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16 幸せな瞬間

先週投稿できなくてすいませんでした!

明日もう一話投稿するので許してください!

「月…」


「落ち着け、翠零。

このままだと、お前のチカラも尽きて死ぬ。

ゆっくり深呼吸をするんだ。

目を瞑って一番幸せだと思った瞬間を思い浮かべろ」


チカラの渦の中から見えてきた月の顔は蒼白で額には脂汗も浮かんでいる。コフッと月の口の端から血がこぼれた。

…私の暴走したチカラに当てられたせいだ。

けれどその顔は、自身の苦しみではなく、私を心から心配する想いで歪んでいた。

月は私に目を瞑るよう促すと優しく私の背を叩き始めた。

刻まれる拍子と共にひぃ、ふぅ、みぃ、と静かに数える声を聞いて、私は閉じた瞳が潤むのを感じた。

一番幸せだと思った瞬間。きっとそれは今この瞬間だろうな、と心のどこかで思う。

私のことを只々心配して自分の苦痛さえ無視して飛び込んできてくれた。

それが、嬉しい。泣くほどに、嬉しい。

先程とは段違いの速度で渦が収まっていく。

やがてシュウゥと音を立てて渦は完全に消え去った。


「よくやった翠零」


「月…。皆も、ごめんなさい」


「大丈夫だ。誰にだってある」


青かった皆の顔に血色が戻ってくる。紅炎がふーっと息をついた。


「はー。久しぶりだったな。喰われかけの奴のチカラを浴びるのは」


「そうだねぇ。3年前の月以来だ」


「月が?」


紅炎と玄瑞が溢した言葉に私は目を瞬く。


「あー、月は昔よく喰われかけたんだよな。

こいつ『皇帝と正妻の間の皇子』と『候補者』っつー立場上よく周りの人間が死んだり、死ぬまで行かなくても失踪したり、死に準ずる程の精神状態になったりで結構月自身も不安定な時期があってな」


「事あるごとに喰われかけたんだよねー。よく巻き込まれたなぁ」


カラッと玄瑞は笑う。…笑えるものなの?

すると蒼風はかいた汗を拭うように前髪をかき上げる。

うーん、やっぱり蒼風の行動には品があるね。どこかのガキとは大違いだ。


「…あんだよ」


「いえ、特に何も」


紅炎、勘はいいんだね。

蒼風がため息をついた。


「一番酷かったのは3年前の月の乳母が殺された時だったな。あれは本当に死人が出るかと思ったね」


「すまないな。でもお陰であれ以来喰われてはいないだろ」


「僕はもう嫌だ。月はチカラが5人の中で一番強いんだから」


基本喋らない白嵐くんもそう言ってる。

…きっと候補者よりもチカラが強い番のチカラを真っ当に受けたからみんなもかなり辛かったはず。

白嵐くんの着物や彼がいた床にも拭ききれなかった血の跡が残っているくらいだから。


「白嵐なんかはよく死にかけてたよな。お前はそういうチカラに敏感だから。」


「えっ?そうなの?」


「なんでサラッとばらすかな」


白嵐くんは口から垂れてきた血を拭う。

そして私はどんどん青ざめていった。


「本当ならアンタといるだけで結構辛いんだ。もう少しチカラを抑えこむ術を学んだほうがいい」


「本当、ごめん…」


「いい」


自己嫌悪に陥る私にそれだけ言った白嵐くんはまた袖で口元を隠してそっぽを向いてしまう。だから、白嵐くんの居たところや服には血がついていたんだ…。


「…私のせいだ」


瑞湾さんはまだ目を覚さないし、皆も疲れた顔をしている。白嵐くんに至っては一番離れていたのにも関わらず吐血をした。月は私を止めるためにチカラが一番強くなっている場所へと飛び込ませてしまった。

