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24 私を守るもの

大白の少し後に客間へ戻った私は、再び部屋の隅で佇んでいた。

すると、月が私に気づいて、声は出さず口の動きだけで、『大丈夫か』と問うてくる。微笑んで頷いて見せると、安堵したような素振りを見せ、何事もなかったかのように茶に口をつけた。


「当主も戻ってきたところで、そろそろ本題に入るか」


月がそう言うと、他の四人の皇子の雰囲気が、固く、冷たさを帯びたものになる。

その様子に太白と、義母であり麗凛の母親でもある滔麗がたじろいだ。

私も思わず背筋が伸びる。それなのに、全くこの緊張感を感じ取れなかった麗凛が無邪気に笑った。


「私とあなた達の婚約のことね!あぁ皇族に嫁げるなんて夢みたい。それも正妃の座が確約されているなんて!」


うっとりと頬に手を当てる彼女の様子に、白嵐が眉間に皺を寄せあからさまな嫌悪感を示し、女の子が好きだと堂々と言ってのけた玄瑞でさえも笑顔が引き攣る。

月の言葉に対して「私とあなた達の婚約のことね」と、敬語、敬称をつけなかったからだろう。

・・・因みに私がタメ口だったことについてはお許しもらってるから、決して失礼じゃない。決して。

なんなら紅炎が『ほんとは俺らが翠零に敬語使わなきゃいけないんだよな』って言ってたし、『別にわざわざ敬語使わなくてもいいぞ』って月も言ってたからたぶん大丈夫。

あの子は世間知らずなんだよね・・・。私は溜息をついた。


「あのね麗凛────」


「は?」


たった一言だったのに、その低い声を聞くだけで心臓をギュッと握られたようになる。私は不安からなのか、反射的に鱗のあるあたりの生地を掴んでいた。けれど、今更こんなことで怖がっていられないのだ。


「・・・あなたはまだ正式に婚約を結んでいないから、ただの貴族なの。相手は皇族。敬語や敬称をつけて話さないと・・・」


結局尻すぼみになってしまう。そんな私をみて麗凛が嘲るように笑った。


「何?僻んでいるの?それにどうしてそんな上からものを言っているのかしら。たった数日離れただけで自分の立場を忘れた?ほんとお姉さまって頭が足りないのね」


飛んでくる罵詈雑言の数々。とっくに聞き慣れたものだけれど、それでも痛いものは痛いのだった。

・・・っていうか、この場には婚約するかもしれないという相手があるのにいつもみたいに猫被らなくていいのかな。


「おとなしく孫氏に嫁げば見逃してあげたのに。逃げ出したかと思えば馬鹿正直に帰ってくるなんて本当にお馬鹿さんで面白い!

私が皇妃になった暁には一生、たっぷりとお姉さまと遊んであげるわ」


麗凛が今言い放った事は実際に起こることはない。頭ではそうちゃんと理解していたのだけれど、瞬間、私の脳裏には今までの記憶を繋ぎ合わせて出来た恐ろしい光景が駆け巡った。

・・・大丈夫、大丈夫だから。絶対に彼女が言うようなことにはならない。大丈夫。

そうやって自分に大丈夫だと言い聞かせてみるけれど、ぐるぐると視界が回っているようで、足がふらつく。

・・・怖い、痛い、痛い、痛い・・・嫌だ、やめて。


「あ・・・」


喉が引き攣ってうまく言葉が出なかった。

彼女は離れに来て暴力を振るうとき、必ず『お姉さま、麗凛と遊びましょ?』と笑いながら言う。どこまでも屈託のないその笑顔がずっと怖かった。そうやって強張っているうちに、いつも私の周りのものはどんどん壊れていく。奪われ、踏み付けにされ、消える。

麗凛が皇妃になってしまったら、どこまで悪化するのか。

ほんの少しでも、そのことを想像してしまったせいで、私の精神は酷く不安定になっていった。


「────大丈夫。落ち着いて、ボクの音だけ聞いて」


「っ‼︎」


「あいつが言っているような事にはならない。ボクが絶対そんなことさせない」


・・・この声は、白嵐くんだ。

思わず白嵐くんの方を見やると、彼は素知らぬ顔をして目を閉じている。そして、いつものように口元を隠していた袖口を下げると、目を瞑ったまま微かに笑った。


「力が漏れてる」


「‼︎」


ハッと息を呑んだ。金龍の力が漏れていることに驚いたからではない。

耳に届く声は確かに白嵐くんのものなのに、彼の口元は微笑みを湛えたまま一切動いていなかったのだ。白嵐くんは自分の口からは一言も発さずに、私に言葉を届けたということになる。

・・・もしかして白虎の力を使った術の一種なのだろうか。


「落ち着いて、深呼吸をするんだ。今の段階ではボクくらいにしか感じ取れないほどしか漏れていないけど、あと少し漏れ出れば、月たちにも感じ取れるようになる。そのまま無意識のうちに力を放出し続ければ、一般人に毒となる」


この屋敷には、一部だけど忌子の私にも優しく接してくれた人がいる。その人たちにまで害を及ぼすのは望んでいない。

素直に何度か息を吸って吐いてを繰り返していると、気分が徐々に落ち着いてきて、頭の中に冷静な部分が戻ってきた。

・・・大丈夫。白嵐くんの言う通りだ。私にはもう味方となってくれた人がいる。例え、月たちが麗凛に靡いてしまったとしても、金龍がいる。本人のいないところで酷いことを言ってしまったけど、鈴花だっている。

私を守ってくれる()()()()()()は、ちゃんといる。

麗凛なんかのどこが怖いと言うの。

猫も、鈴花も『私と関わったから傷ついた』んじゃない。『麗凛が傷つけた』んだ。


私は『番』だ。唯一の金龍の愛子。怖いものなんて、ない。

一人ぼっちだと思っていた私は、ずっと一人じゃなかったのだから。

辛いと感じたならば、怖いと感じたならば、誰かに助けを求めたっていいのだ。


「────助けてよ、()()


溢すように呟いた途端、痣が急激に熱を帯びた。

しかし、燃えてしまうような灼熱の熱さではなく、日の光のように暖かくて、柔らかい。

熱はゆっくりと全身に広がり、凍ってしまった心を溶かしていくようだった。

・・・私の中に金龍がいる。はっきりとわかる。今、私は守られているんだ、と。


顔を上げろ。

前を向け。

先へ進め。


二度と、俯かないために。

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