蓋を空けると中には青色の髪の青年が丸くなっていた。
「ひ、人!?」
上等な藍色の装束が血で濁っていた。
つついても反応はなく、意識がないようだった。
玫玫は素手を壺の中へ突っ込んだ。青年の口元へ手を当て、呼吸を確かめた。
「生きては、いるみたい。青の人かな?」
髪色でどこの国の人かを判断した。
顔をまじまじと見ていると大きな声で呼ばれた。
「誰かいるんですか!? 倉庫、閉めますよー」
それは困る! けど、青国の人が見つかってしまったら皇帝に殺されてしまうかもしれない。
玫玫は額を三度、人差指でこつんこつんと叩き、ひとつ閃いた。
「すみません! 手を貸してくださいませんか!」
侍従を呼ぶと驚いたようで素早く床に膝をついて頭を下げた。
「玫玫様!? 何かお手伝いがございますか?」
「この壺を部屋まで運んでくださいませんか?」
「この、壺をですか?」
訝しむ侍従を見て玫玫は深呼吸をした。
何事もないような顔をしてなきゃ、怪しまれる。とりあえず、咳払いをし、姿勢を正した。
「珍しい壺だわ。部屋でゆっくり鑑賞したいのです。陛下からは許可をいただいております」
「玫玫様は芸術的なものにご興味がおありなのですね。噂通り博識であられる」
噂? また陛下が何か言って回っているにちがいない。
「黒には桃では見たことないものがたくさんあって毎日がお勉強です」
「光栄です。黒の民として誇らしい限りです」
侍従は玫玫の謙虚な姿勢に胸を押さえて感動していた。
テキパキと快く壺を玫玫の部屋まで運んでくれたのだった。
「さて」
自分よりも身体の大きい男の人をどう外に出すのが正解なのだろう。
壺を傾けて青年を引っ張り出した玫玫はやっとの思いで寝台に寝かせた。
骨が折れるとはまさにこのことだわ。
血まみれの装束を脱がせ、顔や身体を拭いた。
「綺麗な人。体は傷だらけ、でもよかった。大きい傷はなさそう……軍人にしては細いような」
出血はなかった。
服についてる血のほとんどは青年のものではなさそうだった。
当然、男物の着替えなどあるわけもなく、玫玫は自分の比較的ゆったりした服を引っ張り出して着せた。
「女物だけど、この際仕方ないか」
怪我人の目が覚めるまで玫玫は寝台横の二人掛け椅子に身体を縮ませて寝て過ごした。
青年が目を覚ましたのは二日後の夜明けだった。
「おい!」
肩を揺すられて玫玫は目を覚ました。
「あ、はい」
目の前には青髪の青年が玫玫の顔を覗いていた。玫玫は驚いて飛び起きる。
「うお! びっくりしました」
「す、すまない。驚かせるつもりはなかった」
青年は深々と頭を下げてから袖と丈の短い服を指で弾いた。
「これは君のか?」
「すみません。勝手に」
「よい」
この人の喋り方……青から迷い込んできてしまった一般人ではないのかな。
「君はその髪から桃の者とお見受けする。ここは桃なのか?」
「いえ、ここは黒です」
「黒……」
玫玫は青年にここは黒であること、自分が桃から嫁入りしたことを説明した。
青年は話を聞き終えると床に膝をついて手を組み、頭を下げた。
「お助けいただいたこと、感謝する。私の名前は王 晴藍。青の皇太子だ」
「わ、わわわわ王、晴藍様!?」
玫玫は黒の終末兵器を探していたはずなのに、どういうわけか青の皇子を拾ってしまったのだった。
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