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第十二話 人質妃、急転直下



「……めい、玫玫!」


 晴藍に何度も声をかけられてようやくハッとした玫玫。


「最近ぼうっとしていないか?」

「し、してないです!」

「それで、噂の寵妃様っていうのは見つかったの?」

「あ、えっとそれは」


 玫玫はこの前、真夜中の庭園での事を思い出していた。

 あの日以降、玫玫の頭の中は太星のことで頭がいっぱいだった。


『姫様以外の妃は俺が死ぬまで現れない。今までもこれからも』


 出来損ない、ガラクタとばかり言われてきた玫玫にとって、誰かの唯一の人になれるというのはぼうっとしてしまうほど夢のような事実だった。

 身体はふわふわとしていて微熱があるといっても過言ではないくらいぽかぽかとしている。


「そうだ。王宮内に書庫はないだろうか?」

「書庫、ですか?」

「終末兵器探しが煮詰まっているのは見ての通り。緑で太星殿が言い伝えの話をしていただろう?」

「はい、龍の話でしたね」

「そういう言い伝えが黒には多く存在しているなら、終末兵器も何か言い伝えが残っているかもしれない」

「言われてみれば、黒の歴史は調べたことなかったですね?」

「私は終末兵器という連想から大きい倉庫ばかり気にかけていた。書庫や資料室の場所がわからない。見たことはあるか?」

「書庫、書庫……」


 玫玫は頭の中に王宮内の記憶を引っ張り出した。

 探して見つけたわけではないけれど、書庫に身に覚えがったのだ。そして、それは晴藍の顔を見て思い出した。


「あ!」

「どうした?」

「あります。書庫……陛下が」

「陛下?」


 玫玫は晴藍を匿っていた時に連れ込まれた書庫を思い出していた。



「確か、西側のこの辺りに」


 玫玫は晴藍を連れて記憶を頼りに西側の書庫へ向かった。

 書庫に入るなり晴藍は書棚を見上げて珍しく声をあげた。


「おお! すごい量だな」

「手分けして調べましょうか」

「あぁ、これは楽しみだ」


 晴藍はさっそく書棚から両手で持てるだけ書物を取り出して文机に広げて読み始めた。

 とても生き生きとしていた。

 玫玫もはじめは書物を読んでいたのだが、晴藍が読み終わったものを次々と身体の周りに放置し始めたのを見て整理する役割をかって出た。



 晴藍の読み終えた書物を棚に戻していると侍女が玫玫を呼んだ。


「玫玫様、陛下がお呼びです。至急とのことです」

「陛下が? すぐに参ります」


 書物に夢中になっている晴藍に声をかけ、玫玫は急いで太星の元へ向かった。

 玫玫の到着を待っていたかのように太星の部屋の扉が開かれた。


「陛下、お呼びでしょうか?」

「桃から文が届いた」

「桃から?」

「一応、内容は確認した。姫様へ至急の案件だった」


 玫玫は太星から桃からの文と言われる紙を受け取った。

 見たことのある判が押してあり、父の名大きく記載されていた。

 恐る恐る文を開いた玫玫の顏が青ざめる。力なくだらりと下げられた手から文がこぼれ落ちた。


「母上が、病に倒れた……重篤な状況……」


 膝から崩れた玫玫を支えるために太星は床に膝をついて手を貸した。


「大丈夫か」

「すみません、陛下」

「桃に戻るか?」

「戻れるのですか」

「黒の妃であっても姫様の母は変わらない」

「ありがとうございます……」

「晴藍殿を連れていくか?」

「いえ、晴藍が父や兄に青の皇太子だとバレたら危ないです。私一人で行きます」

「一人で?」

「はい、桃から一人で黒へやってきました。黒から桃へも一人で帰ります」

「俺は明日、緑への視察に行く。その後、桃へ迎えに行く」

「いえ、陛下。大丈夫です。母上の様子を見に行く、だけ、ですから」


 もう何も余裕がなかった。

 ふわふわとしていたはずの身体は緊張でがちがちに固まり、足先そして指先がとても冷たかった。

 生きた心地がなく呼吸すら上手くできていたか、わからない。



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