もっと、もっと感情を抑えれば良かった。『喰われること』についての説明もあったのに、私は自己への甘えからそれが出来なかった。

全部、少し考えればわかったはずなのに。


「そうだな」


月に肯定され、私はますます落ち込む。

しかし月は俯いた私の頭を軽くポンと叩いた。


「だが、先程も言ったように『喰われる』ことなんて誰にだってある。ここにいる奴らは最低でも二回以上は喰われかけているしな。

…俺自身、自分の制御がうまくできなくて何度もアイツらに迷惑をかけた。でも、それでいいんだ。

たった5人。されど、魂で深く繋がった5人だ。

迷惑上等。何度だってお前を正気に戻してやる。絶望なんてさせない。

そもそも、翠零が喰われそうになるまで絶望する要因を作ったのも俺たちだ。

…だから、自分一人のせいだなんて、背負い込むな。」


ぽと、と一粒の涙が溢れた。それは着物に落ちじんわり広がってしみをつくる。


「ありっ、がとう…っ」


涙で視界がぐちゃぐちゃで、多分私は今凄く酷い顔をしているはず。

でも、月の微笑んだ顔だけは、はっきり見えた気がした。


◇◇◇


「そういやさー、なんで翠零は家出したわけ?」


しばらく経って落ち着いた私は、茶卓の上のお菓子を摘む紅炎の言葉を聞いていた。

ちなみに随湾さんは少し前に目覚めて、泣きじゃくる私に戸惑いつつも、お詫びのお菓子を持って帰っていった。家で待つ娘さんがお菓子が好きなんだって。


「あー、それね。俺たちも気になる」


結構寛いでいた玄瑞も身体を起こす。月は聞く姿勢に入っているし、蒼風は、静かに何やら書き留めているけれど、チラチラこちらを見ている。

…で、白嵐くんはと言うと────


「すー…すー…」


「ね、寝てる」


そう。絶賛お昼寝中。寝顔かわいすぎかよ。天使か?口を開けば小鬼のごとく毒舌だけど。


「さっき、お前のチカラを受けたからだな。器がうけた負荷を癒すために寝ている。器が弱いんだコイツは」


「うぅ…本当にごめんね白嵐くん。」


「おら泣くな泣くな」


またうつむきかけた私の口に紅炎が乱暴に茶菓子を突っ込む。

…うま。


「ふぁいてふぁい(泣いてない)」


「なんで言ってっかわかんないから喋んな」


私は茶菓子を飲み込むと口を開いた。


「えっと、私が家出した理由だよね確か。

…私は生まれつきこの痣を持って生まれた。でもこの痣、はっきりしすぎてるでしょ?そのせいで鬼の子、忌子って言われて虐げられていたの」


皆はポツ、ポツと話す私の言葉に耳を傾けている。

…一人を除いてね?


◇◇◇


「────…だから私は神社へと逃げ込んだの」


私が話し終えると皆悲痛な面持ちで俯いていた。


「お前が、なぜあんなふうに言ったのかがよくわかった。虐げられていたこと、結婚が嫌で逃げ出したことは粗方調べがついていたがなかなか詳しいことは分からなくてな…」


「なんか、ごめんな翠零。確かにそれで、あんなこと言われたら怒るわ」


ふむ、と思案顔をする月と申し訳なさそうにする紅炎。


「別にもういい。きっとあなたたちにとってはそれが私にとって最善だと思ったのでしょう?

…あなたたちの周りの女性は皆そうだったから。」


そういうと月は気まずそうに目を閉じた。


「…本当にすまなかった。俺たちはやはり何処かで自分達以外の人間は皆愚かで浅ましいものだと思っていたのかもしれない。」


仕方がないと思った。実際にこの5人に近づく人間は大抵そう言うものだったのだろうから。

自分の立場や名声のために人を利用しようとする卑しい人間たち。

そんな人間が周りにいる環境で育ったらそう思ってしまうものなのかも知れなかった。

また一段と重くなる空気。

そんな中蒼風がゆっくりと口を開いた。


「君のことはわかった。

そして君には番と言う名の大きな運命がある。

そこで今一度問おう」


穏やかで落ち着いた声音。だけどその言葉に含まれる真剣さに私の背筋は自然と伸びた,


「…翠零、君はこれからどうしたい?」


その口から出たのは案外簡素な言葉。

けれど私には今まで一度も示された言葉ではなかった。

月や蒼風、玄瑞、紅炎までが私の言葉に真剣に向き合おうとしているのがわかった。

私は少し考えてから口を開く。

もう答えは決まっていた。


「…私は────」

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