20 二人の企み
「契約成立だな」
私はそう言って差し出された契約書を持つ。
あのあと詳しい説明を聞いた私は契約書を作ってもらった。
…うわぁ、詳しくない私でもわかる高級な紙だ。そんな雑に差し出していいもんじゃないよ。
蒼風が覗き込んでくる。
「問題ない?」
「うん」
あの場で即興的に蒼風が書いたものだから少し心配だったけど、思ったより普通のちゃんとした契約書だった。
私が頷くとそれを見届けた月がうーんと伸びをした。
「なら、翠零の実家に行かないとな」
「は?なんで?」
咄嗟の話に言葉遣いが荒くなってしまう。
これからその実家と離れるための契約をするってのに何故実家に戻らなければいけないんだ。
「なに、少し挨拶をするだけだ。
…少しな」
そういうと月はいたずらっ子のようにニッと口角を上げた。
◇◇◇
「つまり、お前の実家に仕返しをするってことだ」
「はぁ…」
揺れる馬車のなか、私は呆れたように息を吐く。
ちなみにまたぎゅぎゅう詰め。
無理に決まってる、というのが私の本心だった。
「何故だ?お前はあの者たちが無様に慌て絶望する姿が見たくないと?」
「なんか性格悪くない?そりゃ見たいかどうかで言ったら見たいけども」
「だろう?てことで俺たち考えたんだ」
身を乗り出した玄瑞の話はこうだった。
「今君の家に向かっているだろう?実はその前に使いを出していたんだ。そちらの娘を我ら5人の婚約者に迎えたい。5人のうち一人が王になった暁にはその娘を妃にしよう。援助もしてやる、という内容でね。」
「え、援助ってそれじゃあ!」
「もちろん払う気はないよ?だからこういう条件を付けたんだ。」
蒼風が引き継ぐ。
「ただ、もらいうけるのは現在誰とも婚約していない娘。
そしてその娘というのは君のことだ。」
「え?」
「君、孫氏と婚約していたんだろう?
その婚約ちょっと調べてみたんだけどね────。
どうも、元々君の妹さんの縁談だったそうなんだ。
もちろん、君の両親は愛娘を好色親父になんて嫁がせたくない。
そこで身代わりとして君が挙がったんだと思う。
実際、婚約契約書には君の妹さんの名前で載っていたしね。」
「そうだったんだ…」
はじめて知った真実に私の心はさらに沈む。
…もうあいつらに落胆なんてしないと思ってたけど、
やっぱりまだどこかで期待してたのかな。
「ま、そういうことで紙面上、婚約していない娘は君だけだ。
────そこを突くんだよ。王族に虚偽を述べたということで、援助は取り消し、それどころか、君の家族は遠くの辺境にでも送らせる。
復讐もできるし、番と婚約できるし、無駄なお金使わずに済むし、領税誤魔化した奴の厄介払いもできるし。」
「領税誤魔化してたの⁉︎あいつら!」
にっこにこで指を二本立て突き出す蒼風に勢いよく食いついた私。
領税とは、領地が領民から回収した税金を国に収める税金のことだ。
それを誤魔化すのは結構な大罪だ。なにせ、国民が毎日汗を流して働いて得たお金を勝手に懐に入れているのだから。
信じられ無い。たしかに、幾らかは領の運営に回されるから金額は少なくなるけどさっ…!
「まさに一石二鳥なんだよねぇおれたちは。
いや一石四鳥かな?」
「いやぁ、結構巧みに隠されてたから証拠集めにかける僕らの時間が無駄でしょうがなくて。やったね玄瑞」
ははは、と笑い飛ばす玄瑞と蒼風。
後から聞いたけど、国のお金の管理は玄瑞と蒼風に任されているところが多いんだそう。
もう、あいつら、本当に救いようないな…。
するとポンと肩に月の手が置かれた。
「お前が気に病むことはないし、三分の一くらいあの二人の私怨が混じってる。…絶対に成功すると思うぞ俺は。というか、絶対にうまく行かせる、だな。うん。
なんにせよ叩けばいくらでも埃は出てくるんだ。
俺たちに任せておくといい」
少し顔をひきつらせた月だったが、その目にあるのは信頼だった。
…なら、私も任せてみよっかな。




