01 はじまり
1話目です!
今回から主人公視点の語りになります。
扉の隙間から朝日が差し込み、私に朝が来たことを知らせる。
私は憂鬱な気分で起き上がると、侍女を呼ぶこともなく、一人で布団を片付けた。
人気のないこの離れで働く侍女は一人もいない。
「水・・・汲みに行こう」
まだ重い瞼を擦りつつ寝巻きのまま離れの入り口から外へ出る。
私は母家の井戸を使うことを許されていないから、
離れの裏の庭にある井戸に汲みに行かなければならない。
駆け足で井戸に辿り着く。
「んっしょ」
組んだ水を持って離れへと戻ると、私しかいないはずの離れには人がいた。
「ーっ!」
まさか、と過ぎった想像が私の足をすくませた。
しかしー
「あら、姫さまおかえりなさいませ」
「…鈴花」
ホッと息をつく。それと同時に張り詰めいた糸が途切れ、私は戸を背にして崩れ落ちた。
「あらあら、大丈夫ですか、姫さま?」
鈴花は私の顔を覗き込んできた。
鈴花はずっと昔からこの家で働いてきた侍女で毎日老体に鞭打って暇を見つけてに私の面倒を見にきてくれる。
母や父に唯一意見できるのも鈴花だった。
「姫さま!水汲みなんてやらなくてよろしいのに」
「鈴花最近腰を痛めているでしょ?知ってるわ」
すると鈴花はまぁ、と目を見開いた。
「誰も気が付かなかったのに…。流石姫さまでございます。」
確かにそう言いながらキビキビ動く鈴花は腰を痛めている老婆には見えない。
けれど端々に庇うような動作が見える。
…こんな簡単なことも気づかないなんて、周りの人間は何をしているのかしら。
すると鈴花は、はぁ、とため息をついた。
「これだけ気遣いもでき、優れ賢い姫さまを閉じ込めておく理由がわかりませぬ。
たかが痣如きであそこまで騒いで離れに追いやる必要はどこにあったのでしょうか。」
私はその言葉に苦笑いを浮かべた。